● 家屋の相続税・固定資産税の時価のこと4/4

承前

10.こうあって欲しいと望むこと

相続税でも固定資産税でも、「時価」が算定されなければなりませんが、現在、最高裁は、固定資産評価基準による評価額に強い時価推認を与えて、納税者の「時価」立証に重い負担を課しています(最2小判H15.7.18)。反面、課税庁が課税しようとするときは、不動産鑑定士による鑑定結果を特に批判することなく(納税者に対するものと同等の負担を課すことなく)受け入れることがあります。今回の最高裁判例(最3小判R4.4.19)がそうでした。

しかしながら、先に書いたとおり、固定資産評価基準による評価手法から得られるものは、積算価格の概算の域を出ることはありません。

また、今回の最高裁判例(最3小判R4.4.19)で問題になったタワマン節税については、地方税法352条1項の規定のために生まれている問題です。

(区分所有に係る家屋に対して課する固定資産税)
第三百五十二条 区分所有に係る家屋に対して課する固定資産税については、当該区分所有に係る家屋の建物の区分所有等に関する法律第二条第三項に規定する専有部分(以下この条及び次条において「専有部分」という。)に係る同法第二条第二項に規定する区分所有者(以下固定資産税について「区分所有者」という。)は、第十条の二第一項の規定にかかわらず、当該区分所有に係る家屋に係る固定資産税額を同法第十四条第一項から第三項までの規定の例により算定した専有部分の床面積の割合(専有部分の天井の高さ、附帯設備の程度その他総務省令で定める事項について著しい差違がある場合には、その差違に応じて総務省令で定めるところにより当該割合を補正した割合)により按分した額を、当該各区分所有者の当該区分所有に係る家屋に係る固定資産税として納付する義務を負う。

このように、地方税法は、区分建物についての固定資産税について、床面積割合按分としています。マンションだと、同じ床面積でも、高層階のほうが単位面積当たりの価格が高価であることは誰でも知っている事実ですが、これを床面積按分にすると、時価に対して、高層階では安く低層階では高く評価されることになります。

だからタワマン節税問題が発生するのですね。逆に低層階の区分所有者は、割を食っていることになります。(但し、平成29年1月2日以降に新築された居住用超高層建築物については、階層別効用比が一部採用されています。高さ60mを超えるものですから、20階建以上ぐらいでしょうか。地方税法352条2項。)

不動産鑑定士に区分建物の正常価格の鑑定を依頼して、階層別効用比による各フロアへの価格の割り振りが行われていないと、「」ってなりますよね。階層別効用比による価格の割り振りは、不動産鑑定では、通常の手順として行われることであり、特殊な手順でも、斬新な手順でも、未定着の手順でもありません。

ですが、固定資産税に関して(=評価通達で固定資産税評価額を引用する相続税に関して)、この点はなんのケアもされていません。このことも、固定資産評価基準なり地方税法の定めが時価を求める方法として十分ではないことの理由の一つになると思います(但し、平成29年1月2日以降に新築された居住用超高層建築物については、階層別効用比が一部採用されていますが自実勢を反映しているといえるほど十分とはいえないと思います。)。

このように、固定資産評価基準は時価を査定する方法として十分精度が高いとはいえませんから、相続税でも固定資産税でも、さしあたっては固定資産評価基準によって得られた額に基づく課税を行うとしても、納税者がこれを争いたいとして鑑定評価書などを提出したときは、固定資産評価基準によって得られた価額と、鑑定評価額を、少なくとも対等なものとして「時価」を探索できるようになってほしいと思います。

少なくとも、固定資産評価基準というルールが時価を算定する方法として十分な精度を備えていないことのリスクを、一方的に納税者にだけ負担させることは不当です。批判は、租税負担の軽減目的でマンションを購入した納税者に対してではなく、ヘタクソなルールのほうに向けられなければなりません

課税に関しては公平が語られることがありますが、統一された基準によることが公平なのではなく、「時価」による課税が実現することが公平です。
また、課税事務処理上の負担が語られることもありますが、課税事務処理上の都合から簡便さがいくら要請されるとしても、「時価」を上回る課税は違法であって、課税事務処理上の都合は違法な課税を是認する理由にはなりません。(本当に簡便にしたければ、区分建物を床面積按分にするのと同じように、全国一律に単位床面積あたりの税金を一つに決めてしまえばよいのですが、そういうことにはなりません。それは「時価」を探求するためです。)

固定資産税評価額の減額を求める事件を以前にいくつかやりました。固定資産税評価額の減額は、3年に1度の基準年度に、①固定資産評価審査委員会に対する審査申出②取消訴訟、という手順で進めることになります。相続税ですと、税務署長に対する再調査請求国税不服審判所に対する審査請求取消訴訟になります。ですが、納税者の言い分を理解してもらうのは簡単なことではありません。

その原因は、ここに述べてきたような「時価」評価に対する最高裁の判断がおかしい(時価推認を本来与えるべきでないものに時価推認を与えている)からだと思います。ですが、固定資産評価審査委員会で納税者の言い分を認めてもらったこともありますし、訴訟で勝った例もあります。

世間の認識は「固定資産税って下げる方法があるの?」みたいなところに留まっているように思いますが、言い分が通る場合もあるので、納税者は「時価」による課税を求めて、あきらめないで戦うべきだと思います。特に、固定資産税に関しては、訴訟より手前の固定資産評価審査委員会に対する不服申出のところで、ギリギリやる必要があります。納税者が不服の申出をしなければ、課税庁からは、「顕著な不満はみられない。」とか「制度は概ね理解されている。」と言われてしまいます。

他方で、固定資産評価審査委員会や裁判所にも、最高裁の判断はあるにせよ、「時価」について真剣に向き合って欲しいなあと思います。最高裁を引用するだけの木を鼻でくくったような判断は、つまらないです。そんなものはいらない。国民は求めていない。

どうやって主張を組み立てるかは難しい課題ですが、固定資産税評価額の減額を求める訴訟をやっていたときに、「鑑定評価書1通だけで通用しないなら、100人の不動産鑑定士に鑑定評価書を作成させて、それを書証として、その平均値だか中央値で「時価」とやってみたらいいんじゃないですか。」という話をしたことがあります。例えばボールペンが1本あるとして、100人が「これは80円だ。」と言っているのに、1人だけ「これは8,000円だ。」とは言いにくいんじゃないかなと考えたのです。これは冗談としても、主張の仕方については、工夫の余地は、まだあると思っています。

11.ついでに

今回のタワマン節税に関する最高裁判決(最3小判R4.4.19)は、評価通達(=固定資産税評価額)ではなくて、これよりも高額な不動産鑑定士による鑑定評価額を前提とした相続税課税を許容した例でした。

この場合、そのマンションの固定資産税はどうなるんでしょうね。固定資産税評価額は、この判決だけで当然に自動的に増額されるということではないでしょうから、実勢価格に比べて「固定資産税が割安」というメリットは残されると思います(評価額が1億円違うと、固定資産税換算では年140万円です。特例などを考慮しない場合。都市計画税については上限30万円の差額が出ます。合わせると、年に最大170万円の差です。)。

逆に、「固定資産税評価額も上がる」ということになったとすると、そのマンションの他の住民の固定資産税は下がるんでしょうか。固定資産評価基準からすれば、1棟の建物の評価額を床面積割合で按分する、ということになるので、1棟の建物が全体として負担する固定資産税の総額は変わらないはずです。そうだとすると、誰かの固定資産税が上がったら、他の人の固定資産税は下がらないと帳尻が合わないと思います。

この最高裁判決の事案は、札幌南税務署管内の事案のようですので、役所は、この最高裁判決をテコにして、このマンションの固定資産税評価額を、最高裁が採用した鑑定評価額(最3小判R4.4.19)まで増額してみたらよいのではないでしょうか。
あるいは、同じマンションの低層階の住民が、固定資産税評価額の減額を求めて不服を申し出るとよいと思います。
地方税法352条1項が生じさせている課税のひずみに注目が集まる機会(そしてそれが解決される契機)になるとよいなと思います。

(おわり)

追記(2022/11/30)


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