マガジンのカバー画像

note創作大賞2023参加作品「恋で生計は立てられない」

17
創作大賞に応募した恋愛小説です。どうぞお楽しみください! あらすじ 影山明(かげやま あかり)は現在彼氏なし、友だちなし、仕事休職中の限界喪女。極度の人見知りゆえに他人とまともな…
運営しているクリエイター

#コミュ障

恋で生計は立てられない 序章「偽善」

あらすじ 他人とまともな会話ができない生まれながらのコミュ障、影山明(かげやま あかり)…

恋で生計は立てられない 第一章「逃げるが勝ち」1

 影山明、と書いて、最初に言われるのは「かっこいい名前ですね」だ。  もっと正直な相手だ…

恋で生計は立てられない 第二章「幸せごっこ」2

 イケメンとか美形とか、見栄えのいい男を形容する言葉は数限りなくあるけれど、ここまで言葉…

恋で生計は立てられない 第二章「幸せごっこ」3

 朝になっていた。  目覚まし時計を止めて、家族と目を合わさずに朝食を終えた。歯磨きをし…

恋で生計は立てられない 第三章「あなた無しでは生きてゆけぬ」1

 結局、三回目のデートができたのは梅雨に入る頃だった。  その時期になると雨はうっとうし…

恋で生計は立てられない 第三章「あなた無しでは生きてゆけぬ」2

 東京から離れて、私たちは『極楽浄土』本店が構える南武線の電車に乗った。車内は混雑してい…

恋で生計は立てられない 第四章「他人の領域」1

 優《ゆう》は天使みたいな子だね、と母はよく言っていた。  お前は愚図らないし、あれ買ってってねだることもないし、わがままは言わないし、本当にできた子で、ママは嬉しい。  母が笑うと優も嬉しかった。機嫌がいいと頭も撫でてくれた。夜、母が仕事でいない時、一人で寝ている時は母の手の感触を思い出しながら目を閉じた。  目を閉じるのは、優のよくやっていた癖だ。  その場の空気が悪くなった瞬間、悲しい事件を目にした合間、優はよく目を閉じていた。視界を遮断して瞼の裏に隠してしまえば、心に

恋で生計は立てられない 第四章「他人の領域」2

 中学に入り、楓とは進路が分かれた。彼は都内の私立学校に進学し、優は地元の公立校に進んだ…

恋で生計は立てられない 第四章「他人の領域」3

 空が明るみ始める頃、カーテンを開けて、窓の外の動き始めた街並みを見るのが好きだ。乗用車…

恋で生計は立てられない 第四章「他人の領域」4

 アカリは電話をやったその日に極楽浄土に現れた。  久しぶりに見た彼女の目に、かつて母親…

恋で生計は立てられない 第五章「神様が、もしいるのなら」1

 誰にぶつけたらいいのかわからない問いを、ずっと抱えて生きてきた気がする。  中学を卒業…

恋で生計は立てられない 第五章「神様が、もしいるのなら」2

 梅雨入りの発表がされた日の夜は、気温がいくぶん下がったものの、肌に張りつくような湿気の…

恋で生計は立てられない 第五章「神様が、もしいるのなら」3

 風がかなり寒くなってきたと、白は感じた。季節の変わり目に入るたび、白は、あとどれくらい…

恋で生計は立てられない 第六章「闇をみつめる」

 アカリは傷害罪で逮捕された。  白の身体の傷は入院ほどにはならなかったものの、完全に癒えるまでには時間がかかった。  極楽浄土は一時期騒がれたが、メディアには「風俗店」とのみ取り上げられ、詳細の説明を省いたままアカリの罪状のみがくり返し報道された。 「香さん、やるなあ」  自分たちの店が一部ぼかされ画面に映ったところでテレビの電源を切り、白は療養中の期間を気楽に過ごす。  電話が鳴る。スマホを取って確かめると、九条からだった。 「もしもし」  耳の向こうから、さも楽しげな声