「ぽっぺのひとりごと」(2) ジョーン・バエズ
エドガー・アラン・ポーの詩『アナベル・リー』を調べていたとき、ジョーン・バエズ(1941~)がこの詩に作曲し、歌っていたことを知った。
それで、バエズに思いを馳せた。
ジョーン・バエズといえば、『ドナ・ドナ』や『朝日のあたる家』、『500マイル』などで日本でも知られている。
シンガーソングライターの草分け。
フォークロックの女神。
ギターを弾きながら、愛と自由と平和を歌い続けた。
彼女の、不正や権力に対してプロテストし続ける姿勢を素晴らしいと思う。
早くから環境活動家であり、死刑廃止論者であり、人道支援活動家で、特に女性やメキシコ系など、弱い立場の人々を支援し続けている。
77歳で引退するまで、60年以上ギターを弾き、歌い続けた。こんな人はもう現れないだろう。
「サッコ&ヴァンゼッティ事件」を映画化した『死刑台のメロディ』(1971年 伊仏合作)を映画館で観て、ジョーン・バエズが歌った主題歌『勝利への賛歌』と『サッコとヴァンゼッティのバラード』を聴き、心を打たれた。打ちのめされて、泣くしかなかった。
イタリア系移民の貧しい労働者、ニコラ・サッコとバルトロメオ・ヴァンゼッティは身に覚えのない強盗殺人の罪で、1920年、マサチューセッツ州で逮捕され、1927年に処刑された。
非人道的、人種差別的で偏見に満ちた、アメリカ最大の冤罪事件である。
映画や音楽は、それを初めて観たり聴いたりした時の自分に、瞬時に引き戻す力がある。
YouTubeで『サッコとヴァンゼッティのバラード』を聴いた。おんおん泣いてしまった。この曲を初めて聴いた頃の私を思い出したから。
ひとりぼっちで、貧しくて、進学もできず、ただ生活費を稼ぐためだけに半端仕事をしていた。惨めで、情けなくて、不公平な社会に対して怒りを抱いていた。
若くて、愚かだった。
ジョーン・バエズの歌声は低いところは抑え気味に、高いところは説得力を持って迫ってくる。美しく透明な声なのにグイグイ迫ってくるのは、彼女が魂を込めて歌っているからだろう。
彼女にとって、歌うことは生きること。
社会的弱者のために持てる力を使うのだ、という使命感に燃えている。
さあ、もう一度、『サッコとヴァンゼッティのバラード』を。
今度は歌詞の意味を噛み締めながら聴いてみよう。
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