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今月のユウウツ 『ネットの距離感 』


電車に揺られてツイッターを開けば、今日もネットが燃えている。野次馬な皆さんが渦中のアカウントに凸って、「信じられない!」「何考えてんだ!」「謝れ!」と激おこ。一度“叩いてよし!”の烙印を押したが最後、よってたかってフルボッコ。何このゴッサムシティ。俺の好きなインターネットってこんなだったっけ? 鬼越トマホークのYouTubeでも観て落ち着こうよ。和むよ。
 最近特に、ネットの距離感にモヤモヤしている。不倫にしろ不祥事にしろ、当事者をガン詰めするほどの熱量ってどこから来るんだろう。だって現実に置き換えたら、本人の前に突然現れて「あなたは間違っています! 訂正してください!」なんてただの変質者だし、即通報&即終了じゃないですか。でもネットなら、匿名という透明マントのおかげで、身バレせず安全に相手を叩けちゃう。いや、叩くっていうより“正しいことを言ってる”っていう世直し感覚に近いのかも。正論って言ってて気持ちがいいもんね。間違ったことをした相手を正義の刀で斬りつけるのが、一種の快楽みたいになってるのかなー。それなら『龍が如く』とか『コール オブ デューティ』とかプレイしたほうがよっぽどスカッとすると思うけどなー。
 怒ってる人のことが気になって匿名アカウントのツイートを覗いてみたら、10分置きくらいに様々な有名芸能人にリプライを飛ばして毒や嫌味をぶつけまくり、合間で企業とか某社長の懸賞企画をRTしていた。牛丼が一杯無料とか、100万円が当たるとか、RTまたはフォローするだけでいいやつ。だからタイムラインは毒、毒、毒、懸賞、毒、懸賞、懸賞、毒、毒、毒。友達なら心配しちゃう。この人に限らず炎上に加担する匿名アカの多くがこんな感じで(俺調べ)、暇つぶし程度に芸能人にリプして、稀に反応が来たらラッキーくらいの、そのあたりも懸賞感覚っぽい。ポチッと毒づきたいしポチッと当選したい、ライトな欲望が渦巻いている。これが2020年のインターネットなのか……。ティム・バーナーズ=リー先生、あの頃の未来に、僕らは立てているのかなあ。
 まあ誰かの片手間な悪口も、くらうほうはたまったもんじゃない。「ガチで捉えちゃいけない、スルースキルだ!」と強者は言うけれど、実のところ意志を持って刺しに来る言葉はキツい。責められるうちに視野がクッと狭くなって、「本当に俺はダメなやつだ……」と悪いほうへ考えてしまいそう。そういうときは心を鬼にしてスマホを離し、180度別のことをするしかない。どこかに出かけてリフレッシュもいいけど、ネットは毎日のことだから、手軽に抜け出せたほうがいい。千鳥の『相席食堂』の長州力回(飛ぶぞ!)とかパンサー尾形回(泥!)とか観て、何も考えずに爆笑しようそうしよう。もはやネット=仮想空間だけの出来事なんて時代はとっくに終わって、絶妙にリアルの中に入り込んでるのが今。距離感を見極めないとのみ込まれちゃう。とか言ってたら今度は縦読み不倫? 不倫のバリエーション多すぎるから、もうみんな凸らなくてよし!

illustration: Yoshikazu Ebisu text: Neo Iida

シティボーイならではの憂鬱に正面から向き合っていくポパイのコラム連載です。本誌では悩みをトリッキーな角度から解決する「今月のナイスアイディア」も掲載しています。イラストは漫画家・蛭子能収さんの描きおろし!


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