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「ドラッグス」 第二話

 「やばい、やばい」英気ヒロキは走って雑居ビルの非常階段を駆け降りていた。そして、耳につけたイヤホンマイクに向かって喋り始めた。

 「裕太そっちの状況はどうだ!こっちは、めちゃくちゃだ!見つかっちまった!」
 「あぁ、こっちも非常にまずい」俺は、ポタポタと流れる腕の血を止血しながら対峙している相手を見つめながら答えた。

 〜数日前〜
 俺の部屋に英気はやってきた。英気は昨日の出来事を心配してやってきたのだろう。「よう!調子はどうだ?」正直調子は最悪だった。
「お前、大丈夫なのか!?ブレイク使っちまったんだろ!?中毒症状とかないのか?凶暴になったりとかしてないか?」そんなことを騒ぐ英気を落ち着かせながら俺は言った。
「落ち着け、これはブレイクアブソーバーと言って…」そう言って俺はブレイクアブソーバーには中毒症状が発生しない件、両親からの映像とデータの件、休んだ一週間の間に制作したことを話した。

 昨日は、あの後学校は臨時休校となった。英気は本当にうまく父親を誤魔化してくれたようだ。結果から言えば、かなりの成功であった。突発的な初使用だがブレイクアブソーバーは問題なく動作した。初の投薬者との戦闘に関しも辛くも勝利した。しかし、その後あの不審者が何者かによって殺された事を考えると喜べる気分ではなかった。

 英気は、バツの悪そうな顔をしながら話始めた
「この後、どうするんだよ?こんなことまたやる気か?」
「あぁ、そのつもりだ」俺は奴の目を見ずに答えた。
「悪いがこんなことを続ける事は友達として賛成できない、もしやるとしたら俺も付き合う!」
「だめだ!これは俺の戦いなんだ!」しかし、こいつはきっと俺が止めても絶対に関わろうとする。英気の力強い顔を見ながら考えた。

 「わかった、お前も付き合え」そう言うと英気は複雑そうに頷いた。
「ところで、次は何するんだ?」英気は心配そうに問いかけた。
「あぁ、次は薬を手に入れる。前回手に入れた2本だけじゃ心もとないだから、もう少し薬を手に入れておきたい。だから、ここに行く」

 俺は、開いていたパソコンのディスプレイを英気に見せた。

旧市街地、そこは新たに作られた新市街地とは別で昔から続く商店が並んでいた。歴史があり増築による増築によってまるで迷路のような作りになっている。そのため、一度ビルや裏通りに入ってしまえば普段取引されないものも手に入る。おそらく、ブレイクも。

 ブレイク自体なら確かにネットで手に入れることは可能だがどうしても住所をブレイク取引のサイトに残したくない。できれば直接入手したい。かなり危険だがこれはやるしかない。

 俺は、旧市街地行きに向けて準備を始めた。
「というわけで、次の金曜日に旧市街地に行く。英気も来るってことでいいんだな?」「おう!!」英気は言った。「わかった準備する」

そして、数日が経った。

 「とりあえず、これを」この数日の間に俺はとあるものを作成していた。
それは、接触感知式感電玉と瞬間拡散式煙玉である。

「こんなもん役に立つのかよ?」英気は懐疑的な表情をした。
「確かに、ブレイク投薬者の肉体は強靭だ。だからこそ、打撃や斬撃等の外傷を伴う攻撃ではあまり効果がないと思う。だから感電なら通用すると考えたわけだ。まぁお守りがわりに持っていけ」俺は、感電玉2個と煙玉を3個英気に手渡し、自分も2個ずつをポッケにしまい旧市街地へと向かった。

 旧市街地は、昼間だというのに薄暗く常に誰かに見られている気がした。
「この後、どうすんだよ」英気は少し怯えているように見えた。
「おい、びびってんのか?ひとまず、聞き込みだ。腹ごなしついでにそこの店に入ろう」俺は、中華料理店に入ろうとしたが足を止めた。

「おい、あれ見ろあの男の手」俺は、英気にその中華料理店の奥のカウンター席の男の方に視線を促した。
「それがどうした?ただ、手袋をしているだけに見えるぜ」
「飯を食べる時に手袋を外さないのか?しかも、右手だけ。おそらくだが、あれは投薬痕を隠している可能性がある。あいつそろそろ店を出そうだ入口を見張って尾行するぞ」
「えぇ〜飯食えないのかよぉ〜」英気の嫌がる声を無視して俺たちは隠れた。

 「あざさっささぁ〜」店員の気だるそうな声と共に男は出てきた。
身長185cm以上で筋肉質、黒髪の長髪で顔には髭を蓄えていた。そして明らかにカタギの人間ではないオーラを纏っていた。俺らは奴を追った。 

 奴は、旧市街地にある6階建のビルに入っていった。
「一回止まれ、このビルに入ったのは確かだこれ以上無駄に追いかける必要はない」俺は英気を静止した。

俺と英気は、ビルの裏側にある非常階段の方に回った。
「なんで非常階段に回ったんだよ!?」英気に俺は返した
「このビルの正面は防犯カメラで監視されている可能性がある。だから非常階段から各階を探る。俺の予想だが5~6階に入っている"株式会社 ネクスト”って会社が怪しい。最上階から周るつまりだ。これを使えばひとっ飛びで行けるしな」
俺は、ブレイクアブソーバーを装着した。
「あと、これをつけとけ」俺は、ブルートゥースイヤホンマイクを英気に私た。

 俺はブレイクアブソーバーの両サイドのボタンを押した。力が体中を駆け巡り投薬痕が現れた。

俺は、最上階の6階まで一気に飛ぶと6階の壁のヘリに足をかけた。窓から恐る恐る中を見るとさっきの男がいた。ビンゴ!俺はそう思って耳につけたブルートゥースイヤホンマイクで英気に呼びかけた。

 「英気!聞こえるか!?ビンゴだ!おそらくこの下がブレイクの倉庫である可能性が高い。上がって5階を探ってくれ!」「わかった」そういうと英気はゆっくりと非常階段を上がり始めた。英気が4階に差し掛かった時に6階の中で動きがあった。

部屋には長髪の男の他に3人くらいの人影が見られた。
「室内禁煙だよ」「なんだよ?やばい薬はやるのにタバコの煙は苦手か?しょうがねぇな」室内にいる2人が非常口から出て行こうとしていた。

まずい、このままでは英気が見つかってしまう!俺は、注意を引くために無我夢中で中に飛び込んだ。

バリィン!そんな音と共に中に入ると中にいた全員が俺の事を見て何も言わなかった。沈黙を破ったのは、例の長髪の男だ。
「お前、"アンチパターン”の男だな?こんな小僧とは意外だ」
「"アンチパターン”?なんだそれ知らねえな」俺は男と睨みあった。
イヤホンマイクから音が聞こえた。

「すげぇぞ!この階にブレイクがかなりある!どうする!持って帰るか!?」英気だ、どうやら5階に潜り込めたようだ。幸運なことに5階に見張りはいなかったようだ。どうやら、部屋の隅にモニターから5階の様子が監視カメラで確認できる。俺は、目の隅でそれを確認した。
この状況で、返事するわけにはいかないので俺は返事をしなかった。しばしの静寂を破るように室内にいたスーツの男が叫んだ。

「やばい!5階に誰かいるぞ!」その声と共に2人の男が非常階段に向かおうとしていた。俺は咄嗟に後ろのポッケに仕込んでいた煙玉を投げようとした。すると、凄まじい勢いで鉄製のナイフが飛んできた。

 そして、冒頭のシーンに繋がる。俺は流れる血を抑えていた。ブレイクの治癒能力のおかげで血はすぐに止まる。しかし、あの男どこからナイフを取り出したんだ?あの状況で瞬時にそんな隙はなかった。
「貴様は、生きてボスに引き渡す。悪いがそういう命令が出ている」そう長髪の男がそういうと腕の前の空間から鉄製のチェーンをつかみ出した。そして、チェーンを俺に向かってムチのように振った。俺は、すんでのところでチェーンをかわした。こいつ、やばい対峙しているだけでピリピリと伝わる強さ。奴はおそらく鉄製の物を生み出すブレイクスキルだ長期戦になれば攻めて多さで不利になる。無理することはない。逃げよう。俺は決意した。

「おい!英気!撤退だ今どこにいる!?」イヤホンに小声で問いかけた
「2階の非常階段だ!」英気の声が聞こえた。
「了解、今窓から飛び降りる!」そういうと俺は長髪男に向かって叫んだ

「おい!デカイの!俺が捕まえられるか?」そういうと俺は6階の窓から勢いよく飛び出した。しかし、奴もデカさに反して凄まじいスピードでついてきた。

しかし、良い計画通りだ
「英気!感電玉の上のスイッチを押して俺に向けてなげろ」
「わかった!そういうと英気は感電玉を俺に向けて投げてきた」

タイミングぴったりだ!その時、長髪男のチェーンが伸びてきた。俺は空間を蹴り飛ばし感電玉とチェーンを交わした。チェーンは感電玉にぶつかった。その瞬間、バチバチという激しい音がした。

長髪男はチェーンを介して感電し一瞬気を失った。俺は、狙い通り2階の非常階段に着地すると叫んだ「煙玉を!」俺と英気の周りは煙に包まれた。上から駆け降りていた二人は煙でまえが見えず叫んでいるのが聞こえた。俺は英気を抱えてまたジャンプして逃げた。

 どうやら、撒けたようだ。落ち着いたところで、英気に問いかけた
「収穫は?」「これとこれだ」英気は背負っていたリュックからブレイクの10本入った容器とある一冊のノートを取り出した。

どうやら、ノートは顧客リストだった。俺は中を見て驚愕した。よく知る名前がそこに書いてあった。

俺は、英気を見つめ言った。
「上出来だ!」

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