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「我が青春のドイッチュラント」 エピソード(3)駅で寝た

乗り換えのハンブルク中央駅に辿り着いたとき、すでに夜の9時を過ぎていた。
ふと見ると、プラットホームに全面ガラス張りの小さな待合室があり、席が一人分空いていた。中にいたのはポーランドや東欧から出稼ぎに来ている人達で、朝一番の列車に乗るため、そこで夜を明かすらしかった。私も仲間に入れてもらった。

かっこいい制服の鉄道警察隊の人達が、2人1組で巡回をしていた。待合室の全員が、パスポートと切符の提示を求められた。
おまわりさんに、「どうしてこんな所にいるのか?」と訊かれた私。
「ホテルが決まってないし、ハンブルクのような大都会で夜遅く街に出るのは怖いし、明日の朝が早立ちなので。」と答えた。
ジャーマンレイルパスを見せると、「じゃあ、気をつけて。グーテ・ライゼ!(良い旅を)」と言って、爽やかな笑顔を見せてくれた。
あ、そうだ。「あのう、このパスにヴァリデーション(使用開始手続き認め)のスタンプを押してもらわないと使えないのですが・・・」と私が言うと、「ほら、あそこ。駅員がいるから行ってみて。」と教えてくれた。
おじさん達にスーツケースを見てもらって、エスカレーターで上がって行った。

駅員さんにパスを見せたら、「ほう、初めて見た。好きな日に一日乗り放題か。私も欲しいな。」と言われたので、「ドイツ人は買えないんですよ。」と言ったら、「へえ、そうかい。そりゃ残念。」とか言いながら、日付印を押してくれた。

さあ、戻ろうとエスカレーターで下りたら、ホームにあったはずの待合室が無い! えっ、何で!? キョロキョロしていたら、おじさん達が手招きしてくれた。違うホームに下りちゃった。てへっ。

みんな口数は少ないし、疲れ切った表情をしていたけれど、温かい心の持ち主だった。飛び入りの私にまで親切にしてくれた。早く、家族の待つ国へ帰りたいだろうな・・・。

二つ離れたホームの、ガラス箱の中から、みんなで「こっちだよー。」と手招きしてくれているおじさん達の姿が、その手が、何十年たっても鮮やかに浮かんでくる。

ハンブルク中央駅

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