詩1⃣

アスファルトに転がるペットボトル
拾い集める孤独な老人は
灼熱の太陽の下で
カカオを摘み取る少年は
何に変わるのか 知らない

ほどかれたペットの樹脂は
組み変えられて歩みを支える靴となり

ホモ・サピエンスが大地を渡り
伊能忠敬が日本を測量したように
あるく あるく まだ行ったことのない街へ

空気の含まれた靴底で
今日のわたしが会社へと
あるく あるく 見知ったホームへ

変わったことはただひとつ
今日のわたしが手にするボトルは
組みほどかれて子の靴となり
孫の堆肥になりうる

まわる まわる まわる 宇宙船地球号


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季節外れの初春に
眼前に広がる 五ヘクタールの小松菜畑
葉肉を食む 足の曲がった野良猫一匹
目の潰れた黒猫と身を寄せ合い汗をかく

あるく あるく あるく
鼻腔に広がる芳醇な緑の香り
思い出す 少女時代のテレビゲーム
怪鳥の背を乗り回し かけぬけた草原
嗅いだことのない香りなのに なつかしさがこみあげて

この町に引っ越し早十年
畑の左方に広がる低木の 林に集まる動物たち
枝からもたげる夏蜜柑 熟れて弾けて皮がめくれ
明日食うものに困る老爺が レモンを盗み
柑橘の香りが広がると 散り散りに軒下に避難する
あるく あるく あるく

杭と縄越しに見つけた我が猫
腰を据えて見つめ合い
もどってこないかと説得し
首を振られて断られる

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もう二度と会うことがない君へ
誰もわたしをさがしていなかった
月のあかりと君だけを求めて彷徨った
砂塵の上で安物のコート1枚
店の照明はわたし以外を浮かび上がらせ
脱力して三時間

青い花が好きだった君へ
カナダの林で迷子になり
スマホのライトだけで歩き続けた
ブラジル人にマリファナの
ケーキをすすめられ断った
ジャグリングをしてくれた
助けてくれた君のことを
ただ思い出すのです

身寄りのない君に金の無心をされたとき
わたしは断りましたね
恥ずかしかった。金も力もない自分
騙されてあげればよかったと
今でも時折後悔します

今日はもう君よりも
尊敬する人も恋慕う人もいるけれど
慈悲深かったあなたのことを
きっと生涯思い出すでしょう


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