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Cabbage7

《your side》

目が覚めるとカーテンに囲まれた白い部屋にいた。

病院…?

起き上がろうと力を入れると身体中の鋭い痛みに思わず声が出る。

「気が付きましたぁ?」

私の声を聞きつけたスホ美さんの透き通った声がしてカーテンが開く。

「あ…私…」
「痛いよね。寝てる間に手当ては終わったからね。打身と擦り傷はあるけど、頭も打ってないし、骨も大丈夫だって」

優しく微笑む笑顔は癒しの天使。
看護士さん呼んで来るねー、とスホ美さんが病室を出て行く。

そっと布団を退けて怪我の状態を確かめる。いつの間にか着替えさせられていた病院のガウンの裾を恐る恐る捲る。転んだ時に地面に叩きつけられた方の脚に包帯や大きなガーゼが何枚も充てられている。足首はひどく腫れて、湿布が貼られていた。うぅ…

そうだ、時間…
窓の外は既に暗かった。
時計代わりのスマホを探す。
……あ、そうだった。

壊れたスマホ
大雨で霞む視界に現れたギョンスさん
抱き着いた時の濡れたシャツ越しの体温…

は?待って!待って!待って!
私…抱きついた?
嘘でしょ……?

廊下から「ギョンスくーん、目が覚めたよぉ」とスホ美さんの声が聞こえた。

ギョンスさん、居るんだ…

この二週間、悩み抜いた後の予想外の再会。事故で身も心も追い詰められていたとはいえ、泣いて抱きつくってどうなの?ギョンスさん、どう思ったかな?引いた?何だこいつ?って思われた?恥ずかしさと気まずさに脚をバタバタすると激痛が走る。

いったーーーー
ギュッと目を瞑った拍子に記憶が蘇える。

「どこにだって行くよ」

耳元で聞いたギョンスさんの囁くような低い声と背中を優しく撫でる手の感触…

えっ!?
何?何?何?
本当にあった事?
都合の良い夢?
え?え?えぇーーっ!?

一人パニックになっていると、病室の入り口におずおずとギョンスさんが現れた。
ちょっと待って!まだ心の準備が出来てない!

デニムにグレーのトレーナー。いつものギョンスさんだ。もう顔を見ただけで泣きそう。

「大丈夫…ですか?」
「あ…その……はい…」

…………
…………
…………

ベッドサイドの気まずい沈黙。
ギョンスさんの顔がまともに見られなくて布団の柄ばかり見てる。
院内放送が面会時間の終わりが近いことを告げる。

…………
…………
…………

何か話さなきゃ
そうだ!お礼!お礼言わないと!

ギョンスさんの顔を見上げると、私の言うことを聞き漏らすまいと大きな目を更に大きくしながらこちらに耳を傾けてくれる。
目が合っただけで説明のつかない涙がせり上ってきて、慌ててまた顔を伏せる。

涙、引っ込め…涙、引っ込め…
涙を乾かしたくて何度も瞬きをする。
早く立て直さないと…

見回りのナースが戸口で「そろそろ面会時間終了ですよー」と告げて足早に去っていった。

…………
…………
…………

「えーと…じゃあ…。大丈夫そうで良かった…です。これ、夕飯。食べられそうなら」

コンビニの小さな袋がサイドテーブルに置かれる。

「じゃあ、また」と病室を出て行くギョンスさんの背中を何も言えないままベッドから見送る。まともに顔も見られなかった…
助けて貰ったお礼言わなきゃいけないのに…

ギョンスさんが居なくなった病室で、ギョンスさんが置いていったコンビニ袋の中を見る。おにぎり二つとお水と野菜ジュースが入っていた。梅と昆布のチョイスがギョンスさんらしい。
こんな日までご飯の心配してくれるなんて…
またしてもじわじわと涙が滲む…

………
………
………

あー、ダメ!
やっぱりギョンスさんとこんなの嫌!
ちゃんとお礼を言って、また元の関係に戻りたいってハッキリ伝えなきゃ!

追いかけよう。

ベッドから降りる。全身が痛い!スリッパも無い!素足だ。でも、なりふり構って居られない。だって、今言わないとずっとこのままな気がするから。

廊下の手すりに掴まりながら、怪我が少ない方の脚で半ばケンケンしながら追いかける。大きな病院なのか、無機質な病室のドアが並ぶ廊下は何て長いんだろう。一歩進む度に劇痛が走る。痛くて涙が出る。息も弾む。
ひときわ明るく照らされたエリアが見えてきた。きっとナースステーション。近くにエレベーターがあるはずだ。痛みを堪えて更に進む。エレベーターホールに見覚えのあるちょっと猫背の人影が見えた。
ギョンスさん、まだ居た!
エレベーターの扉が開き、一歩踏み出そうとしている。
やだ!待って!行かないで!

「ギョンスさんっ!」

病院で出す声としては大きな声が無人の廊下に響く。
びっくりした顔のギョンスさんが振り向く。

「えっ!?なんっ!?大丈夫?」

慌てて駆け寄ると肩を抱いて支えてくれる。
勢いでここまで来たものの、言葉を用意していた訳じゃなかったので頭が真っ白。

「何もっ、何も大丈夫じゃないですっ!ギョンスさんとこんなの嫌っ!あと、今日は助けてくれてありがとうございますっ!おにぎりもっ!」

もうメチャクチャ。
支離滅裂。
しかもちょっとキレ気味。

この二週間こねくり回した感情が溢れて「うわぁーん」と泣いてしまった。
こんな泣き方、子供の時以来だ。
涙が止まらない。
絶対ギョンスさん困ってる。

ギョンスさんに支えられながらエレベーターホールの横にあるソファに移動する。怪我した膝を曲げられなくて伸ばしたまま座ると、私の肩にそっとカーキ色の上着を掛けてくれた。隣に座ると、まだ涙が引かない私の背中を子供をあやすみたいにさすってくれる。

「俺の方こそ…あんな事言って…ごめん…」

優しかった手に力がこもって引き寄せられる。
意外と力が強くて、やっぱり男の人なんだなーって泣いてズキズキする頭でぼんやり思った。

Cabbage8に続く→

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