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Catalan棋譜解説 Emre-Maghsoodloo 2022 前編

こんにちは、ぽんとです。
ブログを書く書く詐欺となっている現状を打破すべく、やまどりさんのアドベントカレンダーに参加してみました。機会をくださったことに感謝です。

12/6(火)を担当ということで、今回はカタランの棋譜解説をします。
長くなるので、前編と後編に分けます。

Catalan Openingに入る手順は複数考えられますが、以下の2つがメジャーな手順になると思います。
①.d4 d5 2.c4 e6 3.Nf3 Nf6 4.g3

1.d4 d5 2.c4 e6のQueen's Gambit Declinedから白がg3とするケース。

②1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.g3 d5

1.d4 Nf6 2.c4 e6のIndian Defence形から入るケース。

白のポーンがd4とc4、黒のポーンがd5とe6にあるQueen’s Gambit Declinedの形で、白がg3からキングサイドにビショップをフィアンケットする形をCatalan Openingといいます。

上級者向けのイメージが強い定跡です。ポテンシャルを活かし切るのにタクティクスからエンドゲームまで多方面の高い棋力が要求されることから実際その通りだと思いますが、黒で1.d4 d5を指す人が黒番で避けて通れない形でもあります。カタランは白にしても黒にしてもレート2200くらいにならないとまともな定跡準備と経験値を有しているプレーヤーはいない、という記述も見かけたことがありますね。

皆さんも上手い人のカタランに成す術なく負けてしまった経験があるのではないでしょうか。私はあります。上手い人のカタランに無策で立ち向かうのは自殺行為であると言ってもいいでしょう。同じ轍を踏まないようにするためにそこから色々と研究と実戦を重ね、カタランという定跡にいくつかの典型的と言えるシナリオ、試合の流れがあることくらいはわかるようになってきました。

今回はその典型的なシナリオの1つ。「黒が…dxc4と取り、白が取り返さず1ポーンをギャンビット。白はポーンを捨てた代わりに得た展開の優位、主導権、強力なセンターを使って黒を速攻で仕留める」試合の棋譜解説をしていきたいと思います。他の典型的なシナリオとして、「黒が…c5や…e5による自陣の解放を狙うも白に悉く阻止され、白がわずかポジショナルアドバンテージをエンドゲームまで維持して勝つ」といったものがあります。こういった試合の棋譜解説はまた後日。

白は1ポーンを捨てるので、指し方はそれこそ1.e4 e5のギャンビット定跡と似たようなものになり、攻め切るための駒捨て、サクリファイスもよく発生します。この試合は白の一連の攻め手順が非常に美しいので、是非通しで並べてみてください。

Emre Can(2592) - Parham Maghsoodloo(2721)
37th European Chess Club Cup 2022

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.g3 d5
白は3.Nf3ではなく3.g3から始めることで3.Nf3 b6のQueen's Indian Defenceやアンチカタラン手順とも言える3.Nf3 a6(次に…b5を見せることで白に4.g3を許さず4.Nc3を強制し、4…d5で…a6QGDにしてしまう、白にカタランを指させない手順)をスキップすることができます。デメリットとしては、3.g3 c5に対しては4.d5 exd5 5.cxd5 d6と進めるくらいしかなく、フィアンケットべノニになりますが、これが勝率的にも実戦的にも黒にとって十分であることです。カタランを嫌って3.g3 c5からフィアンケットべノニの手順を選ぶ人は結構な数いると思います。3.Nf3と3.g3、どちらを選ぶかによって避けられるライン、避けられないラインが決まってくるので、ここは好みで決めましょう。

4.Bg2 dxc4

黒はすぐに取りました。黒が早めに…dxc4を入れる手順をOpen Catalan、しばらく取らない手順をClosed Catalanと呼びます。…dxc4を入れると、

○白は黒に反撃を許さずc4のポーンを取り返したい。黒に…b5を許すことがあっても、それをa4やb3で崩していくことで白に分がある局面にしていきたい
●黒はc4のポーンを…b5で支え維持したい、それができないにしても白がc4のポーンを取り返すために手をかけている間に駒展開や…c5や…e5の準備を進めることで互角にしたい

といった具合で両者の思惑が激突するため、激しい試合展開になることが多いです。黒で勝ちに行きたいなら、…dxc4を入れるOpen Catalanの方が良い選択肢になると思います。

5.Nf3 a6

5…a6後の局面。黒として人気の選択肢。

5…c5や5…c6も有効な選択肢です。この5…a6は見ての通り…b5を可能にする手なのですが、じゃあ次に…b5とすれば黒がオールオッケーなのかというと全くそんなことはないのがカタランの難しいところです。黒の理想は、

・…dxc4-a6-b5でc4のポーンを安全にし、1ポーン得を維持したい
・キャスリングでキングを安全にし、駒展開を完了させたい

上記2つを両方達成することで、これが叶えば1ポーン得分で黒優勢になれるのですが、残念ながら黒番のカタランはそんなに簡単ではありません。

…dxc4-a6-b5を実行すると序盤でクイーンサイドのポーンにばかり手を使うことになりピースの展開が遅れるため、ただでさえ先手の白に大きな展開の優位を与えてしまうデメリットがあります。黒がc4のポーンにしがみつきたい余りに誤ったタイミングで…a6-b5を指してしまい、Ne5でg2のビショップがa8に当たったり、a4やb3でポーンチェーンを崩されたり、キャスリングする前にe4-d5のセンターブレイクが入ったりで序盤からいきなり敗勢となってしまうのはよく見かける光景、黒の典型的な負けパターンです。本譜もこれに分類されます。

ここでの5…a6はいずれタイミングを見て…b5を可能にするための準備の手で、…b5までやるかどうかには慎重な判断が必要、他の駒展開も大事、と覚えておきましょう。

6.0-0
ここは6.Ne5も有力な選択肢です。

6…Nc6

…a6と…Nc6の組み合わせは強くて人気のカタラン対策。

現状、5…a6と組み合わされることが最も多い手で、黒として有力な選択肢です。より深く知りたい人は、『Playing 1.d4 d5 A Classical Repertoire』を読んでみるといいでしょう。黒視点での1.d4 d5のレパートリー本で、控えめに言っても非常に良い定跡本です。著者のNikolaos Ntirlis氏は非常に定跡解説の上手い著者で、Twitterでも定跡関係の面白い投稿が多いです。

この6…Nc6はメリットもデメリットもありますが、棋理に適っており、総じてメリットの多い手と言えます。

〇メリット
・白のセンター、特にd4のポーンに圧力をかけており、白の指し手を制限できている
・白の典型的なナイト跳ねであるNe5への対抗策になっている
・狙い筋である…e5ブレイクの準備になっている
・b8のナイトにとって最も積極的な配置であり、c4のポーンを守る…Na5やc4のポーンの利きを利用した…Nb4-Nd3にも繋がり可能性が広い

●デメリット
・狙い筋の1つである…c5から遠のく
・…e5が達成できないとジリ貧になるリスクがある
・白に7.e3、7.Nc3、7.Bg5、7.Nbd2など、有力な選択肢が多く、カバーするのが大変

太字にしましたが、白の選択肢が多いので準備が大変、というのがマイナス要素です。準備が追い付けば強力なので、時間と労力の問題ですね。また、この…Nc6は決して…b5を諦めたわけではなく、適切なタイミングでの…b5を狙いつつ駒展開もできている手となっています。

それでは、ストレートに6…b5でc4のポーンを守る手はどうでしょう?

6…b5後の局面。…a6に続ける手順として最もストレート。黒は優勢になれるのか?

黒はここから…c6と…Bb7が指せればクイーンサイドを安定化させることができるのですが、白の攻めが速く、この理想は叶わない、という評価が一般的です。以下、サンプルライン。

7.Ne5! が白の最強手です。カタランに典型的なナイト跳ねで、g2のビショップの利きの開放にもなっています。

A)7…c6 8.b3! cxb3 9.Nxc6 Qb6 10.Na5 Ra7 11.Nxb3 Rd7 12.e4 Bb7 13.d5!

白が序盤から展開の優位を活かしてセンターブレイク、のパターン。

白の攻めが速く、優勢。8.b3!がポイントです。この手を挟むことで、Nxc6-Na5と跳ねたナイトがb3のマスを利用して帰還できるようになります。

B)7…Nd5 8.a4 Bb7 9.axb5 axb5 10.Rxa8 Bxa8
一連の手順により、黒は…b4が指せなくなりました。Qa4+が痛すぎるため。
11.e4 Nf6 12.Nc3 c6 13.d5!

こちらもセンターブレイクが入るパターン。黒の…a6-b5はやりすぎ、ということです。

白に主導権があり、優勢の局面です。

A、B、共に…c6と…Bb7が上手い具合に間に合わず、白に都合の良いタイミングでd5!が入ってしまうことに着目してください。カタランという定跡の性質をよく表していると思います。

前編はここまでです。ほぼ定跡解説で終わってしまいましたね。
ここまで書いておいて、6手しか解説できてないことに驚きを禁じ得ません。それだけカタランが深い定跡だということなのでしょう。

7手目以降の解説は後編として投稿したいと思います。12月中にまたアドベントカレンダーで公開日を作りますので、また後日!

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