METオペラ『つばめ』をキノシネマで
「METライブビューイング」を御存知ですか。ニューヨークの「メトロポリタン歌劇場」でのオペラ公演を撮影し、字幕を付け、1か月半後には世界70か国の映画館で上映するという、オペラファンには最高のプログラムです。
巨大スクリーンと迫力の音響効果を備えた国内の指定映画館は20館。九州では福岡と熊本のみ。私は高速バスで福岡へ。朝10時からの1日1回の上映なので、早起きして8時のバスに乗車しました。長年、福岡中洲大洋劇場に通っていましたが、そこが閉館したので、「キノシネマ福岡」に引き継がれることになったのです。
キノシネマは3スクリーンを有する単館系の映画館。フィギュアスケートのスポンサーでもある「木下グループ」のエンタテインメント事業の一つです。天神地下街を通り抜け、路線バスに乗り換え、やって来たのは「カイタック・スクエア・ガーデン」。すぐ左手にエレベーターがあり、キノシネマは3階です。
入ってすぐチケットカウンター。細長いロビーの奥にはシャンデリアが! トイレは左奥。ユニークでしょう? 私が知る限り、日本一きれいなトイレです。洗面所の鏡が額縁のような造りで、気分が上がります。
オペラの話に入りましょう。
オペラは400年以上に渡り、世界中の人々を魅了し続けてきた総合芸術です。イタリアのフィレンツェ発祥です。
METの誕生は1883年。客席数3800席。立見席を含めると4000席という世界最大級の歌劇場です。
『つばめ』(ラ・ロンディネ)はジャコモ・プッチーニ(1858~1924)作曲の3幕のオペラです。プッチーニといえば『トスカ』『蝶々夫人』『ラ・ボエーム』で、日本でも大人気です。
『つばめ』は元々1913年にウイーンから依頼されたオペレッタ(喜歌劇・・・歌だけでなくセリフも入るロマンティック・コメディー)だったのですが、翌年、第一次世界大戦が勃発し、上演ができなくなりました。プッチーニはオペレッタからオペラ(歌劇)に改変し、1917年にモナコで初演に漕ぎ着けました。
時は1920年代。ヒロインのマグダはヴェルディの『椿姫』と同じく、パリの高級娼婦。富豪の銀行家をパトロンに持ち、何不自由ない暮らしをしている美しくて気立てのいい女です。友達もいて、不満はないけれど、つばめのように自由に羽ばたきたいという憧れを抱いています。
1幕の初め頃に歌われるアリア『ドレッタの美しい夢』はプッチーニの最高傑作の一つ。マグダ役のエンジェル・ブルーが深みのある声で、愛への憧れを美しく艶やかに歌い上げます。
若き詩人のプルニエから手相を見てもらうマグダ。「あなたはいつか、つばめのように海を渡って、恋をする」と予言され、心が揺れます。
2幕で、質素な町娘の扮装をしたマグダはカフェでルッジェーロという青年と相席になります。語り合い、歌い、ダンスをして、二人は恋に落ちます。
2幕の最後に、マグダとルッジェーロ、小間使いのリゼットと詩人のプルニエの2組のカップルによる4重唱に合唱も加わり、『あなたのさわやかな微笑みに乾杯』が高らかに歌われます。
マグダは「新しい恋をしたから」と、パトロンのランバルドに別れを告げます。
3幕。リヴィエラで幸福に暮らす恋人たち。母から結婚を承認する手紙が届いたと喜ぶルッジェーロ。彼はランバルドの友人の息子でした。マグダは自分の過去を告白し、「私はあなたの妻にはふさわしくない」と告げて去っていきます。『椿姫』のように死にはしませんが、切なく、ほろ苦いラストです。
幕間のインタビューで出演者達が、「METで歌えて感激!」「学生の頃から憧れだったMET。幸せです!」と、興奮気味に語っていたのが印象的でした。
詩人役のベクゾッド・ダブロノフは、「僕はプルニエを演じていない。彼を生きているんだ」と語りました。主役より、声も雰囲気も私好みです。
このオペラがあまり上演されないのはなぜなのか、考えてみました。
オペラといえば3時間半から4時間を超す大作が普通で、重厚な悲劇です。
が、『つばめ』は2時間44分の短さで、歴史絵巻でもないし、誰も死にません。でも、私は軽やかで美しい、そして繊細な音楽に心を奪われました。
もっと上演されてもいいのではないかと思います。
カイタック・スクエア・ガーデンは4階建てで、中央が吹き抜けになっています。屋上には素敵な庭園があります。
表に出て、歩いて3分で、イタリアン・ビュッフェの人気店「バール・ヴィータ」へ。
美味しくて値段もお手頃のランチに大満足の私でした。
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