引っ越し①

ある金曜日の夜。風呂入って自炊して飯食ってその日にやらなきゃいけないことを一通り終え、いつでも寝られる状態になる。

ここからがお楽しみ。おつまみにカラッと揚げたポテトを用意。お酒はレモンサワー。準備OK。あとはバラエティ番組を見て楽しむだけ。さあゴールデンタイムに突入だ。

この日は録画してあったアメトーークの「家飲み楽しい芸人」と「本屋で読書芸人」を見る。どちらもおれ好みのテーマだ。

お酒が入りベロンベロンに酔っ払ってテレビを見てゲラゲラ笑う。最高の気分。

だがふと次の瞬間、まるでおれの身体が部屋に溶けていきそのまま「空間と一体になる」ような感覚に襲われた。なにか危険な予感がした。心地良すぎて死ぬ、みたいな感覚だ。

文字に起こすとバカっぽくなってしまいなかなか伝わりづらいのがもどかしいが、なんにせよ怖かった。このまま昇天して戻って来れないんじゃないか。そんな感じの怖さだ。

その空間に慣れすぎて身体と部屋が一体になる感覚。実家にいた時もこれに陥ったことがある。あまりにもヒリヒリとした緊張感がなく、それが逆に気持ち悪くなったかつてのおれは、実家を出て一人暮らしをすることに決めた。

あれからもう3年半以上経つ。ちょうどこの生活にも慣れたタイミングだったんだろうか。住み始めたばかりの頃は、どこか他所の家に暮らしているような感覚が確かにあった。それが時を重ねるうちに少しずつ薄まっていき、とうとう今完全にこの部屋が「自分のもの」になったのだ。

おれは、このままではいかんと強く思った。

ちょうど今の部屋の更新のタイミングだったため、おれは引っ越しをする決意をしたのであった。

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