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どうかふたりで帰れますように

紹介状をもらった弟を大きな病院に連れてきたのだけど、ここは私たちが生まれた病院でもあるらしい。東京へきて初めてお世話になるのだと思っていたけれど、ひょっとしたら20年ぶりのカムバってことか。ふしぎだ

いまは、救急外来の待合室にいる。こんな時間に病院へ来なければいけない人たちの事情は、きっとみな逼迫したものを抱えているのだろう。それを考えるだけで、胸がくるしくなる。「おそらく入院になると思います」という会話の片鱗を、ここへきてもう3度は聞いた。くるしい。

数々の医療ドラマをみてきたわたしは、専門知識はかけらもないけど、病院の内側への想像力だけは豊かである。

初めてひとりで病院に行ったのは、中学1年生の時だった気がする。熱が下がらず学校を早退したのだけど、両親も祖父母も仕事が忙しくて、近所の病院まで一人で歩いて行った。薬をもらって帰るだけかと思っていたら、採血をすることになり、そこで一度、絶望に負けた。インフルエンザでも注射なんてしないのに、ひとりで病院に来るだけで勇気のすべてを費やしたのに、よりによって今かと思って、たいして縋ったこともない神さまを憎んだ。そのときは結局プール熱の診断を受けて、しばらく高熱にうなされた。

両親の助けなしに病院へ来ることは初めてではないけれど、さすがに緊張する。夜の地下駐車場はほんとうに怖かった。おばけが2、3人浮いていてもおかしくない。もしこのまま弟が入院になったら、わたしは一人であの駐車場へ戻り、一人で車を運転して帰らなくてはならない。そんなのやだよ、、どうか今日はふたりでおうちに帰れますように。

そのまえに、診療費も心配だ。さっきは¥5,300、こんどはいくらかなあ。どうか樋口さんひとり分くらいで済みますように。

不安を走らせたら落ち着いたので、読書に戻ります。おやすみなさい。

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