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「ドラッグス」第一話

 人間50年ってどっかの偉人が言ったらしい、けれども、俺の両親は40半ばでこの世を去った。

 「ブレイク」 それは巷を騒がす悪魔の薬だ。
「ブレイク」を接種したものは、24時間の間 超人的な身体能力と自然治癒力を得る。開発当初この薬は人類の可能性を引き上げると持て囃された。しかし、深刻な副作用が3つあった 1つ目は強烈な中毒性 2つ目は性格の凶暴化 そして、3つ目は常人には決して手にすることの出来ない力つまり超能力を身につけてしまうことである。そして、俺の両親はその薬を開発した研究者だった。

 父も母も人類の役に立つ発明としてこの薬を作った。しかし、世間は副作用が判明するとすぐに両親をバッシングした。打ちひしがれた両親の不幸は続いた、両親は薬のレシピとそれの接種機を狙った輩に殺害された。優しかった父と母は最悪の薬を世にもたらした張本人とされ、悪人の汚名を着せられたままこの世を去った。世のため人のために作られた薬は悪人の快楽と手軽な武装手段として広まった。俺の誕生日のちょうど一週間前の出来事だった。

 あれから3年、俺は高校生になっていた。あの日から俺は、来る日も来る日も深夜まで両親の生きた証を実感するために両親の研究資料を読み漁り再現実験に明け暮れていた。

 この物語は、俺の誕生日の一週間前から始まる。

 ある日、学校から帰ると家の奥からばあちゃんの声が聞こえた。
「勇太に、荷物が来てるわよー」ばあちゃんの声はよく通る。ばあちゃんは、両親の死後、俺を引き取って3年間ここまで育ててくれた数少ない家族だ。

「わかった」

 おばあちゃんに返事を返して自分の部屋に着くと小さめの小包が置いてあった。小包に記載してある伝票には"奥田勇太様"と俺の名前と我が家の住所が書いてあるだけだった。俺は、何の気なしに小包を開けた。

それが、自分の人生をあそこまで変えることとなるとは知らずに。

 小包の中身は一枚のSDカードと”お誕生日おめでとう”と書かれたメッセージカードだった。俺はSDカードの中身を確認してみた。ビデオとPDFファイルが入っていた。おもむろに入っていたビデオを再生してみた。

「「裕太誕生日おめでとう」」それは、紛れもなく父さんと母さんだった。

俺は、思わず感情が溢れ出しそうになった。しかし、映像の父と母にはそんなことが伝わるはずもなかった。

父さんは、言った
「家族の、いや、人類の未来をキミに託す。このSDカードには僕と美咲つまり君の母との研究の集大成が入っている。それは、"ブレイク"の副作用を抑えることができる機械"ブレイクアブソーバー"の設計図が入っている。ここに記した図面と妻が残した化学式を元にすればブレイクをほぼノーリスクで運用することができるはずだ。これを利用すれば、私たち家族の汚名を晴らし人類に新たなる可能性をもたらすはずだ。この発明を君に託す。」

映像の中の父がそう言い終わる前に母が割り込んでこういった。
「この発明をあなたに託す。私たちの信じたあなたに。それを自分の信じたように使いなさい。パパもママもあなたを信じているわ」そう言い終わると映像は突然終わった。

 呆然としていた俺は、気がつくと無我夢中でPDFファイルを開いていた。

あれから、瞬く間に一週間が経った。
 「これが、ブレイクアブソーバー…」
 俺の目の前には両親の託した思いを元に自分の力で完成させたタバコ箱くらいのサイズの装置が置いてあった。俺は、一週間で"ブレイクアブソーバー”をなんとか完成させたのである。スマホで時間を見ると朝7:00であった。スマホの通知画面にはネットニュースの通知が入っていた
見出しは、「ブレイク犯罪急増中!」と書いてあった。

 バタン!そんな音と共に部屋のドアが開いた。かなり怒った顔のばあちゃんが顔を出した。
「裕太!あんた一週間も学校サボって何してるの!?今日こそは、絶対に行ってもらうからね!友達の英気ヒロキ君も迎えに来てるわよ!」
そういえば、ブレイクアブソーバー作製に没頭しすぎて一週間学校をサボってしまっていた。
「わかった、今日は行くよ」そういうと学校のカバンを持ち制服に着替えた。なんとなく、できたばかりの"ブレイクアブソーバー”をカバンに入れて階段を降りた。

「朝ごはんはー?」というばあちゃんの声を「いや、いいよ」と軽く受け答えしながら玄関に向かった。

家を出ようとするとばあちゃんが小走りでやってきた
「行ってらっしゃい、それと、お誕生日おめでとう!」
「ありがとう!行ってきます!」と返しながら玄関を開けると友人の"竹元 英気ヒロキ"が立っていた。

「よう!不登校くん。学校に行く覚悟はできたか?」
英気とは、幼稚園生からの仲だ。こいつは、いつも俺のことを気にかけてくれる数少ない友達の一人だった。
「うるせー」そう軽く返して学校に向けて歩き出した。
「そんなことより、最近この近所でもブレイクを使用して暴れ回る変質者が出たらしいぜ。どうやら、女子高生ばかり狙って服をあっという間に切り刻むらしい。全く許せねぇよな」
英気は、親が警察官ということもあり正義感が強い男だ。
「そうなのかー、まっ女子高生ってことは俺たちにはあんまり関係ねぇな」
 そんな何気ない話をしながら、歩いた。

 学校が見えてくるとこの春の陽気に似つかわしくないロングコートの人物が学校の様子を伺っていた。
「おい、あいつ様子がおかしくないか?」英気の言葉で改めて観察してみた。性別はおそらく男、体型は肥満体型、スニーカーにジーパン姿で真冬に着るような黒いロングコートを着てバケットハットを深く被っている。
まさしく素顔を見られたくないような想像通りの不審者だ。
奴は、周囲を確認すると学校の裏手から侵入した。
「おい!あいつ追うぞ!」英気ヒロキの気迫におされて俺も奴を追うことになった。

 奴は、校舎裏に向かった。校舎裏の一番ひとけのない場所に着くと奴は立ち止まりポケットから小さな注射器のようなものを取り出した。
 「おい!行くぞ!」英気ヒロキそう言うと思いっきり走り出した。「あっ!待て!大人の人を呼んで!」俺の静止を無視して奴は走った。俺もそれを追うように走り出した。

英気は、「うぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ」そう雄叫びをあげながら不審者に突っ込んだ。男子高校生の全力のタックルおそらく大柄な不審者とはいえ不意をつかれればかなりのダメージになるだろう。バタン!不意にタックルを食らったことにより不審者は転倒した。反動で手に持っていたものを地面に落とした。それを見て俺は驚愕した、それは、以前研究資料で見たブレイクそのものだからである。こいつが巷で噂のブレイク犯罪者か…生で見たのは初めてであった。

「おいおい、坊やたち大事な薬が落ちちまったじゃねぇか」
そういうと不審者が立ち上がり、ブレイクを拾おうとした。英気はそれを蹴ってそれを阻止し腹に正拳突きをお見舞いした。
「おい!あんたニュースに載ってたブレイク犯罪者だな?ここで暴れるのは俺が許さねぇぞ」不審者は数歩のけぞった。英気は父親の影響で格闘技を習っていたため彼のパンチはかなりの威力だったようだ。不審者は腹をさすりながら言った。
「おいおい、坊主達大人を舐めちゃいけないよ。悪い子にはお仕置きしなきゃなぁ。そう言うとポッケからもう一本のブレイクを取り出し自分の首元に打ち込んだ。手首にはブレイク投薬者に現れる特有の斑点、投薬痕が右手の甲に現れた。

 不審者は一度身震いをすると、ニヤりと笑って拳を英気にお見舞いした。英気が一気に数メートル後ろに吹っ飛んだ、ギリギリのところでガードはしていたため致命傷を免れた。しかし、地面にかなりの勢いで打ち付けられた。

 不審者は俺の方を見た。やばい、殺される。
死を悟ったとき人間は周りがゆっくりと動いてるように感じるらしい。今まさにそんな感覚に襲われていた。妙に落ち着いた俺が、ふと足元を見ると"ブレイク"が落ちていた。さっき奴が落とした1本目の薬だ。このままでは殺される、そう思うと俺は無我夢中で"ブレイク"を拾い上げ、そしてカバンのブレイクアブソーバーを取り出した。そして俺は想定通りに手首に装着し薬をセットした。
「おいおい、そんなおもちゃで何しようってんだ?その薬はおもちゃじゃねぇ返しな!」不審者は俺に叫んだが俺の耳には何も聞こえなかった。

心の静寂の中俺は、自分に問いかけた。そうだ、俺は何をしようとしてたんだ、俺は何がしたいんだ、何をするべきなんだ。俺は、両親の汚名を晴らしたい。こんな奴のこんな目的のためにこの薬を使わせてはいけない。両親との思い出が心いっぱいに流れこんだ。

俺は、不審者を睨みこう言った
「俺は、やるべきことをやるだけだ」そう言うと、装置の両サイドについているボタンを押した。パシュンという音とともに、俺の手にも投薬痕が現れた。身体中が暑い、エネルギーが身体中を駆け巡っているのがわかる。これがブレイクの効果か、凄まじい。どうやら装置は成功しているようだ。しかし、成功を喜んでいる暇はなかった。不審者は臨戦体制だった。

不審者は、言った。
「貴様も投薬したか、近距離戦闘ならば同等の力が出るはず。だが、この薬の真の力は肉体強化だけではない」奴は右手を広げて俺の方に向けた。
そして、少し力んだ。その瞬間鋭利な空気の塊が俺の横を通り抜けた感覚が伝わり。俺の頬に傷をつけた

そして数秒後、ズバァァン!!!という音とともに後ろの木に凄まじい切り傷ができた。

「おっと、勢い余って狙いを外しちまった。次はこうは行かないぜ!」そう言うと腕を少し動かしてまた力んだ。やばい俺は咄嗟に右によけた。俺は想像の数倍横に移動して驚いたが、一瞬も気が抜けない状況でいちいちリアクションをとっている暇はなかった。奴は何発も空気の塊を打ち始めた。

 ブレイクの副作用にはブレイクスキルと呼ばれる超能力が発症する。個人ごとに異なる能力が発症するため対策が取りづらく警察も非常に手を焼いているらしい。どうやら、奴の能力は空気の密度を操作して鎌鼬を作りだす能力のようだ。俺がそう分析していると不審者は俺に言い放った。
「どうだ!?これでは近づけねぇだろ!服用者同士の戦いにおいて自分のスキルがわからない状態で生き残れるほど甘かねぇんだよ!!」

 その通りだ、薬を打ったところで不利な状況は変わらない。こんな状態では絶対に勝てない。いずれ避けきれずに被弾する。そしたら無事ではすまないだろう。
「ぴょこぴょこぴょこぴょこ飛び回りやがって!それならば、絶対にかわせない一撃をお見舞いしてやる!!!」そう言うと不審者は両手を俺に向けた。奴は、左右に避けてもかわしきれないサイズの攻撃を放つつもりだ、どうするいっそのこと上に!だが、上空では身動きが取れない、次の一撃絶対に当たる。しかし、状況的に選択の余地がなかった。俺は奴の攻撃の瞬間を見計らい思いっきり上空へジャンプした。

ズバン!!次の瞬間そんな轟音が響き渡った。

 気づくと俺は、はるか上空にいた。俺の跳躍は想像以上の代物だった。俺のブレイクスキルはおそらくこの脚力だろう。軽いジャンプで5階建の校舎の屋上が見える。どうやら、奴は自分の放った攻撃と俺のジャンプによって発生した土煙によって俺の姿が消えたと誤認しているようで俺の居場所を特定できていない。距離を詰める絶好のチャンスだった。俺は、推進力を得るべく水泳選手が壁を蹴るごとく空間を蹴ってみた。ボンッ!と爆発するような音ともに俺は、推進力を得た。
 しかし、不審者は俺の存在に気づいた。
「貴様!そんなところに!」不審者は俺に両手を向けた。
ヤバイ!このままではヤられる!そう思った時、奴の後ろに近くの石を振り上げた英気の姿があった。ガツン!次の瞬間不審者の頭に石が直撃した。
そして、英気はそのまま不審者に掴みかかり奴の能力は不発に終わった。
「勇太!俺ごとこいつをヤれぇ!!!」
「テメェ何しやがる!」不審者は凄まじい剛腕で英気を振り解いた。
英気は数メートル後ろに吹っ飛ばされた、しかしもう遅い俺はやつの腹めがけて蹴りを炸裂させた。その瞬間、電撃の駆け抜けるような衝撃が足から奴に伝わった。
 
 終わったか!?奴は数十メートル吹っ飛んだ。土煙の合間から奴がよろよろと立ち上がるのが見えた。
「ハァハァ、危なかったゼェ、神は俺に味方したようだ」奴ははそう言うとまたしても鎌鼬の発射体制に入った。そして、叫んだ。
「死ねぇえぇぇぇぇぇぇぇ、ハッぁあぁぁぁぁぁ!」奴は力んだ。

 しかし、鎌鼬は出なかった。俺のスキルは脚力だけでなくブレイク能力を一時的に使用不能にするらしい。今がチャンス!俺は雄叫びを上げながら走り出した。

「うぉぉぉぉぉぉぉ」そして、奴に飛び蹴りをぶちこんだ
「なぜぇダァ、なんで出ないんだ!!」奴はそう叫びながら吹っ飛んだ。

 やばかった、俺は直撃の瞬間奴の手の周りに空気の塊を感じていた、この能力の持続時間は30秒程度なんだろう。奴は完全に気絶していた。

 奴に近づいてみると奴のポッケに入っていた2本のブレイクが落ちていた。それを拾い上げた時、後ろから英気の声が聞こえた。

「おい!裕太!」
 英気の表情は勝利と不安が混じったなんとも言えない顔だった。しょうがないブレイクの使用はどんな状況であれ犯罪だ。友人が犯罪者になるのが彼にとって辛かったんだろう。

 英気から意外な一言が飛び出た。
「お前!急いで隠れろ!パトカーが来てるぞ!このままなら捕まっちまう。あとは、俺がなんとかするから!!」そう言われてようやく俺はサイレンの音に気づいた。

 急いで物陰に隠れると、すぐに警官2名と刑事らしき男が走ってやってきた。「英気何をやっている?この辺にブレイク犯罪者がいると通報があった」刑事は言った。
「いやぁ、父さん不審者が学校にいたから見張ってたんだけど急にぶっ倒れちまった。」そんな会話が聞こえた。どうやら、彼が英気の父親らしい。英気の父親 竹元 英三郎はブレイク犯罪担当の刑事でここ最近すごく忙しいと聞いている。

 ふと、気づくと俺の手の投薬痕が消えていた。どうやら、ブレイクアブソーバーを使用した場合の持続時間は30分程度らしい。普通にブレイクを使用した際の効果時間よりも圧倒的に短い。少しづつブレイクアブソーバーの特性がわかってきた。
「父さん、母さん見ていてくれ」そう言って俺は手に持ったままの2本のブレイクをぎゅっと握りしめた。

 この物語は、正義の物語ではない。ある少年の復讐の物語である。

 ーその夜、拘置所にてー
 「おい!警備のものはどうしたんだ!」
 「誰か!こいつを殺した犯人を見たか!?」
 「いえ、この部屋に出入りする者は誰もいませんでした。」

ーとあるビルの一室にてー
 「今日未明、危険薬物であるブレイクを使用したとして法師人 大基 36歳 男性が現行犯で逮捕されました。しかし、容疑者は移送先の拘置所内で殺害されま・・・プツン!」

 男は、テレビを消して電話に出た。
「もしもし、はい、奴は我々につながる恐れがありましたので、消しました。問題はありません。はい、アンチパターンの出現ですか。どうやら事はあなたのシナリオ通りに進んでいるようです」

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