履歴書


28歳の恋だから。


遠くから投げられた小石でちょっと方向が変わるみたいに、少しの角度が到着点を決めるみたいな恋愛になる。どうしても。


ただ、そこからあまりにもまっすぐ歩いてきたから、振り返った時にすこしだけ、小石が当たった点が見える。角度がついた場所が見える。


真っ直ぐ丁寧な道を振り返る。そこで角度をつけて良かったんだろうか。







あなたのことをずっと思っていた。



でもそんな夕焼けみたいな思いは、心の外に出した時からどんどん冷えていくの。


伝えなくていい、言葉にしなくていい



28歳の戀だから。



高級旅館の露天風呂じゃない。お家の半身浴みたいなのでいい。

しゃべるお風呂じゃ沸かせないくらいの温度。ずっと温めてきた思いに、たっぷりお水を足して、ちょうどいい温度にして。あなたに渡すの。私はその方法を知っている。できる。


私の透明な思いが、水に溶ける。溶ける。見えなくなる。分からなくなる。だから少し寂しくなってもいいよね。


でもやっぱり、家のお風呂にぬるま湯半分貯めるなんて、他の誰にでもできるんだよなあ。





寂しさ、苦しさ、痛み。自分の欲しい幸せから離れたら、そんなものからも解放された。




寂しさにも苦しみにも痛みにも、絶対なんてことはなくて、だから私の体に幸せなんて残ってない。



私の主人は、沈みそうになる度に、自分が思う余計なものを、掻き出すように体の外に捨てる。きっと勢いに任せて大事なものまで引っ掻いて傷つけてしまっている。そうやって流れた血が、私を作っている。


大事にして欲しい。心がいっぱいで捨てなきゃいけなくなったものは、最初からいらなかったわけないから。自分が作ったものだったり、一度拾ったものであるはずなの。



かき集めるようにして、抱きしめて、懐かしいベンチに座っていた。



ふらっと足を運ぶと、今は私が好きだというあなたにぶつかった。


あなたを目指した私が捨てた、私。


でも、新しく色んなものを貯めるあなたのところに、久しぶり!なんて言って簡単に戻ってはいけないの。


あなたの流した血。あなたの捨てた腕いっぱいのこれ。どうせ戻ったっていつかまた心の奥にしまうんでしょう。



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