リバーシブル(9)表

第9章 躍進

「…以上のデータから、今回の案件につきまして非常に高い可能性を感じプロジェクトとして取り上げていただきたいと考えております」

生野が新垣の作った資料を基に様々な観点から可能性を導き出すようなプレゼンを行っていた。

「生野さん、あなたの意気込みは良く伝わったわ。
それに、このデータはあなたがまとめたの?
かなり調べているようだけど」
役員の一人が質問してきた。
「このデータは私が部下の新垣に依頼をし作成させました。
事前にすり合わせもした甲斐もあり、皆さんにも把握してもらいやすいデータになったと思ってます」
生野は自信をもって答えていた。
「確かに根拠もありわかりやすかったわ。
あなたがちゃんと部下を指導出来ているのも十分伝わったし、生野さんを主軸にしたプロジェクトとして検討しましょう。」
「ありがとうございます」

生野は上機嫌でデスクに戻った。
「課長、お疲れ様でした。
私の資料、お役に立ちましたか?」
俺はデスクに戻った生野に、自分の作った資料の感触を知りたく声をかけていた。
「反応は上々だったわ。
私がしっかり指示したのを、君が形にしてくれたおかげね」
「良かった…
課長以上にドキドキしてました」
「別に君がプレゼンする訳じゃないでしょ?」
今日の生野は機嫌がいいのか、冗談も交えながら会話が出来た。

先日の総理が打ち出した男性の収入抑制を解除するという法案により、男性職員の待遇も変化し、社内で遅くまで仕事をする男性社員もちらほら見かけるようになっていた。

高橋は…
変わらず副業でも収入を得られてるようで、以前と変わらず与えられた仕事をさっさと済ませて直ぐに会社を出ていくため、最近ほとんど話す機会も減ってしまった。
(あいつは、ほんと器用だな。
まぁ、あいつらしいか)

「新垣くん、ちょっといい?」
生野が俺を呼んでいる。 
「はい、なんでしょう?」
「さっきプレゼンした件、私がPMとなって走る事になったわ」
「ええ!?
ついさっきの話ですよね?」
「私もびっくりしてる。
で、そのプロジェクトに君も参加してもらうから、宜しく」
「は、はい」
俺が返事をすると生野は上機嫌で席を離れた。

(課長、上機嫌だな)
俺は生野を見ていたら
「ねえ」
生野の同僚、小林が話しかけてきた
「君が新垣くんだよね。
咲…生野さんが最近君の事を嬉しそうに、話してたから気になって話しかけてみたの」
「え、課長が?」
「そう。
私、生野さんとよく話するんだけど、なんか自分に従順な部下ができて嬉しいって話してて。
でも、君もなんだかまんざらでもない感じだから微笑ましくて」
小林は意地悪く笑みを浮かべて
「今度は大きなプロジェクトを任されたみたいだから、これからも生野さんをしっかりサポートしてね」
そう言って小林は去っていった。
(なんか不思議な雰囲気の人だな。)

俺は残った仕事を片付け帰路につこうとしていたが、生野からメールが届く
『今日の20時、いつもの店にきてちょうだい。
プロジェクトの事も話したいし、今回のお礼もしたいから』

俺は返事を返し、約束の時間まで時間を潰すことにした。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
麻由里は最後の法案をまとめる準備に取り掛かっていた。

(今回で最後。
私が退任したあと、どうなるかは国民の審判に委ねるしかないわね。)
「総理、よろしいですか?」
速水が麻由里に声をかける。
「ええ、大丈夫よ」
「私個人の意見になるのですが…
やはり総理には離任してほしく無いです。
もちろん定年制を策定して、総理も例外なく…というのは理解してますが、これだけ国民の事を考えて政策を打ち出した方が定年で離任されるのは受け入れがたいです」
速水は初めて自分の気持ちを全面にだして気持ちをぶつけてきた。
「速水さん、ありがとう。
そういって貰えるといままで頑張った甲斐があったと感じるわ。
でも、やっぱり私には4年が限界よ。
こんな重圧に4年以上耐えながら公務を続けるのは精神がすり減ってしまう。

私はね、歴代の総理を全て否定するわけではないのだけど、本当にこんな重圧の中でまともな考えを持てるのは2年、ギリギリ4年だと思うの。
だから、それ以上に続けてこられた歴代の方は本当に強い方だったんだな…って」
こう話す麻由里の表情にはかなりの疲労が見えた
「総理…」
「だからね、次の法案で私の役目はおしまい。
その代わり、ちゃんと私利私欲で物事が進まないよう釘をさすつもり。
その後は、国民に委ねるわ」
麻由里は続けて
「残り1年未満だけど、最後までサポートお願いね、速水さん」 
「わかりました。
最後の1日までサポートさせていただきます」
速水はそう伝え、部屋を出た。
(速水さん、ありがとう。
とても頼りにしているわ)

(旧態に戻さない為にどうすればより効果的な抑止力になるのか…これがはまればなんだけど…

そっか、これを逆手に取れば…いけるわ!)
麻由里は煮詰まっていたアイデアが形になり、最後のシナリオを作り出した

〜 ひと月後 〜
「速水さん、またみんなを集めて下さる?
最後の法案がまとまったの」
「かしこまりました!」

速水はそう言うと手際よく党員へ通知を出した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

会場内には党員全員が集まっている。
今回が麻由里にとって最後の演説となる事もあり、注目度が非常に高い事がうかがえる。

「皆さん、前回お伝えしたように私からのお願いは今回で最後になります。

今までは国民を混乱させるような法案であったり、議員自らの首を締めるような法案だったり、色々無理難題を皆さんの力で可決してきたわけですが、今回は
今後の国会運営に関わる内容となります。  

私は今年で任期満了となり、来期は別の方が総理として先導を切られると思いますが、旧体制のような私欲にまみれた政権に戻ってほしくない。

必要以上の国債を発行し国民を苦しめるような政権に戻ってほしくない

そういう気持ちで今回の法案を策定しました。

大きくわけて2つあります。
まず1つ目。
私達、議員の報酬についてです。
こちらは既に大幅な削減をしておりますが、中には本当に国民の為に時間を惜しまず成果をあげられる方もいらっしゃいます。
そういう方には相応の報酬が出てもいいのではないかと考えました。
そこで、我々の議員報酬として現在の報酬をベースとし、皆様にご自身の成果をWeb上に公開していただきます。
その成果を国民の皆様に評価頂き評価数に応じて追加報酬を得られる制度とします。
逆に、特に成果もなく国会への参加も少ない、またあってはならないことですが居眠りされているなど明らかな怠惰が見られた場合は報酬が下がります。

こうする事で皆さんもご自身の掲げたマニュフェストが実現された場合は報酬も上がり自信にも繋がりますし、国民にも私達の活動を知って頂き、政治に関心をもつ機会になります。

ただし、国会議員はあくまで国単位の事で例えば地方の交通整備をした…例えば橋をかけた、道路を作ったなどは地方議員の成果とします。

これが1つ目。

そして、2つ目ですが
現在の法案可決には議席数の過半数が必要です。
今回私はこの制度を利用して色々改革を進めましたが、やはりこれは両刃の剣だと言うことを強く実感しました。

そこで、法案可決については議席数の過半数、且つ出席している全ての党で合わせて賛成数が4分の1以上あることにします

また、戦略的な欠席という事もありますので、不参加な政党については全て「賛成」扱いとします。

私はこの不参加は戦略とは言え、職務を全うしていないと考えています。
そのため、本当に反対ならきちんと出席されて反対票を投じて下さいという思いもあります。

この法案可決に必要な議席数の変更により、我々のような1政党だけで過半数、強いては連立政権で過半数という事態になっても、他の政党の反対票も有効になるため、一方的な可決に至らなくなると考えます。

そして、この政策には今回私達が可決させた法案においても正当な理由がない限りは覆されないようにするという意味も込められてます。

ようやく国民の方が一人でも多く社会に進出している今の状況を停滞していた頃のように戻したくないという、私の最初で最後のわがままかもしれません。

議員報酬の評価制
法案可決の議席数変更

この2つを今回の私が可決させたい法案です。

どうか、皆さんご協力お願いします」

麻由里は頭を下げ協力を仰いだ。

会場内は大きな拍手で包まれていた。

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