書けないとは何か

何を書いたらいいかわからない。とあなたは言う。ぼくも言う。みんな言う。

感想に何を書いたらいいのかわからない。そうですね、わかりますよ。めっちゃわかる。ぼくも本文に何を書いたらいいのかさっぱりわからない。

しかし素晴らしいものはあった。今までここにあった。書こうとしたら消え失せてしまったが、みんなが喜んだり楽しめたりするような素敵なことを伝えようとしていたのだ。

そもそも書こうという動機は素晴らしいものがあるからだ。これを伝えなければいけないと思う。伝えることが自分に課された義務だと思う。また、この素晴らしさを最もよく伝えられるのは自分だと思う。思い上がりかもしれないが、本当にここに素晴らしいものがあって、それを自分は人よりかなり理解できている。だから書きたい。書かなければ。伝えなければ。

そして書けない。

書けないわけではないが、思っていたふうには書けない。これじゃ伝わらないと思う。もっと良い方法を考えなければいけないと思う。何も思いつかない。

何を書いたらいいのかわからない。

だから、書けないのは、書きたいと思ったからだ。

自分にしか書けないことがあるから書きたいと思うのに、自分にしか書けないようなことは今まで誰も書いてこなかったがゆえに書くことがひどく難しい。書きたいと強く思えば思うほど書くことは困難になる。自分だけが歩けると思っている人がいたとしたら、その歩行はとても難しいに違いない。

結局陳腐なものに堕してしまう。本文もそうだ。感想もそうなのだろう。

ああ、本当はもっとよくすばらしくすてきに伝えたい。これじゃ伝わらないかもしれなくて申し訳なさが募っていく。あんなに輝かしいものがあったのに。うまく伝えたいと思っているのに。この感動は本物なのに。伝わっていますか？

知っている。伝わらなかった。何も伝えられなかった。ただ、伝えたいと思ったことだけを伝えることができる。届けたいと思ったことだけが伝わった。愛が直接伝わることはない。愛を伝えたいと思ったことだけが伝わる。

書きたいと思うほどに書けない。書けないと思っていては書けない。書けないほどに書きたい。きみに伝わるわけがない。きみにだけは伝えたい。

一番上手に伝えられるのは自分だという翼をへし折られながら飛び立って、美しくはないけれどきみの前に到着する。したいと思う。思っている。願っている。