リバーシブル(5)

第五章 壊変

社会全体の女性管理職が男性管理職を遥かに上回り、男性が女性の上司の下で働く事が常態化していた。

俺は現職での仕事を進めながら、高橋から聞いた斡旋所で依頼をするような生活になった。

「新垣君、ちょっといい?」
今の会社で新しく俺の上司になった生野咲だ。
「はい、なんでしょう?」
「今月のレポートなんだけど、ここ見直してくれる?」
「あれ、何か問題ありましたか…?」
俺はあれから仕事のやり方を見直し、なるべく短時間で、かつ正確な成果物を作成するようにしていたのだか、今回初めての指摘を受けた。
「問題…という訳ではないのだけど、君の評価的に少し物足りないのよ。
もう少し掘り下げた資料にしてほしいわね」
「はぁ…わかりました。
再考いたします」

(あれ、俺の評価って??
確か昇給もしてないし変わってないはずなんだが…)

(まぁ、少し掘り下げる位ならさほど時間は取らないからいいか…)

俺はその程度の事だと考えレポートを再作成する事にした。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ねぇ、咲!
あの子…えっと新垣君だっけ。
評価何も変わってないわよね?」
生野の同僚、小林が不思議そうな表情で話しかけてくる
「ええ。
ただ、なんとなくいつも同じようなレポートばかりで面白みがないから少しイジワルしてみたかったの。」
「咲、貴女の悪い癖が出てるよ。
だめよ、男はうまく使わないと。」
「大丈夫よ。
今は完全に女性が主導な社会なんだし」

麻由里の政策によって、女性の社会進出は成功していた。
ただ、一部の人は優越感に浸り、男性を見下すような人も出てきていた。

これは麻由里は想定していない事で、まだ麻由里の耳には届いていない程度の変化でもある。

ただ、麻由里には他に深刻な変化の知らせが届いていた。

「中堅以上の男性に人権を戻せ!」
「居場所を返せ!」

そう、変化に対応出来ず社会から追い出されてしまった中堅以上の男性がデモを起こしていた。

「橘総理、とうされますか…?」
「ある程度予想はしていたけど、彼らだけに特権を与えてしまうと折角変化してきた今の環境が水の泡になるわ」
「そうですね…」
「本来であれば、彼らには女性をサポートする位の気概で社会に貢献してほしかったのだけと、今までが全て女性に頼り切っていた分、自分では何も出来ない事が露呈してしまったのね」
「総理、では彼らに居場所を与えるようなアイデアとして…
扶養制度を見直すというのはいががでしょう?
今の扶養制度だと年収の壁があったりと色々問題がありましたので、そういった課題を彼らに合わせるような…」

速水は珍しく自身の考えを口に出し
「あ、秘書なのに出過ぎた事を。
申し訳ありません」

「速水さん、気にしないで。
そうやって男女問わず課題に対してそれぞれの意見を言い合える環境が出来てきたって言うのはとても良いことだわ。

それに、そのアイデア少し練ってみる価値はあるかもしれない。

ありがとう、速水さん」

麻由里は残りの任期と現状を勘案し、目指す目的までのプロセスをフロー化する。

(今は、全体の6割…
あまり大きなテコ入れは出来ない。

となると…)

〜〜〜〜〜〜〜〜
『おい、また例の総理が妙な政策を打ち出したぞ」
高橋が興奮気味で俺に話しかけてきた。
『消費税を5%にする代わりに、低所得層の収入にも課税したんだっけ?」 
「消費税減税はかなり助かるけどな。
低所得層は扶養に入って節税していたのが通用しなくなった。
いよいよ、国民全員を働かせるつもりらしい」

そう、麻由里は原則働けない人を除き全員の収入から課税する。
税率は一番低いものになるが、これでは中途半端な稼ぎだと生活も大変になってしまう。

そのため、男女問わず可能な限り社会復帰し収入を得られるよう半ば強制的な政策を打ち出した。

消費税の税収は落ちるが今までの内閣内での節制、女性の社会復帰などで税収は概ね確保出来るという算段だ。

「最近、あの総理通したい政策を無理やり可決させてる感じがするよな」
高橋がうなづき、自分の気持ちを噺始める。
「そうなんだよ。最初は女性が積極的に社会に出て活気が出て良かったと思ったんだけど、俺達『男の立場』が無くなってきてるんだよな…

もしかして、あの総理、世の中を完全に女性が支配するような社会にしようとしてる…とか?」

俺は、「まさか」と答えるが、正直不安でいっぱいになっていた。

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