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ミステリーはお好き?(8) 正義を貫く 心優しき家庭人

『バーナビー警部』はイギリスで1997年にスタートし、現在もまだ放送中という大長寿番組。200か国以上で放送中の大人気シリーズだ。
ミステリーチャンネルで放送された第1話から81話までをやっと観終わった。

トム・バーナビー(ジョン・ネトルズ)は警察官生活30年を超えるベテラン警部で、相棒とも言うべき巡査部長は3人入れ替わった。
ギャビン・トロイ(ダニエル・ケーシー)は1話から29話まで。マイペースで鋭さがなく甘い感じで、刑事にはどうかなと心配になる。
ダニエル・スコット(ジョン・ホプキンス)は30話から43話まで。女たらしで意地が悪い。ロンドンから来たので田舎の人達を見下している。
ベン・ジョーンズ(ジェイソン・ヒューズ)44話から81話まで。頭が良く仕事熱心。性格も良い。地味な見た目なので、本物の刑事みたい。

トロイ巡査部長(左)とバーナビー警部

舞台は緑豊かな架空の田舎、ミッドサマー。その中のコーストンという町に、バーナビーさんは妻のジョイス(ジェーン・ワイマーク)と娘のカリー(ローラ・ハワード)と暮らしている。勤務先はコーストン警察署だが、もっと田舎の町や村にも出張して捜査に当たる。
茅葺き屋根の家々、庭には花が咲き乱れ、草原あり川があり、パブは1軒しかなく、住民はみんな知り合い。そんな美しい村で残虐な殺人事件が起きる、そのギャップが受けているのかな。ロケ地オックスフォードシャーやバッキンガムシャーの風景はイギリス人の心の故郷なのだろう。

観始めた頃はそれほど好きではなかった。事件現場に来ても手袋すらしないし、バーナビー警部は穏やかな紳士で、トロイ巡査部長は中世の王子様みたいな顔をして、つまり二人共シャープではない。現代の目から見ると、のんびりしすぎていた。制作された時代を考慮して観るようにしたら、だんだん面白くなってきた。そのうち現場では手袋を必ずはめるし、化学防護服を着るようにもなっていった。バーナビー警部もキビキビしてきたし、巡査部長もリアルな感じ。まるで英国警察史を見ているよう。

イギリス人にとっては良き家庭人としてのバーナビーさんが魅力なのだとか。妻に頭が上がらない優しい夫で、娘ともとっても仲良し。血まみれの連続殺人と幸せなホームドラマとのギャップも受けるのだろう。
私は田舎に残る風習やお祭り、教会行事や読書会といった、イギリスの田舎の人々の暮らしや文化に興味を持ち、事件とは別に楽しんだ。

第1話で、幻の蘭を探していた老女が殺され、ついで、葬儀社の息子と母親が殺害される。「小さな村でも、水面下では渦を巻いているものだな。」というバーナビー警部の言葉が印象に残った。

私が好きなのは55話と60話。前者はミッドサマーでのロックフェスが描かれている。エレキギターを手渡され、あこがれのミュージシャンと一緒に歌い、演奏するバーナビーさん。子供のように嬉しそうだった。自然に素顔を見せているところが、彼が長年愛されている理由なのだろう。
後者は花嫁の父になるバーナビーさん。事件は待ってくれず、大忙し。画家ホグスンについて図書館で調べまくり、贋作を突き止める。「リサーチだよ。リサーチが大事なんだ。」と、部下に向かって得意顔。

長く続いている番組だけあって、数々のスターがゲスト出演している。
初代ワトソン役のデイビッド・バーク、3代目マープル役のジュリア・マッケンジー、『ルイス警部』の検視医クレア・ホルマン、『ミセス・ハリス、パリへ行く』のレスリー・マンビル、今では名女優のオリビア・コールマンなど多数。「あっ、若い頃の○○だ!」と発見するのも楽しい。

一つの役を27年も続けられるとは物凄い事だ。まず、主人公に飽きさせない魅力がなければならない。ジョン・ネトルズはバーナビーとして生きているのではないか。彼が健康でないと続かなかった。次に、優れた脚本があること。英国ミステリーの素晴らしさは優れた脚本家チームが質を落とさずに書き続けられることだ。

バーナビーさんに会えなくなって寂しいなと思っていたら、もう再放送が始まった。イギリスの美しい小さな村が恋しくなったら、また観ようかな。


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