リバーシブル(12)表

最終章 自信

麻由里の総理交代から3年が経った。

もうすっかり女性の社会進出は当たり前のように定着し、女性管理職はもちろん年齢関係なく実力のある人が組織の上に立ち、男女問わず指揮系統に入れる。

麻由里が就任する前では、一部企業では積極的に行っていたが少数で、やはり男性主軸な社会形成となっていたが、その形式はすっかり無くなっていた。

そして、現総理の高坂も自身が掲げていた少子化対策に様々な法案を成立させ、少しずつ効果をあげていた。

「わかっていたけど、俺達が懸命に収めてた年金がもう運用不可能なレベルにまで陥っていたのはさすがに衝撃だったな」
俺は元同僚の高橋と久しぶりに会って話をしていた。
「そうだな。
あんなデータ見せられたらさすがに誰も反論出来てなかったし。
あの時の国会中継、いまだにSNSでも観れる位だからな」

そう、高坂は少子化対策の予算として年金制度を利用する事を考えたのだ。
現在のバランスだと、どう考えても受給者に対して支払う人の負担が大きすぎる。

そして、現在の収支をあえて可視化して国会中継で流し既にシステムとして崩壊している事を国民全てに発表したのだった。

その結果、高齢者への受給は大幅にカットされることから、定年制を原則廃止し、高齢者向けの就労サービスを発足し、働ける方には無理のない範囲で社会貢献をしてもらう。
生活保護の予算も見直し、生活保護者と働く事が困難な高齢者を一つの枠組みで支援する仕組みがなされた。

そして、年金は子育て支援に回り、これから生まれる子供達のために支払われる予算として生まれ変われり、体外受精や同性婚の認可、育休制度の活用もあり少しずつ新生児が増えてきていた。

「俺等世代もだけど、少し上の世代も本来受け取れるはずだった年金というものはなくなったのは確かに痛手ではあったけど、今のままでは完全に破綻すると言われたら、やっぱり年金制度自体を廃止するに投じてしまったよ」
「上の世代で年金をアテにしていた世代からの反発はすごかったけど、『未来への投資か破綻したシステムへの投資、どちらに投資したいか国民の皆様に問います』って演説が効いたみたいだな。
俺は、衰退していくのが見えてる未来より先に繋がる未来を選んで良かったと思ってるよ。
それじゃ、営業に戻るわ。
またな、新垣!」
そういうと、高橋は去っていった。

「さて、俺も戻るか。」
なんだかんだ言って、生野の部下になって仕事臥楽しくなっていた。
以前はなんとなく仕事をしている感じだったが、いまは自分の役割が明確にされ、その役割の中で周囲と協力しながら一つの大きなプロジェクトを達成させる喜びを感じられ、必要とされている実感が湧き充実した日々を過ごしている。

「新垣くん、ちょっといい?」
生野から呼び出しをうけた
「なんでしょう?」
「今度の会議資料なんだけど、ちょっと大きく修正をお願いしたくて。
ただ、私の意図も汲み取って欲しいから、このあと時間ある?」
「はい、もちろんです」
そういって、会議室に二人で入っていく
「この部分なんだけど、私はこういう主張がしたいの。」
「…なるほど。
だったら、こういう切り口ではどうですか?」
「そうね。
たしかにそれもありだけど、もう少しインパクトが欲しいわ」
「では…」

こうして生野と二人で資料について打ち合わせをするのもすっかり定着していた。
「それはそうと、私達の事色々噂になってるみたいね」
「え!?」
「あら、知らない? 
私とキミ、よくこうして二人きりで会議室に入っているからできてるんじゃないかって。」
「えぇ!
初耳ですよ!」
「あら、そうなのね。
まぁ、実際にはどうなのかしら?」
「あ、いや…
生野さんは確かに凄く素敵な方ですし、おきれいですし…
でも、私には高値の華というか…」
「ふぅん
好意は持ってくれてたんだ。
実はね、数年前例の店でキミをとことん罵倒して叱った事あったわよね?」
「はい」
「あれ、私なりにキミの事が気になってたから虐めてみたくなったのよ。」 
「えぇ!?」
「あら、知らなかった?
私ってSっ気があるからついつい(笑)」
「そうたったんですか…」
「でもキミはあんなに酷いこと言われても私に歯向かわなかった。
だから、キミってマゾなんでしょ?」
「うっ…」
「図星みたいね
ねえ、ここからは男女の話。
私は付き合うならマゾな人じゃないとダメなんだけど、プライベートでも私に対して従順でいてくれるならお付き合いしませんか?」
「あ…の…
えっと…」
「ふふ、すぐに返事なくていいわよ。
でも、そんなに待てないから、今週末には返事聞かせてね。

それじゃ、資料よろしくね」

女性から付き合って欲しいと言われたのは初めてでかなり動揺してしまった。

『と、とりあえず資料作成!
が、がんばるぞー」
動揺しながらもなんとか平常心に戻し自席に戻る。

〜〜〜 週末 〜〜〜
「新垣くん、今日このあと時間あるかしら?」
生野からの呼び出しだ。
「はい。」
「じゃ、私はこれで仕事終わるから例の店で待ってるわ」
「じゃ、みんなお先‐ー」
生野はそういうと事務所を出ていった。
俺も少し身の回りを整理してから、約束の店に向かう。
「おまたせしました💦」
「こないだの返事聞かせてもらおうと思って。
とりあえず入ろっか」
生野に手を引かれ店内に入る
「で、返事は?Yes?No?
あ、別に断ったからといって、ビジネスパートナーとしてはこれからも関係は変わらないから」
「はい…
えっと…俺で良ければ…是非と思ってます」
「相変わらずモジモジとして。
まぁ、そんなところが可愛くて目をつけたんだけど。
じゃ、プライベートでは私のことは下の名前で呼んでね。」
「咲…さん」
「ぎこちないわね(笑) 
まぁいいわ。プライベートでもいっぱい躾してあげるね。」
「はい…」
「あら?嬉しくない?
でもココだけの話、歩はマゾで良かったと思うよ。
だって、今じゃ女性上位みたいな感じでしょ?
Sだったらプライドが邪魔して社会に上手く順応できなかったと思うけどなぁ」
「確かに…」
「だからら歩は自分がマゾだからって卑下することはないわ。
むしろ自然なんだし、私彼氏なんだしもっと自信待ちなさい」
「ありがとうございます」
「ふふ、まだ仕事の関係みたいな感じだけど、まぁゆっくり慣らしていきましょう。あ、それからこの鍵渡しておくわ」
「これは?」
「私の家の合鍵よ。
歩一人暮らしでしょ?引っ越しして一緒に住まない?
結構大胆な事言ってるけど、私もやっぱり緊張してるのよ?」
「そうですよね。
女性にこんな事言ってもらったことないから動揺もしてますが、咲さんの気持ちに応えたいから一緒に住みたいです」
「良かった。
じゃ、引っ越しの日程きめたら教えてね」

(急に彼女が出来た…
まだ全然実感ないけど…、それもいきなり同棲…!)
俺は急にこみ上げてくる喜びにしばらく浸っていた

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ピンポーン 
(あら、誰かしら?)
「どちら様?」 
「あ、私です。
速水です!」
麻由里のもとに突然総理時代に秘書をしていた速水が訪ねてきた
「あら、久しぶりですね。
どうぞ、上がって下さい」
麻由里は早見を家に迎え入れた。
「早いものであれからもう3年。
今の高坂総理も順調みたいですね」
「私も秘書は辞職し、今の政界から離れた身なんですけど、私はやっぱり橘元総理の秘書で良かったと思ってます。」
「もう今は政治家でもないのだから、元総理は辞めてちょうだい。
今一般人の橘麻由里なの。」
「そうですよね、失礼しました。
じつは、謝らなきゃいけない事があり今日伺ったんです」
「謝る?」
「私、自分の野望のために橘さんを利用してしまったんです」 
「あぁ、女性が牛耳る社会にしたいって野望?」
「え!?
どうしてそれを?」
「あら、図星だったのね。
私も秘書を雇う時に候補者の方を調べていてね。
そこで速水さんが男性に対してかなり恨み?を持っているのを知っていたの。
もちろん詳細なんて聞かないし、言いたくない過去もあるでしょうから詮索はしない。
でも、私も目的はどうあれ男性社会からの脱却を目指していたから、最終的な着地地点は違えど同じ方向を向いてる人の方が話が通じると思ったのよ」
「だから、私だったんですね…」
「そういう意味では私も速水さんを利用していたって事になるわね。
だからお互い様でいいんじゃない?」
「ありがとうございます」
「それに、きっと速水さんの目指す着地地点は私が示して、今の政権が行っている施策とも少し違うのでしょ?」
「確かにそうなんですけど。
なんだか、あの5年で私の気持ちも晴れたといいますか。
男性社会が完全に悪だとは言わないですけど、やはり脱却して正解だったと感じましたし、何よりたくさんの女性が凄く活き活きされているのを見て、私の気持ちも晴れたんです」
「そうなのね。
それなら良かった。
では、速水さんもせっかくキレイなのだから、恋愛にも少し前向きになってみてはどう?
今の社会は前よりも女性の背中を押してくれるはずよ」
「そうですね…
でも、やっぱり恋愛はまだ当分遠慮しておきます(笑)」 
「あら、残念。
でも、元気そうな顔が見れて良かったわ。
またいつでも遊びにきて下さいね」
「ありがとうございます。
橘さんに出会えて本当に良かった。
本当にお世話になりありがとうございました」
速水は深々と頭を下げて感謝の意を示したた。
「こちらこそ。
色々サポート助かりました。」

麻由里も速水に対して頭を下げた。


エピローグ
「歩の荷物、これだけ?」
「だいぶ処分してきたんですよ
それに、これから同棲するのなら咲さんとお揃いとかも憧れるな…とおもって」
「そんな可愛い事いってたら、抱きたくなるじゃない」

俺は住んでいた部屋を退居し咲さんの家に越して来た。
あれから日を追うごとに恋人関係になったことに実感が湧き、今日に至った。
「抱くって、俺が咲さんを抱くんじゃなくて、俺が咲さんに抱かれるって事?」
「そうよ。
だって、歩はマゾだもん。
私がリードして可愛がらなきゃ満たされないでしょ?」
「え…いや、その…」
「なに?嫌だった?」
「う、嬉しいです」
「これからは毎日、私が歩を抱いてあげる。
だから歩はこんなSな私を受け入れて愛してね」
「はい…!」

あとがき
初めての小説で拙い文章にもかかわらず最後までお付き合いいただきありがとうございました。
表サイドはこれで完結です。
どういう幕引きがいいのかかなり悩みましたが…
勢い任せで終わらせました。

また何が思いついたら書くかもしれないし、最初で最後かもしれないし。

裏サイドも次回で完結予定ですので、裏サイドも読んで下さってる方はそちらも最後までお付き合いいただけますと幸いです。

最後に
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
この小説に出てくる氏名、団体など実在するものではなくフィクションです。


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