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自己免疫性GFAPアストロサイトパチー(岐阜大学ホームページより)


自己免疫性GFAPアストロサイトパチーとはどのような疾患ですか?

自己免疫性GFAPアストロサイトパチーは、2016年に米国のMayo clinicのグループが、アストロサイトに 豊富に発現する中間径フィラメントの1つである、Glial fibrillary acidic protein (GFAP)に対する自己抗体(GFAP抗体)を有する髄膜脳炎・髄膜脳脊髄炎を報告し自己免疫性GFAPアストロサイトパチーと命名したことにはじまります1)。その後,世界各国で同様の症例が報告され,本疾患が国際的にも認知されることとなりました。本邦では,2019年に我々のグループが,国内で初めて14名の患者さんを発見し報告しました2)。その後2023年12月までに国内で267名の患者さんを診断しております。

どのように診断しますか?

本疾患は,患者さんの脳脊髄液中において、免疫組織染色(図1)およびGFAPαをHEK293という培養細胞に発現させて行うCell-based assay(図2)の両者でGFAP抗体を確認することにより診断いたします。

発症頻度はどれくらいですか?

米国Olmsted Countyにおける有病率・年間発症率の報告3)では、有病率:0.6人/100,000人(2014, 1, 1時点)、年間発症率:0.03人/100,000人・年(1995-2015)と報告されておりますが、日本国内における患者数は不明です。

患者さんの特徴はどのようなものがありますか?

国内267名の検討では,男性が69%と多く,年齢の中央値は55歳でした。2歳から89歳まで患者さんが存在し,小児から高齢者まで幅広い年齢層で発症する疾患です。多くの患者さんは,本疾患と診断される前は,原因不明の髄膜脳炎・髄膜脳脊髄炎,自己免疫性脳炎と診断されていました。

症状はどのようなものがありますか?

多くの患者さんは,発熱・頭痛・全身倦怠感を初発症状とし,約2週間程度で意識障害・排尿障害・起立歩行障害・手足のふるえやピクツキなどをみとめます。国内152名の患者さんの経過中にみられた神経所見を示します(図3).時に視神経乳頭浮腫を認めることがあります(図4)。また呼吸障害をきたし人工呼吸器管理を必要とする患者さんもいます。

どのようにして検査しますか?

一般的な血液検査に加え,脳脊髄液検査とMRI検査が必要です。血液検査では低Na血症を認めることがあります。脳脊髄液検査では,GFAP抗体が陽性となります。ほとんどの患者さんで単核球優位の細胞数と蛋白量の上昇を認めます。

MRI検査では,頭部MRIでは,大脳・脳幹・小脳などにT2強調画像・FLAIR画像で高信号変化をみとめることがあります。また頭部造影MRI検査では,約半数の患者さんに側脳室周囲に放射状に拡がる線状の造影病変をみとめます(図5)。脊髄MRI検査では,脊髄の中にT2高信号変化を認めることがあります(図6)。視神経脊髄炎との鑑別が必要になることがあります.脊髄造影MRIでは,脊髄の中もしくは髄膜に造影効果をみとめることがあります(図7)。

どのようにして治療しますか?

現時点においてエビデンスが確立して治療法はありません。ただし国内外ともに多くの患者さんで免疫療法が行われ効果がみられています(表1)。具体的には,ほとんどの患者さんでステロイド治療が行われています。一般的にはステロイドパルス療法といってメチルプレドニゾロン1,000mg/日の点滴を3日間連日で行います。十分な効果が得られなければ,追加して行うことがあります。ステロイドパルス療法が終了した後は,同じステロイドの内服薬であるプレドニゾロンを,通常1mg/kg/dayで開始いたします。その後もしばらく内服を継続し,症状をみながら半年以上かけて徐々に減量いたします。ステロイド治療だけでは不十分な患者さんや,副作用の面などからステロイド治療が施行できない患者さんも存在します。そのような患者さんでは,大量免疫グロブリン静注療法(IVIg)や血液浄化療法,リツキシマブの点滴治療などの治療法が選択される場合もあります。また呼吸障害を合併することがあり,国内症例の検討では,人工呼吸管理を13%に必要としました。再発を繰り返す場合は,アザチオプリンなどの免疫抑制薬を使用することもあります。ただしこれらの治療は全て保険適応外で,有効性に関しても大規模試験で確立したものではありません。

免疫療法の効果はどれぐらいですか?

急性期は,重症な患者さんが多く,免疫療法により多くの患者さんは改善いたします。ただし,国内症例の検討では,3割の患者さんは最終観察時に日常生活に何らかのサポートを必要としました(図8)。時に長期入院を必要とし,入院日数の中央値は51日(範囲0-375日)でした。

長期予後と後遺症はどのようなものですか?

自己免疫性GFAPアストロサイトパチーの長期予後は,明らかにされていません。発症後6か月以上を経過した国内症例の検討では,2割の患者さんは日常生活に他人の介助が必要なmRS3以上でした。また,約6割の患者さんが何らかの神経症候を合併し,主な後遺症は,排尿障害と認知機能障害でした(図9)。また予後に関連する因子を検討したところ,高齢者,発症から治療開始までの日数が長い患者,脊髄MRIで異常所見がある患者,痙攣を合併した患者では,予後は悪いことが明らかとなりました。

原因は何がありますか?

自己免疫性GFAPアストロサイトパチーの詳細な病態機序は明らかにされておりません。GFAPに特異的に反応する細胞傷害性Tリンパ球が関与している可能性が推測されていますが,実際の患者さんの体の中では確認されてはいません。患者さんの脳脊髄液の中で,TNFαやIL-6などの炎症性サイトカインと神経細胞・グリア細胞が障害された時に上昇するneurofilament light chain,GFAP,S100Bが上昇し,両者が相関することが確認されておりますので4),これらのサイトカインも病態に関与しているものと推測いたします。また最近,患者さんの脳脊髄液中のCXCL10, CXCL13, CCL22などのケモカインが上昇することが報告されており5),これらのケモカインも病態に関与している可能性が推測されております。現在研究班では,自己免疫性GFAPアストロサイトパチーの病態機序の解明と,治療法の確立を目指して研究を継続しております。

最後にこの情報のリンクを添付します

この病気が解明され、苦しむ人が少なくなると良いですね。

以上です。