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note創作大賞2023参加作品「恋で生計は立てられない」

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創作大賞に応募した恋愛小説です。どうぞお楽しみください! あらすじ 影山明(かげやま あかり)は現在彼氏なし、友だちなし、仕事休職中の限界喪女。極度の人見知りゆえに他人とまともな…
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恋で生計は立てられない 序章「偽善」

あらすじ 他人とまともな会話ができない生まれながらのコミュ障、影山明(かげやま あかり)…

恋で生計は立てられない 第一章「逃げるが勝ち」1

 影山明、と書いて、最初に言われるのは「かっこいい名前ですね」だ。  もっと正直な相手だ…

恋で生計は立てられない 第一章「逃げるが勝ち」2

 地下一階の、重そうなドアを開けるとやはりホストクラブだった。実際に入ったのは初めてだ。…

恋で生計は立てられない 第二章「幸せごっこ」1

 家に帰る足取りは軽かった。ずっと味わっていなかった心の軽さだった。  自室に引っ込んで…

恋で生計は立てられない 第二章「幸せごっこ」2

 イケメンとか美形とか、見栄えのいい男を形容する言葉は数限りなくあるけれど、ここまで言葉…

恋で生計は立てられない 第二章「幸せごっこ」3

 朝になっていた。  目覚まし時計を止めて、家族と目を合わさずに朝食を終えた。歯磨きをし…

恋で生計は立てられない 第三章「あなた無しでは生きてゆけぬ」1

 結局、三回目のデートができたのは梅雨に入る頃だった。  その時期になると雨はうっとうしいし湿気は肌にまとわりつくようで気持ち悪いし、気分的にはこれ以上ないほど悪かった。  かろうじて街に出れるのは、誇張でも何でもなく、白くんに会えるからだった。  私は一つ、決心していた。  白くんとの思い出をもらうことを。  つまりは、白くんに抱いてもらうことを。  厳密にいえば、『極楽浄土』は本番行為を禁止しているから、抱かれるわけではないのだが、キスとそれ以上の行為はできるので、白くん

恋で生計は立てられない 第三章「あなた無しでは生きてゆけぬ」2

 東京から離れて、私たちは『極楽浄土』本店が構える南武線の電車に乗った。車内は混雑してい…

恋で生計は立てられない 第四章「他人の領域」1

 優《ゆう》は天使みたいな子だね、と母はよく言っていた。  お前は愚図らないし、あれ買っ…

恋で生計は立てられない 第四章「他人の領域」2

 中学に入り、楓とは進路が分かれた。彼は都内の私立学校に進学し、優は地元の公立校に進んだ…

恋で生計は立てられない 第四章「他人の領域」3

 空が明るみ始める頃、カーテンを開けて、窓の外の動き始めた街並みを見るのが好きだ。乗用車…

恋で生計は立てられない 第四章「他人の領域」4

 アカリは電話をやったその日に極楽浄土に現れた。  久しぶりに見た彼女の目に、かつて母親…

恋で生計は立てられない 第五章「神様が、もしいるのなら」1

 誰にぶつけたらいいのかわからない問いを、ずっと抱えて生きてきた気がする。  中学を卒業…

恋で生計は立てられない 第五章「神様が、もしいるのなら」2

 梅雨入りの発表がされた日の夜は、気温がいくぶん下がったものの、肌に張りつくような湿気のうっとうしさに、街を行く人々は若干だるそうに歩を進めていた。  傘を差し、勢いの強い雨の中、優とカオルは歩いていく。優は店のビニール傘、彼女はグレーの花柄の折り畳み傘。雨が滴る水音が二人の間を無言にしていく。 「俺の家、もうすぐだから」 「ん」 「こうも雨がすごいとね。話す気なくすよね」 「梅雨は、私は好きよ」  カオルは店の時とは違う雰囲気の声色を出した。 「雨が降ると、いろいろなものを