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父のことあれこれ

みなさま、こんにちは。

働き盛りだったころの父は、触れたら火傷するような熱さでした。
鬼の形相で仕事から帰ってくる。
導火線は小指の第一関節くらい。
休みなくエンジンを吹かし、内部は絶えず爆発してて。

父の存在は感じるのでなく突きつけられるものでした。
圧倒的な父、絶対的な父、必然的な父。
そのインパクトは巨大な雹のよう。

「そういう時期が必要なんだと思う。」と母は言いました。
夫婦にしかわからないことってあるようです。
子どもの私は、母の発言に仏の心を感じましたけれども。

父が50代後半のころからだと思います。
触れたらなまぬるくなっていました。
週末は母と二人、おやつと水筒を持って公園へお出かけ。

ルーキーズを見ては号泣しタオルで顔を拭く。
兄弟船を聞けば大号泣して、以下同文。
家族全員、驚きました。

「歳をとった」と言って終わるのにはもったいない、父の劇的変化が続々と起こります。

巨人が負けても怒らない。
書斎にこもって何か書いてる。
鏡の前で笑顔の練習、母にばれる。
長生きしたいと思い始めた。
ふらっと一人で飲みに行く。
映画館のキャラメルポップコーンを無心で食べる。
料理教室に通う、振る舞う。

その後かねてからの計画通り、両親は地方へ引っ越しました。
父の定年退職後、数週間で家を購入、リフォームに着工、荷造りされた段ボールが几帳面に積まれていきます。

「じゃあ、行くね。」と二人は出発しました。
子どもより先に親が家を出るとは。見送る方は寂しくて私はえんえん泣いた後、仕事へ行きました。

引越し後の父。

畑を耕し、野菜を育てる。
野菜の面倒を見て、収穫する。
その年分の薪を割る。
暖炉の加減を見る。
お風呂を洗う。
朝食の支度を手伝う。
ゴルフのために酒量を減らす。
熱心に打ちっぱなしへ行く。
私とコースをまわるとき、サポートする。
母に捨てられる恐怖に怯える。

こんなのって、感無量なんです。

ずっと前から「俺は幸せだ」って父は言ってました。
でしょうねと思ってましたよ。当時、私は。
でもこれは浅はかな考えで、本当のところはわからないもの。

今でも父は、幸せだと言うのでしょうか。
大好きな母と暮らし、畑仕事で汗をかき、ゴルフにはまる父は楽しそうに見えます。見えるだけですが、私は嬉しいよ。

母はミステリアス、未開の地。

















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