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最終話 生きてるかぁ?

 通天閣の下の赤ちゃん  最終話
 仮設橋横の工事用梯子を滑るように下りた新ちゃんは、「大丈夫か」と赤ちゃんに抱きついた。赤ちゃんは元気だった。足の脛に工事用の針金がつき刺っただけだった。自分で引き抜き、傷からの出血を鼻紙で拭きとって「アカチン、塗っといたら治るわ」と言った。
 ロクは砂の中に体が半分以上潜りこんでいた。近づくと、この土地の土ではないようで、どうやらセメント混入用の河砂が積んであったようだ。赤ちゃんが上から観察した、そのままのソフトさであったが、上に乗った赤ちゃんの体重が加重されたためか、深くめりこんで、ショックが大きく、ロクは気絶したままだ。
 砂利を取り除くのを手伝う新ちゃんに「こいつ死んだか」とバットマンが聞いたが、胸に耳を当てた新ちゃんが「心臓は動いとる」と返事をした。新ちゃんが背中を擦り、バットマンが頬を叩いたり、手足を曲げ延ばししていると、フッと息を吐き、気をとり直した。頭が重くて一寸ボンヤリふらふらするけれど「こわかったわ」と立ち上がった。
「まぁ無事で良かった」と新ちゃんとロクとバットマンと赤ちゃんが互いに顔を見合わせた。そして四人とも立ったまま顔を少し伏せ気味で、照れ笑いしているように、ニヤリとした。そして露天掘りの梯子を登った。
 結闘は終ったのだ。皆は解散した。地下鉄工事場には出勤してくる人夫や工事関係者の姿が散見された。
 帰路、赤ちゃんはナポレオンと一緒だった。
 この決闘が母親の耳に入らずに無事に過ぎることを祈った。これからは担任の岡田先生を嫌がらず、真面目に小学校に通学して勉強をしよう。ドクロ団の解散通知は数日中に出そう。そう心中に決めた。
 「まるで朝帰りやないか」とナポレオンは子供には分からない愚にも付かない冗談をとばしながら上機嫌だった。ニコニコとして頬が緩みっぱなしである。朝日がナポレオンの白髪の顎髭を通して眩しい。
 真上の天空はいつも静かに深い。明るさの中に悲しみが満ちている。しかし、今の空はちがっていた。空一面にユキノの顔が大写しになって笑っている。いい青空だ。
 ユキノが手を振って微笑んでいる。耳元で「ニイチャン、サイナラ、ゲンキデネ」と波の音のように声が聞こえては遠ざかった。ユキノは朝の光り輝く天空に透けて行ってしまった。
 思わず赤ちゃんは「サイナラヤ、ホナ、サイナラヤ」と声を出した。
 「何か言うたか。何を言うとんねん、赤ちゃん。ケッタイナ奴やな」とナポレオンは大きな声で笑った。

終わり

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