降給のこと 4/4

承前

13.裁判例をひとつ

就業規則(賃金規程)の変更によって基本給を減額した例で、合理性が認められた例がありますので、書きとどめておきます(東京高裁H26.2.26、原審横浜地裁H25.6.20)。これは就業規則の内容の一部である給与規定(と労使慣行)によって金額が決まっていた基本給などを減額変更したという例で、裁判所は、その就業規則の変更が労働契約法10条により有効であると判断しました。賃金の減額幅は、(複数名いらして)平均8.1%です(最小6.1%から最大10.1%)。

判断の要素は、最判H9.2.28を踏まえて次の項目に分かれています。
1.従業員の不利益の程度 不利益が大きいとまではいい難い。
2.変更の必要性 必要性が高い(決算が提出され、先行する管理職の賃金減額などに言及されています。)
3.変更後の就業規則の内容自体の相当性 不利益の程度は殊更大きいとはいえず、同社の他の社員、県下の他の教習所や一般社会と比較しても低額ということはできない。不相当なものとはいえない。
4.労働組合との交渉の経緯 資料の開示や説明は不十分ではない。
5.経過措置や代償措置等 経過措置なし。
6.他の社員の対応 従業員代表からは意見がなく、原告ら以外から特段の異議はない。

14.減給するのはタイヘン

以上のように給料を減額するのはたいへんです。わが国では解雇も簡単にはできませんから、雇う側にとってはなかなか厳しい社会です。ですが、東京高裁H26.2.26のように給料の減額が適法なものとして認められる例も,
中にはあります。

厚生労働省のモデル就業規則には給料の減額のことは書かれていませんし、おそらく実際に給料の減額に言及のない就業規則のほうが多いと思います。労働法の建前とは異なり、多くの会社で、就業規則がどうなっているかとか、日常、あまり気にされることもありません。

ですが、いまは高度成長期でもありませんし、少子高齢化が進んでいますし、失われた●十年とか言われて、どちらかといえは(なにもしなければ)衰退してゆくか、よくて現状維持の時代ですから、給料が減る、という局面にも備えが必要だと思います。裁判例は厳しいのですが、そうはいっても、何か用意しておかないと、戦うことすらできません。少しでも争われにくい仕掛けを用意する努力が必要です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?