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今月のユウウツ 『恋人は謎だらけ』

誰だって意中の相手と付き合えた瞬間はテンション爆上がりで、世界は光り輝き、全ごはん粒がギャン立ちして何を食べてもおいしい。寝付きはスヤァだし、お通じもEXITばりにポンポンポンと良いことずくめ。それなのになぜだろう、関係が深まるにつれ「気持ちをわかってくれてない!」とクレームが増えていくのは……。
 休日に部屋でダラダラしていたときのこと。遊びに来た恋人が急な仕事があるとかで熱心にパソコンをパチパチし始めたので、邪魔しないように「ヘッドホンしてゲームするね」と断りをいれ、襲撃ミッションにいそしんだ。宝石店に突入しようとしたそのとき、ヘッドホン越しでも聞こえる破裂音。バーン! 一瞬混乱して「撃たれた!?」と緊張が走ったけど、ここはロスサントスではなく東京で、玄関ドアが閉まる音でした。でLINEがピロリ。「ゲームばっかりしてひどい。帰ります」。まじか! ていうかそっちも仕事してなかった!? あとちゃんとお断りしたつもりだったけど足りなかったです? 急ぎ「ごめんよそんなつもりはないのだよ」と返信したけど既読はつかない。返事を待とうとゲームを再開するとまたLI
NE。「なんで追いかけてきてくれないの!」。師匠、さすがに行き先わからないです! もしかしてドアの前で待機してる?(ゾッ) と恐る恐る扉を開けてみたけど、いない。てことはマンションの外?(ゾゾッ) と表に出てみたけど、いない。はいここでBGM入ります、大沢誉志幸で「そして僕は途方に暮れる」。部屋に戻りながら思いましたね、ああまた気持ちを酌めなかったなと。ヘッドホンをしている姿が疎外感を与えたんだろうか。何も着けず無音でゲームしたら良かったのか? しかしそれではストーリーを堪能できないし……。なおこの後、謝罪に次ぐ謝罪を繰り返し、おいしいものを食べに行ったら師匠は許してくれました。
 またあるとき。日帰り温泉に向かうドライブ中「何か音楽流してよ」と言うから合点まかせとけと適当に音楽を流したら、途中から無言。聞けば「さっきから自分ばっかりずるい!」。流してって言うから流したのに!? でも反論すれば火が付いて、箱根行きの道中が怒りのデス・ロードと化してしまう。オーケー和やかにいこう。「全然いいよ、自分の好きな曲流してよ」と優しさと恐縮を絶妙にブレンドした声色でiPhoneを渡す。しかし「そういうことじゃない!」とバッサリ。くぅー! このフロアにDJは俺ひとりじゃなかったんだね、ダブルDJだったんだね。おもんばかれなかった俺がいけなかったんだ、きっとそうだ。無言のDJらをのせた車が越える箱根の山はいつにも増して厳しかった。でも温泉に浸かったら嘘みたいに機嫌が直ったから温泉はすごい。
 ハナコのコントじゃないけど「女子ムズー!」な状況って結構あって、友達の話なんかを聞くとそれは男女関係なく巻き起こってる模様。毎度うそ〜んって思うけど、相手を思えばその不条理だって愛おしく思えてくる気がする。そのぶん関係が近いわけだしね。……と言いつつ余談ですが上記の恋人からは別れ際「ずっとわかってくれなかったね」的な総括をいただいたので最後はさすがに言いました。「わかんねえよ!」

illustration: Yoshikazu Ebisu    text: Neo Iida 

シティボーイならではの憂鬱に正面から向き合っていくポパイのコラム連載です。本誌では悩みをトリッキーな角度から解決する「今月のナイスアイディア」も掲載しています。イラストは漫画家・蛭子能収さんの描きおろし!

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