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三田「コート・ドール」ふたたび

約20ぶりの聖地巡礼。
東京・三田のレストラン「コート・ドール」へ。
目標が一つ叶いました。

「コート・ドール」のオーナーシェフ斉須政雄氏は、日本を代表するフランス料理人の一人。
ドラマ「東京グランメゾン」で、木村拓哉演じる主人公がパリで勤務していたレストランのモデル「ランブロワジー」。斉須シェフは、オーナーシェフのベルナール・パコーと共に「ランブロワジー」を立ち上げたメンバーとしても知られています。

【メニュー】
・赤ピーマンのムース フレッシュトマトのクーリ
・しそと梅干しの冷製スープ
・斉須シェフ好みの自家製ソーセージ 豆の煮込み添え
・小鴨のロースト じゃがいものガレット添え
・夏みかんのソルベ
・ココナッツ風味のロールケーキ

【ワイン】
ドメーヌ・A・F・グロ/ヴォーヌ・ロマネ オー・レア 2013

久しぶりに訪問し気付いたのは、斉須シェフの枯淡の境地?というより、余剰を削ぎ落として本質のみを抽出するが如き、シンプルな料理の数々。

飾りも気取りも料理人の自己主張も、本質以外、極限まで削ぎ落としている。
口の中で爽やかさや透明感を感じる。
「フランス料理」という固定観念で捉えると、捉えきれないかもしれない。
それは、熊谷守一の絵画を「洋画」という概念で捉えられないようなもの。

全てが素材を活かす味わいの料理。しかし、素材の美味しさに頼った料理ではない。
例えば「しそと梅干しの冷製スープ」は、個別の素材が自己主張している訳ではない。青しそ、梅干し、トマト水、アボガドをミキサーで攪拌し、浮き身に金糸うりの千切りを。素材はすべてありふれたもの、しかしそれぞれの素材の持ち味が融合し、一つの素材だけでは味わえない妙なるハーモニーを奏でていた。

妙なる調べは、料理人の思想と技術の賜物である。

「しそと梅干しの冷製スープ」は作ってから30分も保たないと、斉須シェフは言う。「爽やかさが加速度をつけて消え、いやらしい味になってしまった」(斉須政雄『メニューは僕の誇りです』)
まさに瞬間を味わう芸術である。

「美なるものは、わたしたちの感覚体験の向こう側に立ち顕れて、瞬間と共に永遠を照らし出す」(茂木健一郎)

素晴らしい芸術が人の心を打つのは、ふとした一瞬に宇宙や自然の永遠性を垣間見ることができるからである。
ただしそれは、味わう側も五感を研ぎ澄まさなければ、享受できないかもしれない。それぐらいはかないもの。

ブルゴーニュのワインはエレガント。ワインの優しく穏やかな調べが、斉須シェフのシンプルで個性的な料理に寄り添う。
そこに主従関係はない。主客一如の世界。ワインと料理が共鳴し、新たな調べを奏でる。

レストランの料理を頂くこと。
それは、食材や料理人の思想を通じて、人間が自然とのつながりを再認識するための、崇高な営みである。

「微小宇宙 我 大宇宙とひびきあい
 奏でる調べ 日日新しき」(鶴見和子)

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