降給のこと 2/4
5.モデル就業規則
厚生労働省はモデル就業規則というものを提供しています。モデル就業規則では、給料の決め方に関して、次のような条項が設けられています。
以上のように、モデル就業規則では、降給に関する規定はありません。これだと、降給はさせられるでしょうか。参考にできる裁判例があって(東京地判H12.1.31)、これによると、就業規則に降格可能性について言及がなかったという理由で、降給を無効にしています。
このため、上記のモデル就業規則のような決め方であれば、降給可能性に言及がないので降給は無効、と言われてしまうことになります。なので、降給の余地を生じさせるには、とにかく(=後で争われようが、結果として無効と判断されようが)、まずは就業規則に、降給することもあるよ、と書いておく必要があります。
6.就業規則を変更する
これから会社を立ち上げて就業規則を作る局面であれば、降給に関する条項を就業規則に入れるのに苦慮しないかもしれませんが、既存の就業規則に降給に関する条項を入れようとすると、これは、不利益変更といえますから、簡単にはできません。ここは、法律から見てみます。労働契約法です。
就業規則の不利益変更は、10条の場合に可能です。変更が合理的で、かつ、労働者に周知させないといけない、となっています。就業規則の労働者への周知は労働基準法106条1項でも必要ですから、それはよいとして、では変更の「合理性」とは何ですか、という話になります。
ここは、参考になる最高裁判例があります(最判2小H9.2.28)。
なになになんですか?という感じですね。給料は、上がることもあれば下がることもあるでしょう、当たり前じゃないですか、という感じではなさそうです。最近の裁判例としては、東京地裁R3.9.7というのがあって、それによると次のように判示されています。
このように、裁判例は、単に降給することもあるよ的な就業規則の定めでは、降給を認めてくれそうにありません。降給を許さないことは、「今そこにある雇用」を保護するものであって、裁判官にとっても、今そこにいる労働者にとっても心地よい結論ですが、「①後で降給させられないのだったら、②やすやすとは昇給もさせられない」ということにもなります。
このように、裁判所の判断は、「目先の労働者を保護するとして、その次に起こること」に対する配慮は通常考慮されないか、分かっていても無視されることが多いと感じます。降給が容易になれば、よくできる人に思い切った好待遇を提供できるとか、降給に不満な人が退職してゆくとかいうことによって、人材の適切な配置が進むとか、雇用が流動化するとかいう効果が得られて、会社なり社会全体として生産性が上がるだろうなんて、定量的にはなかなか立証できませんので、このへんが裁判の機能の限界かもしれません。
(続く)
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