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淳子次郎

タイBー6

 朝六時に目が覚めた。布団の中まで雨の音が聞こえていた。アユタヤのホテルから出発し、一日アユタヤ遺跡を散策する予定だったけれど、どうやら今日は濡れなくてはいけない運命みたいだ。雨の中自転車をこいでる人なんて、いるのかな。疲れちゃうだろうな。今日は早く起きたけれど、もう少し寝てしまおう。ゆっくりしたい。



 再び目覚めると十時になっていた。ロビーに降りると、宿主が頬杖をつきながらテレビを観ていた。雨だと、腰が重くなるものよね。


 アユタヤの街って、具がよっちゃったお弁当みたい。町の東側には、鉄道が通り、商店が建ち並んでいるけれど、西側は遺跡ばかり。遺跡と遺跡の間にあるのは芝生の公園か林。西側はスカスカだ。東と西では、時間の流れ方も分かれているような気がする。


 遺跡の周りを自転車でこぎながら、バンコクで感じた嫌な匂いを感じないことに気がついた。やっと、私の楽しみにしていたタイに来られたんだな、と思う。バンコクは騒がしすぎる。人が生きるために必要でない物ばかり。アユタヤだって、王朝があったのだからかつては賑やかだったのだろう。でも、今はこうして静かに地面に還るのを、ただ待っているだけだ。時が経ってバンコクも過去の街になったって、きっと地面には還れない。鉄とコンクリートの街は、何にも戻れない。


 ゆっくり遺跡の周りを走っていたら、自転車に乗った女の子2人組にぬかされた。縦に並びながら、大声で会話していた。危ないなぁ。でも、楽しんだろな。遺跡にいる仏様達に守ってもらえるといいね。心の中で声をかけた。


 アユタヤの寺院を見て、一番驚いたのはその高さだった。今は、もっと背の高いビルはいくらでも建つけど、当時はこの仏塔が辺りで一番高い建物だったと思われる。きっとこれを見た人は第一声ぎょぇぇ!と言ったに違いない。あと500年して人間が滅亡していなかったら、今世界で一番高い建物の、10倍くらい高い建物が建つのかな。あり得るよね。
 人間って凄い。

 

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(タイBのあとがき)

 自分の感想を書いた場面と同じ場面を他の人が経験したらどう書くのか想像して作文にしようとした。でも、本人目線にしてはわざとらしくなってしまった。まず、動機がないのに他人の口で語ることに、モチベーション的に無理があった。本当は、自分の作文の内容と、Bの内容が絡むように交差するように書きたかったのだけど、そこまで計算して書くパワーがなかった。小説を書く難しさを思い知った。反省。

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