● 家屋の相続税・固定資産税の時価のこと1/4

1.最高裁判例が出ました

かねて話題になっていたタワマン節税について最高裁判決が出ました。最三小判R4.4.19です。納税者敗訴。その判断の当否にいくらか触れながら、裁判所が認定する「時価」のことについて書きます。この記事は、家屋の評価のことしか触れません(土地の評価のことには触れません。)。

2.相続税法22条からの基本通達

相続税法22条は次のとおりです。

第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

相続財産の評価は「時価」によると決めてあります。
で、財産評価基本通達(S39.4.25直資56、直審(資)17国税庁長官通達)というものがあって、一般に評価通達と言われています。その評価通達1⑵では「時価」の意義が、次のように書いてあります。

1 財産の評価については、次による。
2) 時価の意義
 財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日若しくは相続税法の規定により相続、遺贈若しくは贈与により取得したものとみなされた財産のその取得の日又は地価税法第2条《定義》第4号に規定する課税時期をいう。以下同じ。)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による

時価」とは、その取得の日において不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額であって、その価額は、評価通達によって評価する、ということです。

それで、評価通達89では、家屋の評価について次のように定めています。

89 家屋の価額は、その家屋の固定資産税評価額(地方税法第381条((固定資産課税台帳の登録事項))の規定により家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登録された基準年度の価格又は比準価格をいう。以下この章において同じ。)に別表1に定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する。

別表1に定める倍率は「1」なので、家屋の評価は、固定資産税評価額による、と決まっています。

これが原則で、さらに、評価通達6では、次の定めがあります。

6 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

評価通達89により固定資産税評価額をもって評価することが著しく不適当と認められるときは、国税庁長官の指示を受けて評価する、ということになります。これは例外です。

3.今回の判例

今回の裁判例では、評価通達=固定資産税評価額によると係争不動産の評価額は、333,706,241円になり、これを踏まえて他の遺産なり負債なりをふまえてもろもろの計算をした結果、相続税の総額は0円、という申告がされた例でした。

これに対して、国税庁長官の指示に基づき、札幌南税務署長が「不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準により本件相続の開始時における本件各不動産の正常価格として算定した鑑定評価額に基づき」不動産の価格評価を改めた結果に基づいて、相続税の総額は240,498,600円、という内容の賦課決定しました。

なお最高裁は、「相続税法22条は、相続等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価によるとするが、ここにいう時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。」と言っています。

で、最高裁は、次のように言っています。評価通達6にいう「著しく不適当」とはどういう場合か、という点について、端的な答えを示していません。

「本件各更正処分に係る課税価格に算入された本件各鑑定評価額は、本件各不動産の客観的な交換価値としての時価であると認められるというのであるから、これが本件各通達評価額を上回るからといって、相続税法22条に違反するものということはできない。」

最高裁は、租税法上の一般原則としての平等原則に関して次のように述べています。

「課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。」「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないいと解するのが相当である。」

この上で、最高裁は、本件における実質的な租税負担の公平について、評価通達による価格と、鑑定評価額との乖離をもっては平等原則に違反していないが、租税負担の軽減の意図をもってやってるから、実質的な租税負担の公平に反する、とやってます。

ですので、評価通達の価格(固定資産税評価額)と時価の価格差の程度よりは相続税負担軽減のために意図的にやってるかどうか、が今後の例では中心的な課題になるでしょう。判断のポイントをこのように主観的な要素に持ち込むのは、適切であるとは思えませんが、逆に客観的な数値をもって「ここまでならオッケー」ともやりにくいのかもしれません。

4.原審の判断

最高裁は、原審(東京高判R2.6.24)、の判断について、次のように要約しています。

「原審は、(中略)本件各不動産の価額については、評価通達の定める方法により評価すると実質的な租税負担の公平を著しく害し不当な結果を招来すると認められるから、他の合理的な方法によって評価することが許されると判断した上で、本件各鑑定評価額は本件各不動産の客観的な交換価値としての時価であると認められるから(中略)本件各賦課決定処分も適法であるとした。」

評価通達の定める方法により評価すると実質的な租税負担の公平を著しく害し不当な結果を招来する」のであれば、評価通達の定める方法=固定資産税評価額ですから、固定資産税評価額の算定方式が、時価を求める方法として、ヘタクソなんじゃないですかね?と思います。
そして、不動産鑑定士による鑑定評価は時価を求めるための「他の合理的な方法」にあたるんですね。

なお、原々審(東京地判R1.8.27)では、不動産鑑定士による評価について、次のように判示しています。

不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に基づき算定する不動産の正常価格は,基本的に,当該不動産の客観的な交換価値(相続税法22条に規定する時価)を示すものと考えられること(地価公示法2条参照)」

評価通達=固定資産税評価額なわけですが、「不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に基づき算定する不動産の正常価格は,基本的に,当該不動産の客観的な交換価値を示すものと考えられる」のですね。そして、原審も、最高裁も、原々審で採用された不動産鑑定士の評価額が「時価」であることを前提にしています。

そうですか。ここから固定資産税評価額の話に移ります。

続く


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