Laughter in the Dark
夏休み。
資格の勉強のBGMに何聞こうかとスマホを漁る。
宇多田ヒカルの「Laughter in the dark tour 2018」というライブ映像がNETFLIXに転がっていた。宇多田ヒカルは、そこまでがっつり好きというわけではないけどキンハーとエヴァの影響でそれとなく知ってる曲がちらほらあるなーくらいの感じ。
宇多田ヒカルのライブは見たことないけど、おそらくド派手な花火で会場を沸かしたりとかはしないだろう。静のイメージ。勉強のBGMにはちょうどいいだろうなと思って、今日はこれに決めた。
ところが考えが甘かった。
開始5分、セトリ2曲目。初めて聞く曲だけど、イントロから耳が「お、いい曲そうだぞ」って反応している。一回ペンを置いてちゃんと映像を見てみる。
すわ、いい曲だ。ネットで検索したら、「道」っていう曲名だった。気になったので調べてみた。
道は、2016年にリリースされたアルバムFantomeに収録されている曲らしい。Fantomeは、2013年に亡くなった母・藤圭子へ捧げるアルバムで、その喪失感と向き合った自身の経験を昇華したものになってる。なので曲中で
私の心の中にあなたがいる いつ如何なる時も ひとりで歩いたつもりの道でも 始まりはあなただった It's lonely road But I'm not alone そんな気分
ていう歌詞が出てくるけど、このあなたとは母・藤圭子のこと。
2011年から人間活動と称して音楽活動を休止して2013年に喪失を経験して、そこから2016年に音楽活動を再開させるまでに至った宇多田ヒカルの心がそのままズドンって感じで昇華されてるもんで、かなりグッとくる。
喪失感にどう向き合うかは、この動画で語ってた。
自分にそういう経験がなくても心に響くのは、曲作りのときひとりよがりにならないで伝わりやすさを最優先しているからだって、庵野監督と宇多田ヒカルがこの動画で言ってた。
アーティストってやっぱすごいんだな。
ちょっと脱線するけど、最近読んでおもろかった「まほろ駅前狂騒曲」でも、登場人物が過去に経験した大切な人の「喪失」とそこからの歩みが1つのテーマとして描かれていた。
三浦しをんのまほろ、宇多田ヒカルのFantome、庵野監督のシンエヴァ、3つともグッときて良かったんだけど、どれも喪失感に対する向き合い方が似てる。良いなあと思ったものに共通点を見出すのは楽しい。
勉強中のテキストを閉じてライブに集中する。ライブの途中でショートフィルムが流れる。宇多田ヒカルと又吉直樹の特別対談の映像。ここでライブのタイトル「Laughter in the Dark」の意味が明かされる。
「Laughter in the dark」はナブコフの小説と同じタイトル。直訳すれば「暗闇の中の笑い声」ってなるみたいだけどテーマが希望と同時に絶望。どっちかといえば「絶望の中にある笑い」的な意味。親と死別し自らも乳がん宣告受けたスタンドアップコメディアンがガンをネタに笑いを取ったという話を例に、絶望とお笑いは一見対局にあるけど、ユーモアがあれば見方・考え方を切り替えられる。その絶望をネタにして笑いにする。みたいな内容の対談。
ここで語られた希望の意味が、エヴァ最終話の「現実世界をどう捉えるかは自分の心次第」っていう話とリンクする。やっぱエヴァと宇多田ヒカルって相性いいのね。
以前、爆笑問題カーボーイで太田も何度か「絶望の中にある笑い」の話をしてた。
真夜中のカーボーイっていう映画のラストシーン。マイアミでのバカンスライフを夢見る小男(ダスティンホフマン)が、行く途中のバスで病気のせいで体がマヒしてるからおもらししちゃって、そこでジョンボイドにツッコミ入れられて思わず笑っちゃう。そのあと小男はマイアミに着く前に息絶える。悲しくて泣いちゃうシーンなのに思わず笑っちゃったって。
そういえば最近見た映画バリーリンドンでもそういうシーンがあった。
愛する息子ブライアンが、誕生日プレゼントでもらった馬にこっそり乗って落馬して、もうすぐ息を引き取るという場面。死期を悟ったのか、最期に「(いつもの)あのフランス兵との戦いの話してよ」とパパに言うブライアン。そこでパパは泣きながら「23人のフランス兵を一人でやっつけたぜ」って武勇伝を語る。感動的なシーンだけど、この武勇伝はパパのホラ話で、本当はそんな勇敢な人間じゃない。もっと臆病で卑怯な男だ。(前話してた時は、フランス兵23人じゃなくて19人だったし。なにさりげなく4人足してんだ。)
最後までかっこいいパパであり続けたっていう見方をすれば感動的なシーン。でも、なんか嘘の武勇伝でしか死に際を見届けられないのがたまらなく情けなくてダサいなって思っちゃって、笑っちゃった。スタンリーキューブリックの映画は、こういうシュールなシーンを時折入れてくるから好き。
こういうのか、Laughter in the Darkって。
映画見てて、悲しいシーンのはずなのになんかちょっと面白いぞ、なんだこの変なシーン、ってもやもやっとすることたまにあったけど、なんかすっきりした。
こういうことをライブのテーマに据えるんだ宇多田ヒカル!
歌ってる時の声や表情がかっこよくて、でもMCの時はなんか飾らない感じで「会の主役になるの苦手…」とか言ってる。その人間性みたいなのに魅了される。喋り方独特だし。
と、そんな感じで見続けていたら、あっという間にラスト1曲、「Goodbye Happiness」って曲。これも初めて聞く曲だったけどまじでいい曲!曲調もさることながら、歌詞が刺さる!調べてみたらこの曲は、宇多田ヒカルが音楽活動を休止し人間活動に入る直前の2010年にリリースされてた。なるぺそ。
結局最後まで通しで見入ってしまった。
さあ、ひとっ風呂いくぜ。
初音湯。おれが大学1年の時バイトの面接落ちた銀のさらの向かいにある。今日は休業。不定休だからいつお休みなのかわからない。電話して聞けばいいんだろうけど、直接足を運んで確認したい欲に負けてしまい、結果無駄足となった。まったく悔しくない。まだ行きたい銭湯はほかにもある。このあたりは坂が多くて疲れるが、疲れた分風呂に入った時の気持ちよさが増すから。
次へ。
すわ、休業してる。老朽化に伴う保守メンテナンスということは、まだ潰れるわけじゃないってことか。よかったよかった。
ここまで来る途中の道にあったはずのBOOKOFF、桃太郎、ダイエーがなくなってた。時の流れ感じる。こうやって少しずつ少年時代の思い出の場所が削られていくんだな。ちょっと悲しい。BOOKOFFなくなるとか終わってるわ。
仕方ないので、いつもの極楽湯へ。ちなみに、光が丘のお風呂の王様はなくなったけど、和光に新しくお風呂の王様できるらしい。この前車で通った時建設中だった。
よかった休業じゃなかった。
いまサウナ上段100度超実施中だった。もちろん最上段へ。サウナ室のテレビ画面には高校野球の試合中継が流れていた。10分で出て水温15度の水風呂へ。冷たくて気持ちええ。1分半浸かる。今までは水風呂1分で出ていたけど、最近は1分半〜2分浸かっている。外に出て外気浴タイム。椅子がひとつだけ空いていたのですかさず腰掛ける。今日は38度の猛暑日だったが、暑さをあまり感じなかった。気持ちよかったので、サウナ→水風呂→外気浴をもう1セットいく。1セット目より気持ちええ。満足したところで締めのぬる湯へ。これ無限に入っていられる。まさに、極楽。
気づけば地元のBOOKOFFとかなくなって悲しいって気持ちは消え失せて、極楽湯よかったな〜っていうのしかもう頭に残ってない。
Laughter in the Darkて言葉、今のおれにはあんま関係ないな。
おわり
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