Cabbage4
《Kyung-soo side》
「はい…はい…、了解です。…はい、今日はカイと現場に。そろそろこちらに着く頃なので、駅に向かってるところです。…はーい、失礼しまーす」
軽く一礼しながら電話を切ると、運転中の俺に向き直ってゴメンねのポーズをする。
「すみません、車出してもらった上にバタバタしてて」
申し訳無さそうに断りを入れて、またどこかに電話している。スマホを耳と肩で挟みながら書類をパラパラしたりメモを取ったり忙しそうだ。
車に酔わない?いつもより更にソフトブレーキを心掛ける。
人は誰でもそうだけど、働いてる姿って輝いてるなって思う。特に彼女は。
「今日みえるカメラマンの方は、カイさんっておっしゃるんですか?」
ひと息ついたタイミングで聞いてみる。
「フリーでやってる子で、まだ若いんですけど、いい写真撮るんですよ。先月のペンキ塗りの記事が反響良かったので、今月はカメラマン付けてもらえることになったんです!」
胸の前で小さく拍手して、自分自身を褒め称えている。可愛い。
「なるほど、良かったですね」
「お互い駆け出しの頃からよく一緒に仕事してたんですけど、最近はカイが売れっ子になってなかなか呼べなくなっちゃって。よくスケジュール空いたなぁ」
仕事とはいえ久々に旧知の人に会えるのが嬉しいらしく目がキラキラしている。
駅に着くとスラッと背の高い洗練された都会の青年が立っていた。男の俺から見てもカッコいい…何だよ、このイケメン…
「ヌナー!」
一見クールそうに見えたその男は、彼女を見つけると嬉しそうに駆け寄りガバッと抱きしめた。は?
「ヌナ!会いたかったよ。知らない内に引越しちゃうんだもん」
デカい図体して甘えた声を出す。さっさと離れろ。
「ごめん、ごめん。遠くまでありがとう。スケジュール大丈夫だったの?」
「ヌナの為にこじ開けたんだよ」
「えー!ありがとう!でも、そ、そろそろ離して……」
「えー、久しぶりなのに……」
不服そうにぶつぶつ言いながらやっと解放した。それでヨシ。
「えっと、こちらがエクソ村役場のド•ギョンスさん。私の大家さんでもあります」
気を取り直して名刺を渡そうとすると、何故か愕然としたイケメンにジロジロ見られた。
「え……?大家さん?ヌナのブログによく出てくる『大家のDさん』ってこの人なの?」
いきなりの「この人」呼ばわりに内心ムッとするが、そこは俺も仕事だ。営業スマイルを崩さず対応する。この野郎。
「はい、僕です」
「男…なの?しかも若い…。そんな……」
「もしかして女の人だと思ってたの?ギョンスさん、恥ずかしがりだから顔出しNGだし、いつもちょこっと見切れてるだけだもんね」
「だって、ヌナ、毎日ご飯一緒に食べてるんでしょ?お風呂もよく一緒にって書いてあった…」
ジトッとした目で俺を見てくるので、ギロっと見返してやったら怖かったのか彼女の後ろにちょっと隠れた。彼女はといえば俺たちの戦いに全く気づいてない。
「お風呂一緒は語弊があるけども……カイ、ブログ読んでくれてるんだね。ありがとー」
「そりゃ、読むでしょ。ヌナのだもん」
俺が女性だったらうっとりしてしまいそうな甘い微笑みを向ける。やめろ。見つめ合うな。
「さーて、そろそろ行きましょう!日が暮れてしまいますから!」
感動の再会をぶった斬ってやった。
※・・・※・・・※
大変なことが起った。
こいつ、彼女の入浴姿を撮影すると言う。はぁぁ?
「だってヌナ、俺はレイ編集長からそう言われて来たんだよ」
共同浴場の扉の前でカイと揉めているのを、ベンチで涼んでいた昼風呂派のお年寄り達が珍しそうに見物している。歯がゆくも話に入れない俺は、お年寄り達に愛想を振り撒いて怪しい者ではないアピールをする位しか出来ない。今日ばかりは身分を証明してくれる役場のダサいジャケットが役に立つ。
「そんなの聞いてない!無理、無理!さっき編集長に電話した時だって『モデルまで付ける予算は無いから、君がちょこっとお湯に触ってる写真を撮ってもらってね』って言われただけだよ。だから、せいぜい足湯みたいな写真でいいのかと思ったのに……」
「僕は『せっかくだから湯船に浸かってるとこ撮ってきてね。本誌に見合った品のある感じで』って言われたよ」
「信じらんないっ!編集長の二枚舌!!」
「ヌナ……何かごめん……」
「あ、違うの!カイは何も悪くないよ……全っ然悪くないの!こっちの不手際だから……………………」
少しの間考えて、心を決めたらしい。
「よし!編集長には後で抗議するとして、時間も無いし、とりあえず撮ろう!」
え!?撮るの?脱ぐの?
びっくりしてキョロキョロする俺を尻目に
「ヌナ、綺麗に撮るよ」
自信ありげなカイが癪に触る。
「じゃあ、準備してくる……」
彼女が大きなバスタオルを持って女湯に消えると、残された男二人、微妙な空気が流れる。
「あの……ヌナと仲良いみたいですけど、どうなってるんですか?付き合ってるとか?」
しっかり探りを入れてきた。一応「付き合ってない」って答えた。まだね。
「よかった。ヌナに手なんか出さないで下さいね」
ニコッと綺麗な歯を見せながら釘を刺してきた。そんなの知るかよ。
「もーいーよー」
ピリつく俺達とは反対に、かくれんぼみたいな呑気な合図があってカイが女風呂に入っていく。
俺は女湯の扉の前で門番だ。くそっ。
「やー!見ないで!あっち向いて!」
耳をダンボにして中の様子を伺う。変なことしたらすぐに駆けつけよう。
「ヌナ、俺カメラマン。見るのが仕事…」
「いいから!もう湯船に入っていい?入るよ?入るからね!」
「あ、その前に……」
言い終わる前にザブンと湯船に入る水音がする。
「ヌナ〜、髪ほつれすぎ。ボサボサ。直すよ」
「自分でやるよ」
「もう手が濡れちゃったでしょ。質感が変わっちゃうから」
「うん…慣れなくて…ごめん」
は?何あいつ?髪に触ってるの?やめろ。そんなに近寄るな。
「うん、これで良し。じゃあ、普通にしてて」
「普通って言われても…」
「大丈夫。ヌナ、綺麗だよ」
は?綺麗だよ?そんなの綺麗に決まってる。見たこと無いけど!
「あ、そうだ、ミンソギヒョンがこっちに遊びに来たいって言ってたよ」
「え?そうなの?いつ頃だろ」
「何かの取材にかこつけて来るんじゃない?」
「そっかー、楽しみ。お土産何頼もうかなぁ」
「あー、それなら最近行列になってるお菓子屋さんがあるよ」
「えー、ミンソク先輩に行列並んでもらうの?俺をこき使うな!って怒るんじゃない?」
「ヒョンはヌナに甘いから大丈夫でしょ」
クスクス笑う声がする。会話の間にもシャッターを切っているんだろう。ふーん、こうやってモデルのリラックスさせるのか。許し難いけど、流石にそこはプロだな。許し難いけど。
「うん、オッケー。じゃあ、外で待ってるね」
「はーい」
カラカラと扉が開いて、カメラのモニターを確認しながらカイが出てきた。
「よし、綺麗に撮れた」
あー、そうですか。そうでしょうとも。
モニターを覗きたい気持ちをグッと堪えて仕事用の笑顔を作る。
「お疲れ様でした。この後はどうしますか?」
「村の写真も色々撮って回りたいので、ヌナにスクーター借りて一人で回ってみます」
「そうですか。今日はどちらにお泊まりですか?」
「ヌナの所に泊めてもらうつもりです」
『は?』
タイミング良く風呂から出てきた彼女と俺の声が被った。
「ちょっと、何でウチなの?隣町にホテル取ったんでしょ?」
「だって、隣町って遠いんだもん。明日は日の出から撮りたいし」
「だからって……」
「いいでしょ、ヌナ?何度も一緒にお泊りした仲じゃん」
は?お泊り?
ドキリとしてカイを見ると、カイも俺を見ていて、その目は完全にマウントを取りに来ていた。
「それは取材で!別部屋に泊まっただけでしょ!」
「……そうだけど」
早速「お泊り」の真相をバラされて唇を尖らせて不貞腐れている。ザマミロ。
「僕、何もしないよ。信じられない?」
拗ねた甘い声と上目遣いで迫る。
「信じるとか信じないとかじゃなくて…」
「ヌナ、いいでしょ?良い子にするから。ね?僕、ヌナの為に良い写真撮りたい」
「いや、でも…」
カイが彼女の手を取る。
あぁ、もうダメだ。そんなことになったら、今夜眠れない。
「じゃあ、僕の家へどうぞ!!」
思いの外大きな声が出た。
びっくりした二人が同時に俺を見る。
「部屋も布団も余ってますから、どうぞ我が家へ!お互いの家もすぐ近くですし、夕飯も一緒ですし。ね?」
「家がすぐ近く」の部分を強調した。
今度は俺がマウント取る番。
「ギョンスさん、いいの?」
「ヌナ、僕知らない人の家に泊まりたくない……」
「わがまま言わないで。ギョンスさん、本当にいい?ありがとう」
ホッとした様子の彼女を見て、俺も心底ホッとした。
※・・・※・・・※
《your side》
日が落ちると同時に撮影に行っていたカイが戻ってきた。
「ヌナー、ただいま」
「おかえりなさい。どうだった?」
「良い場所いっぱいあった。キレイな所だね」
「でしょう?」
重そうなカメラバッグを脇に置いて、長い脚であぐらをかく。私の小さなリビングが一気に狭くなる。
インスタントのカフェラテを出してあげると、お礼を言って美味しそうに飲んだ。
「ごめんね、こんな物しかなくて」
「ううん、美味しいよ。明日はこの家も撮るね。雰囲気のある建物だね」
カメラマンとして有名ファッション誌にも出入りして、一流の物に触れる機会が多いカイに褒められると自分のことの様に嬉しくなる。
「でしょ、でしょ?ギョンスさんのひいお祖父ちゃんお祖母ちゃんの隠居所だったんだって。すごいセンスいいよね、でね「ねぇ、ヌナ…あの人とどういう関係?」
カイの視線は手の中のマグカップに固定されている。
「ギョンスさん?んー、取材に来たライターと村の世話役?賃貸契約者と大家さん?」
「それだけ?本当に?」
チラリと上目遣いにしたその目には、疑いと甘えが混ざっていた。
「あの人のこと……好き?」
「えっ?……うん、ヘヘ。やっぱ分かる?」
「……ちょっと受け入れられないな」
元々ハスキーな声がかすれて、泣いてるみたいに聞こえる。
「ハハ、別にカイが受け入れなくても……」
軽く笑い飛ばしながらも、いつもとは違うカイの様子が気になりそっと顔を覗き込む。
カイは持っていたマグカップを置くと、身体ごと私に向き直る。テーブルに置いていた私の手に、カイの手が重なる。
さっきまでカップを持っていたカイの手は熱くて、真剣な表情に気圧される。驚いて手を引こうとすると、グッと力が込められた。
「…っ、カイ?」
「ヌナ…」
何か言いかけたタイミングで玄関の扉がノックされて、弾かれた様に立ち上がる。
え?今の、何?
扉を開ける前に何とかして心臓を落ち着かせようと深呼吸を試みる。何度目かの息を吐いてからそっと玄関を開ける。仕事終わりのギョンスさんが立っていた。
「携帯に返信無かったから何かあったかと」
「ご、ごめんなさい。気付かなかった」
「何も無いなら良いんです」
顔が赤くなってないかな。
何だか後ろめたい……
「ヌナー、誰?」
リビングからカイが顔を出す。
「お戻りだったんですね」
「はい、僕お戻りですけど……」
不貞腐れた態度を隠しもせず、カイが答える。
ギョンスさんに気付かれない様に「コラ!」の気持ちを込めてカイを睨む。お願いだから良い子にしてて!
「じゃあ、これから夕飯作りますね。カイさんもどうぞこちらに」
「僕もうちょっとここでヌナと話したい……」
「どうぞ、我が家で話して下さい」
ニッコリ微笑んではいるもののギョンスさんの目は笑ってない。そりゃ、泊めてあげるのにこんな生意気な態度取られたら怒るよね。
「…………はぁい、ヌナも来て……」
上目遣いで私のパーカーの袖をツンツン引っ張った。
※・・・※・・・※
「週末だし、今日はお客さんもいるから」というギョンスさんの計らいで、夕飯は自分で好きな具材を乗せるスタイルのお好み焼きになった。豚肉、イカ、エビ、キムチに明太子やお餅まで色んな具材がテーブルに用意された。もちろんベースの生地にはキャベツたっぷり。
「わぁ!こういうの大好き!ワクワクするー!」
ホットプレートに思い思いの具を乗せたお好み焼きが並び、ジュージューと美味しそうな音を立てている。何故かギョンスさんにやたらツンケンしていたカイも、ギョンスさんのお宅の雰囲気と美味しい料理で徐々にリラックスしたみたい。
「カイ、遠くまで来てくれてありがとう!」
ビールで乾杯。カイはほとんど飲まないけど、駆け出し時代の話が始まったのをきっかけに話が弾む。ギョンスさんも私やカイの失敗談を楽しそうに聞いてくれるから、つい調子に乗って口が回るし、お酒も進む。今日は朝早かったし色々あったし、アルコールの回りが早い気がするな…………そろそろ……ほどほどに……し、な、い、と…………
※・・・※・・・※
《Kyung-soo side》
さっきまで楽しそうにしてたのに、急に静かになったと思ったら彼女はテーブルに突っ伏して寝ていた。
急に寝るタイプなのか。そんな所も可愛い。
「ヌナー、寝ちゃった?」
「んー……」
ムニャムニャ言って完全に動かなくなった。
カイと俺の二人になった途端、さっきまでの和やかな雰囲気は消えてしんとした空気が流れる。
「いつもこんなになるまで二人で飲んでるんですか?」
非難を滲ませたカイの問い掛け。
「いや、ここまで飲んだのは初めて見ました。カイさんが居たから楽しかったんじゃないですか?」
テーブルの上を片付けながら、正直にそう答える。ちょっと悔しい。背中越しに「そっか」と満更でもなさそうな声が聞こえた。
古い柱時計が鳴って、日付が変わったことを知る。
「カイさん、明日早いんですよね?布団敷いてきます」
客間の用意を済ませて、彼女が居間で寝られるように布団を持って戻ると、カイが眠っている彼女に自分の上着を掛けてやっている場面に遭遇した。悔しいけど絵になるな。カッコいい上に紳士かよ。
『ゔぇっほん!!』
大きめの咳払いをすると、パッと頭を上げたカイと視線がぶつかり合う。
「あの…言っておきたいんですけど…」
カイが切り出す。
この空気、大体何を言われるかは俺でも分かる。
「僕、ヌナのことすごく大切なんです」
怒気を内に秘めた切実な声だった。
さっき沢山聞かされた昔話で、この二人の結びつきが強いことは分かった。でも…今は側にいるのは俺だ。
「僕、ヌナが居たからこの世界で頑張れました」
「……」
「ずっと男の気配無かったし、油断してた。ちゃんと僕が一人前になってから好きだって言おうと思ってたのに、今日あなたのこと知って焦りました」
「……」
「ヌナのこと、どう思ってるんですか?」
「好きですよ」
即答してやった。虚を衝かれたのかカイが下唇を噛む。畳み掛けるように続ける。
「一生懸命だし、しっかりしてるのに頼りない所もあって、可愛いです。明るい笑い声も、お箸の持ち方が綺麗な所も、酔うとよくやる体育座りも全部好きです」
今日が初対面の相手に何言ってるんだ。俺も相当酔ってるな。もちろん好きだって自覚はあったけど、あらためて言葉にすると気恥ずかしい。
カイの出方を待って沈黙が続く。怒ったかな?
しかし、帰ってきた返答は予想を大きく外れた。
「……めっちゃ分かる」
「は?」
「めっちゃ分かります。ヌナって箸使い綺麗ですよね。体育座りもちんまりしちゃって可愛くて。僕、アレが見たくてヌナとご飯食べる時、座敷のある店ばっか行ってましたもん」
カイが早口に捲し立てる。
「あと、何か良い事があると自分で自分に小さく拍手してません?」
「あ、それ、今朝見た」
「あれは『ずるい』
二人の声が重なる。
急に立ち上がったカイが、大股で座敷を横切るとあっという間に俺の前に立った。大振りにバッと手を出されて一瞬身構える。
「ヒョン!」
えっ?
「ヒョン!理解してくれる人がいて、僕すごい嬉しい」
俺の手を両手で握ってブンブン振る。は?彼女の良さを理解してくれて嬉しいってこと?俺達ライバルじゃ……?
こいつ、酔ってるのか?酒、飲んでたっけ?
カイが座っていた辺りを見ると、自家製のシソ酒と酒を飲まないというカイに出したシソジュースの瓶が隣合って置いてあった。
あぁ、あれか……。
間違って飲んだな。
クールな見た目に反して飲むと饒舌になるタイプなのか、それからアルコールが完全に回って眠るまで、カイは彼女のどこが可愛い、こんな所が好きだと話し続けた。逐一俺に同意を求めながら。
結果、共通のアイドルを推す同志の様な不思議な連帯感が生まれた。奇妙な夜だった。
※・・・※・・・※
《your side》
トントントントン…
規則正しいまな板の音とお味噌汁の香りで目が覚める。
「ん…おかあさ……」
徐々に焦点が合ってくると視界には真っ白なシーツとそれに続く畳の目、古びたちゃぶ台の脚……どこ?あ、ギョンスさんチか……?
寝ぼけた頭がクリアになるにつれて昨日の記憶が蘇ってくる。そか、私ったら酔っ払って寝ちゃったんだ……
うぅ、恥ずかしい。
こういう時にガバっと起きるのはどうやらドラマの中だけで、現実は布団の中でゴソゴソと髪を整えたり、よだれのチェックをしてからギョンスさんに気付かれないようにモソモソ起きた。
うん、服はちゃんと着てる。それはそうか…。
布団を畳んでから恐る恐る台所のギョンスさんに声をかける。
「おはようございます……。昨夜はお恥ずかしい姿をお見せしてしまい……」
「あ、起きた?朝ご飯、出来てますよ」
黒のスウェットにエプロン姿のギョンスさんは、しこたま飲んだ翌朝とは思えない爽やかさ。
あれよあれよという間に目の前には小ぶりのおにぎり二つとキャベツのお味噌汁、出汁巻き卵ときゅうりのぬか漬けが並んだ。お握りの中身は梅干しとしそ昆布。さっすが、押さえてる。
「うー、お味噌汁が沁みる〜」
「飲んだ後は特にね」
「あの、私昨日何かやらかし……ました?」
「全然。静かに寝てただけ」
「そっか、良かった」
大きな粗相はしてなかったみたい。ほっとした。
「そだ、カイはどこに?」
「日の出の写真撮るって早くに出かけて行きました」
そうか…、お酒に飲まれたのは私だけか…
「あの、すみません、カイが失礼な態度取って…何であんな態度取るんだろ?普段は礼儀正しいコなんですけど…」
「大丈夫。仲良くなったから」
口元だけでにっこり笑って見せたギョンスさんの目には戸惑いとも取れる複雑な色が混ざっている気がした。
※・・・※・・・※
ギョンスさんが車を出してくれて、エクソ駅までカイを送る。
「ヌナ、じゃあ、また来るね。僕、ここ気に入っちゃった。でもまたしばらく会えないね」
ガバッと高い位置からハグされて息が詰まる。
「うん、でも来月イベントあるから一回帰る予定」
カイの胸を強めに押し返す。少し不服そうなカイは今度はギョンスさんに向き直ると、
「ヒョン、また泊めてね」
え?ヒョン?
いつの間にそんな仲良くなったの?
握手した手をグッと引き寄せて、ギョンスさんの耳元で何か言っている。一晩で内緒話する仲になったの!?
お酒の力なのか、何かキッカケがあったのか……とにかく仲良くなったのは良いことだ。
カイは大きく手を振りながら改札の中に消えていった。
Cabbage5に続く
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?