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グレートウォールはB級映画か

さて今日紹介するのは2016年中米合作の歴史アクションモンスター映画「グレート・ウォール」

監督はかつてはアジアNo.1映画監督ともされた巨匠チャン・イーモウ。はじめてハリウッド資本やマット・デイモンなどハリウッドと組んだ画期的な映画でスタッフも半分中国半分ハリウッドというかなり異色なものだったようだ。

だが、どうも日本ではB級バカ映画の扱いを受けあまりヒットせずに終わってしまった。

その気持ちもわからなくはない。

舞台は北宋時代(960年 - 1127年)。万里の長城が舞台なのだが、冒頭の導入部分で万里の長城が作られた経緯が語られる。教科書的には北方異民族からの防衛であるはずだが、「饕餮(とうてつ」という名前で呼ばれる恐竜みたいな化け物が北からやってくるので建てたと異聞録を説明される。

トウテツ。なんか恐竜っぽい・・

この饕餮というのは、中国古代の代から代なんかの青銅器などに紋様として残っている神話の怪物。名前の意味は「食い物も金目のものも食べてしまう」という強欲の権化のような意味らしい。

強欲な割には、群れ方はよく統率されているぜっ。

歴史映画だと思いきやいきなりモンスター出ちゃったことに驚く暇もなく、次は北宋の守備兵隊「禁軍」の登場。いでたちがすごい。

昭和のタカラトミーか!

ブリキのおもちゃくらいカラフルで当時は聖闘士星矢のパクリと呼ばれてしまった。さらに防衛のための兵器も変わっている。

禁軍の花形「鶴軍」

FF(ファイナルファンタジー)の竜騎士さながら長柄の槍を持って、命綱をつけて空中攻撃を繰り出す「鶴軍」や、ありとあらゆる工作ガジェットでワクワクさん並みのアイデア溢れる「虎軍」、モンハンのチャージアックスばりに刃付きの盾を投げて攻撃する「鹿軍」、特にあとはひねりもなく弓の「鷹軍」と歩兵の「熊軍」の5軍からなる。

まあおそらくこう言ったファンタジーすぎる歴史やモンスターが出てきちゃうという部分、どことなく既視感があるのもハリウッド資本をかけたくせにトンデモB級だなあという感想になってしまったものと思われる。(しかたないね)

しかしもう少し真面目に映画の要素について分解・分析してみたい

ペロの剣

初見で見た時にマット・デイモン演じるウィリアムと、ペドロ・パスカル演じるペロの白人コンビなのだが、
なんとなく「ヴァイキングの人かな?強ーい」くらいで深くは考えていなかった。

北方の野蛮人ゔぁいきんぐ。(北方ゲルマンのノルド人)

しかしである。
よくよくペロの背負っているを見てみると、これみようがしなあの印に気が付く。(本編中3,4回出てくる)

そう十字架。野蛮人のヴァイキングが十字架を背負ってるのはなんだか変である。死体剥ぎで略奪したものかもしれないが、それだとわざわざこんな目立つようにするほどの意味がそもそもないのである。
というかセリフをよく見てるとヒントがある。

ハロルド2世(イングランド国王)
フランク王国(フランスの前身)
ローマ・カトリック

こういうことを踏まえると、単なるヴァイキングの戦士というだけではなく、西ローマ勢力でキリスト教化されたカトリックの人物、ゲルマン系がアングロサクソンとなり、キリスト教と融合していく流れであると言えそうだ。
そして「法王のためにも」と言っているのは十字軍(第一回1096年)の参加者だったのではないかということが透けている。その時につかってたペロの剣ではないのだろうか。

歴史的にはこの後西ローマはビザンチン帝国に対抗して神聖ローマ帝国、つまり今現在我々がよく知る「ヨーロッパ」への道を歩んでいくわけだが、そう言う意味では彼らは典型的な「ヨーロッパ人」ぎり直前の人とも言えそうだ。

黒色火薬

本編では、このヨーロッパ直前マンの2人が黒色火薬を求めて中国宋まで放浪しているという設定になっている。しかも誰からかはわからないが勅命を受けてのことだ。黒色火薬は北宋発祥ということが歴史資料に残っているそうだが、ヨーロッパへの伝播の経路はよくわからないらしい。ルネサンス期にはもう伝わっていたとのことなので、この辺を脚色したのだろう。

グレートウォールとは何の比喩なのか?

さて物語の構造を見ていくと、構造自体はとてもシンプルだ。饕餮という外来の化け物と戦うために始皇帝が建造した「壁」。
この壁でヨーロッパ人直前マンと中国人が出会う。
最初はカルチャーの違いで、金のため、自分のために争うヴァイキングと、国のため仲間のために命はいつでも捨てるという中国人の間に心の壁がある。

しかし饕餮によって万里の長城という壁が壊された時、中国人とヨーロッパ人が共闘し、心の壁もなくなる。

そして最後はヨーロッパ人が火薬を手に入れて帰るという文化の交易が成り立つ。

つまり「壁」とはアジアとヨーロッパ間の壁を意味し、この映画の筋書きは国際交流、国際協調で終わるのだ。

チャンイーモウ監督という人

チャンイーモウは、実はこの映画から遡ること8年前に北京オリンピック開会式閉会式の総合演出を担当している。また2018年にはG20でも演出を担当している。
その事を考えると、実はこのカラフル甲冑5軍団というのは「五輪・オリンピック」をイメージしてるんじゃないのかと思えてくる。

飛び込み競技?

鶴軍は飛び込み台であり、鹿軍は投擲系種目、鷹軍はアーチェリー、なのではないのかという気がしてくる。
国際的な平和の祭典であるオリンピック同様、この映画が中米合作であることも踏まえた国際交流そのものをテーマに持ってきているのではないかと思えてくる。

どうだったろうか。何となくそんな気もしてこないだろうか?

まあだからといってB級には変わらなくない?と言われたら別に強く否定できるものでもないかもしれないけども、映画というのは色んな事を考えながら見てみるものだと思うのだ。

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