リバーシブル(3)

第三章 浸食

「なんか、最近会社に活気が出たよな」
仕事中に高橋が話しかけてきた。
「たしかに。女性職員が増えて明るくなった気がする。」

あの麻由里の政策以降、少しずつ社会に女性が積極的に進出していた。

特に、社内の比率が5:5を標準にする…
というもので、女性比率が高いほど法人税が割り引かれるらしく、どこの企業も女性採用枠を増やし、女性の社会進出を促進させる事になっている。

「新垣は新しい役員に挨拶したか?」
「嫌、まだお会いした事がなく、挨拶できてないんだよ。高橋は?」
「俺もまだ。
ただ、今週末うちの部将に来るらしいから、その時にしようかと思ってる」

麻由里の政策によって、各企業も取締役など役員が必ず女性も含めた登録がされていないと法人税が上がることから、企業も女性を役員に加え、経営について指る立場を得るようになり、社会全体に女性が活躍する場所が以前より多くなっていた。

「俺さ、はじめは平等党ってどうにも抵抗があったんだけど、この1年で大きく変化して社会が変わったから、今はいまの橘総理が総理で良かったと思ってるんだよ」
「確かに。なんか時間が動き出したって感じがするよな」

そんな橘総理の話をしながら仕事に集中していった。

おそらくほとんどの男性は忘れかけていた彼女を含めた平等党の『マニュフェスト』を…

〜〜〜〜〜〜〜〜
「総理、施策のおかげで女性の社会進出がかなり効果出ているようですね」
そう麻由里に話しかける速水の顔はどこかうれしそうだ。
「ありがとう。速水さんがサポートしてくれたおかげでもあるのよ。
ただ、そろそろマニュフェストを実行しなくちゃなのよね…
気が重いわ…」
いくら当選確率を上げるためとは言え、掲げたマニュフェストは実行しなければ前政権と同じだと国民からレッテルを貼られてしまう。
そうなれば、支持率も下落し任期満了まで保たなくなるため、できるだけ先延ばしにしていたが、いよいよ実行に移すタイミングとなっていた。

「ここからはかなりの反対が見込まれる。
平等党の党員を集めてくれる?」
麻由里は速水にそう伝え、速水は準備に取り掛かった。

数日後

「皆さん、今回お話する内容は党外へ漏らさないようにお願いします。」
麻由里が集まった党員に向けて話始める。
「私達の選挙で謳ったマニュフェストをいよいよ実行することになります。
そのため相当数の反対意見が飛び交いますので、以下対策として同時に審議する法案を説明します。」

少しざわめきが起こるが、そのまま続けて麻由里が説明する

「1つ目。副業を推奨する法案。
これは当然收入が減る分他の收入が必要になるための対策であり、企業には禁止出来ない旨の法案とします。

2つ目。アルバイトなど時給制の仕事意外の拘束時間による固定給を排除。 
これは、成果給へ移行させるための法案で生産性の高い方は短時間で成果を上げ副業にも手を出せるようにするため。
 
逆に言えば、昔ながらの残業が正義という人には不利になるわね」

「この2つを加えた上で、男性の給与を現行の60〜80%に引き下げる。
ただし、若年層は不慣れな事もあり100%はキープ。
女性は110%や120%まで引き上げる。

女性にも当然副業の機会はある。
ただ、やはり体力面で難しい事も多いので、なるべく現状の企業だけでも生活水準が上がるようにするのが目的」

集まった党員から拍手があがる

「皆さん、この法案を通すために力を貸してください」

大きな拍手で包まれ、麻由里の演説は終了した。

〜〜〜〜〜〜〜〜

「……以上3つの法案について賛成の方は挙手願います」

平等党が全員挙手をし過半数を獲得した。

「賛成多数で可決となりました」

「男性の人権をなんだと思ってるだ!」
「国の代表として性別差別を助長するのはいかがなものか!」

怒号が飛び交うが、冷静に麻由里はこう告げる。
「賛成多数で可決されましたので、皆様の総意だと受け止めております」

「ふざけるな!平等党だけで過半数だ。
我々は認めない!」

鳴り止まない怒号。
ついに麻由里は感情的になり、
「たしか前政権時代も同じような環境でしたよね?
自分達に都合のいいことは自分達だけで可決してきましたよね?

私は同じ方法を取っただけです。

この方法に問題があるなら前政権時代から是正しておいて下さい」

「・・・」

〜〜〜〜〜〜〜〜

『マジかよ…」
俺と高橋は職場でこのニュースを見てあ然とした。

「え、じゃ、俺達の給与が下がるって事だよな…?」
「あ…あ、そうなるよな」
「どうやって生活するんだよ…
あ、そのための副業か…」
高橋はやるせない顔をしながら新垣に話かける
「お前はどうするんだよ、今の仕事毎日遅くまで残業してるよな」
俺の務めている会社は所謂昭和時代の残業が正義な環境だ。
残業手当は出ていたが、今回の法案で残業代はなくなる
「成果給か…」
俺は改めて今後の事を考えながら、目の前の仕事をこなしていった。

(仕事との向き合い方を改める必要があるな
優先順位をつけて、無駄な作業を省かないと…)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?