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エンターテイメント。


タイに行ってきた。

日本からタイまで飛行機で7時間ほど。
海外旅行の荷物は極限まで減らしたい族なので、イヤホンも本も持たずに飛行機に乗り込んだ。
そうして迎えたフライトは予想通り、いや予想以上に絶望的な暇さであった。
そんな中できることといえば、人間観察と考え事と睡眠。

周りを見渡すと、予めダウンロードしてきた映画を見ている用意周到なしごできたちがチラホラ。
見られている映画のジャンルは見る限り、ヒーローもの、アクション、SF。どれも私も見たことのある作品だった。


確かにこういう時ってあんまり余白の強い作品は見ないよなぁ。
私ももし同じ状況で映画を見るとしたら、旅行という超ハッピーイベントを控えているわけだし、どちらかというと"情報が完全に出揃っていてそれを楽しむ"というスタイルが叶う作品を選ぶだろう。

余白の強い作品、つまりどう受け取るか何を感じるかがこちら側にかなり委ねられている作品というのは、それはそれでとても充実した鑑賞体験にはなるものの、思考した分疲弊したりする。またその疲弊も精神の充実に繋がるのだけど・・・。


あ、言っておきたいのが、これはどちらが良いとかいう話ではないということ。
私はフライト中でなくてもそういった楽しめる作品は好きだし、一方で余白の強い作品も好きでよく見るし、それぞれ存在意義があると思う。


そんな感じで、暇すぎた機内でちょっと考えた。

多くの人が旅行前のフライトをさらに楽しませてくれるような、エンタメ性が高いともいえる作品たち。
ここ数年そういった作品による多様性を意識したクリエイティブやプロモーションが増えているが、その度に「ポリコレに屈した」やら「コンプラ(笑)」やら言う人がわんさか出てくる。

思うのだが、あの手の意見が美術であったり先述したような余白の強い映画に対して言われることって比較的少なくないか。
なんなら美術に関しては社会的なまなざしを受けることの方がよくあるような。

私の肌感、屈した系意見はいわゆる“エンターテイメント”という言葉で集約されがちなコンテンツに対して言われることが殆どなのではと思う。

それでいうと、映画(特にエンタメ性の高いもの)、音楽、ドラマとか。
日本の音楽やドラマに関しては社会的なメッセージを発信するハードルがより高いような気がする。


みんな
エンタメを両手放しで楽しみたいんだろう。
エンタメは頭を空っぽにできるからエンタメなのだろう。

めちゃくちゃ分かる。その気持ち。


でも私はこうも思う。

両手放しで楽しめるのは、両手を離しても立っていられるようにそのエンターテイメントに抱きしめてもらっているからで、
頭を空っぽにできるのは、空いた頭で余計なこと考えて凹んだりしないようにそのエンターテイメントがすぐに頭を埋めてくれるからなのでは。

そしてそれこそがエンタメのあるべき姿なのでは。と。

思うのだ。


抱きしめられた時っていうのは比喩でない言い方をすると、そのものに対する感情移入が自然かつ安全に起こる状態のこと。


度々エンタメ性と商業性をごっちゃに語る人を見かけるが、私は以上の考えからそういった語りにNOと言いたい。エンタメと商業は親和性こそ高く共存しやすいが、同一のものでは全くない。


そんなこんなで考えると、私は今までたくさんのエンタメに抱きしめてもらってきたと思う。

ただどうだろう、抱きしめてもらえると思って両手を離した時、その作品の中で、自分の生まれ持った属性が悪意に描かれていたり、人権を明らかに軽視されたような描かれかたをしていたら?

私が今まで色々な作品をエンタメとして楽しく受け取れたのはある意味特権で、世界にはたくさんの人が、「ああ、自分は抱きしめてもらえないんだ」、そう思うだけじゃなく、突き落とされたように落ちて深く傷ついてきた歴史がある。

私は自分の特権に無自覚でいたくないなと思った。

ていうか正直私ですら作品によっては「これは少し自分の属性が偏った価値観から軽視されている気がして気持ちよく見ることができないな、、」と思うことがある。


自分たちの属性が抱きしめられるのであれば他の属性の人たちが排除されても仕方ないよね、っていうのは果たして本当の意味でエンタメと言えるのだろうか、、。


色んな歴史を受けて最近は「ちょっと一回考え直してみよう」って色々な作品や業界でポリコレ・コンプラを意識した動きがあるんだろうし、それを私はすごく良いなと思っていて。
もちろん過去の作品の全てを丸ごと否定するつもりは無いよ。ただそういうアップデートしていかなきゃいけない側面が作品によっては存在したんだよね、という話。


屈したとか言われるけど
それって特定の属性を故意に排除したりせずにより多くの人を抱きしめるためなんじゃないか。

偏った価値観へのアンチテーゼとして、より声を大きくする為に少し刺激的に描く作品もあるだろう。

まぁちょっと最近そういった社会的ムーヴメントをそれこそ商業的に利用して旨汁すすろうとしてる人もいる気がするが。
でもそういったものはどこかで暴かれるだろうし、とにかく私はエンタメをエンタメたらしめる為のムーヴメントやトライアンドエラーは全て支持したいと思ってる。

なぜなら私はエンタメが好きだから。

ね。もっともっとより多くの世界中の人がエンタメに抱きしめられて、ポジティブなエナジーを沸かせられますように。


そして私は私の出来ることとして、こういった自分の意見はこれからも発信していきたいなと思う。
それこそこの記事はあんまりエンタメ性高くなくて他の記事とかよりキャッチ力弱いだろうけどね。



そんなことを考えながらタイに向かったのであった。


映画を見ていたみんなが心いっぱいのまま旅行を楽しめたことを願って。

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