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今月のユウウツ『顔まわりが忙しい。』

かねて悩みの種だった「顔まわりが忙しい問題」が寒さの深まりと呼応して、一層混迷を深めている。そう、マスクのことだ。普段から僕は、眼鏡にキャップと顔まわりがごちゃつきがちなので、マスクを着けても大差なかったのだけど冬は別。とっておきにと準備してきたマフラーはどうしたらいいのか……。その点、マンドーことマンダロリアンに学ぶことは多い。彼は映画『スター・ウォーズ』シリーズに連なるディズニープラス配信の傑作ドラマ『マンダロリアン』の主人公で弱きを救う戦士。そして、いつでも同じアーマーを着ているのだ。“べスカー”という鋼でできたこの鎧は、宇宙一の強度を誇る。巨大生物の胃酸に浸っても溶けることはなく、ブラスターを被弾しようともぐんぐん前に進める。その上、ライトセーバーすら頭上で両腕をクロスして受け止められるのだ。強すぎ! ともかく彼は全身を覆うこのアーマーを決して脱ぐことがない。水を飲むときさえ顔が見えないように仮面をひょいと持ち上げるだけ。強者は感染対策も万全なのである、というわけではもちろんない。それは彼が守るべき教え「我らの道」だから。求道者は自ずとスタイルを確立する。

 だけど、ベスカーじゃあるまいし、もちろんそんなストイックな真似はできない。それに、こちとらまだまだ着たい服はたくさんあるのだ。どんなに活躍の期間が短くともダウンベストはやっぱり着たいし(建物の中で脱ぐタイミングが難しい)、花見の夜にめちゃくちゃ寒い思いをしようとスプリングコートだって諦められないし(つい昼の陽気につられがち)、防風の必要もないのにレザージャケットにも手を出しちゃうし(みんないつ着てるの?)、ベースボールキャップ→コーデュロイのキャップ→ニットキャップって季節に応じた流れも自分の中ではあるし(サマーコーデュロイをどこに挟むか、いまだに悩ましい)。助けてマンドー。

 これじゃ新年から歩く煩悩の塊じゃないか。やはり鎧を着ようか……と、同じく『マンダロリアン』が好きな編集部のTさんに相談すると、僕以上に「顔まわりが忙しい問題」を憂いていた。「マスクは当然着けるとして、キャップはかぶりたいし、日中は日差しが強いからサングラスもかけたい。でも、ひと目見て怪しいでしょ? 鏡に映る自分がどうにもピンク映画を観に行くときの鳥山明にしか見えないんだよなぁ」。“マスク+キャップ+サングラス=ピンク映画に行く鳥山明”の等式が脳内で成り立つのはたしかにしんどい(若い読者の方には伝わりづらくてすみません)。「それにマフラーを巻いたら、顔まわりが密も密。しかもマフラーとマスクって顎のあたりでぶつかってさ。なんかもやっとするよね」。そう! それなんですよ……。「いっそマスクにダーっとマフラーみたいな長い布を付けてくれないかな。名付けて“マスラー”。どう?」とドヤるTさん。鳥山明の等式もなかなかだが、この発想もなかった! 結局密には変わりないが、語感も“べスカー”に似てるし、これぞ「我らの道」かもと思えなくもない。どうか、この憂鬱を吹き飛ばすべく、誰かマスラーを作ってください〜!

illustration: Yoshikazu Ebisu text: Ryota Mukai

シティボーイならではの憂鬱に正面から向き合っていくポパイのコラム連載です。本誌では悩みをトリッキーな角度から解決する「今月のナイスアイディア」も掲載しています。イラストは漫画家・蛭子能収さんの描きおろし!

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