こういう女を抱きしめて生きたい
振り返らない。
昔から、自信はないのに引っ込みがつかないタイプではあった。
振り返らない。
幼稚園とかからあった。
感情に任せて踵を返した後、世に言う全集中で視界の端に注意を向けても、絶対に届くことのない後方160度はその瞬間、どんな場所よりも遠くなる。なのに、認識できるはずがない後頭部の向こうから刺してくる視線は、首が回らないように私の頭をぐっと押す。
振り返らない。
去り際にぎこちなく立てた中指のしまい時がいまいち分からない。でもそんな動揺は見せたくない。バレないようにゆっくり指を揃える自分が最高にダサくて涙が出てきた。
振り返らない。
6秒前の気持ちは、定説に違うことなくすっかり落ち着いている。家に帰って、今日が終わって、次の日の朝、布団の中で何を思うかも分かってる。
ただ、勢い任せの行動に思わずくっついてきた感情が足と首に纏わりついて離れない。
振り返らない。
いつも、あと一回、あと一回だけで、こびりついた感情を剥がせるのに。そんなことを考えながら、1/2の分かれ道の間違いの方を振り返らずに進んで来た気がする。
多分勘違いだけど。母親に勉強しなさいって言われた時みたいに、いつも通りやってくる明日に身を任せながら、布団の中でそういうことにするだけなんだけど。
振り返らない。
寂しさとか、悲しさとか、自分だけの感情だから、大切に、見えないように大切に守ってきたんだよ。
振り返らない。
最後まで私の味方であろうとするあなたは、私が大切に守っているものも一緒に守ってくれるけど、ある程度しつこく「見せて」って言ってくれれば、私だってもっと雑に見せびらかしたりするよ。
振り返らない。
もう一回、追いかけてきて。
堪えきれない涙を見られてしまえば、一緒に流れる感情だって隠す意味がないことに気が付けるんだから。
振り返れない。
もう一回だけ、それでいいのかって聞いて。私の止められなかった涙を感じて、感じさせて。
私はもう振り返れないよ。
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