春・雨①
4月半ば、雨の降る日。
バス停で傘を差してバスが到着するのを待っていた。時刻表を確認したところバスが到着するまであと10分あった。
ここに来る前、下北沢の定食屋で傘を盗まれた。まあまあ強めに雨が降っていたので仕方なく近くのコンビニで新しくビニール傘を買い直した。
今差している傘はその新品の傘だ。
もうお店とかにあるみんなが使う傘立てを使うのはやめよう。自分で常に持ち続けていよう。あるいは誰も盗みたくならないようあえて持ち手をビニテでぐるぐる巻きにしたりしてキモい傘に仕上げたろうかな。
そんなことを思いながらバスを待っているとおれの後ろに中学生くらいの女の子が傘を持たずに並ぶ。
なんで傘持ってないんだろう、この人も傘盗まれたのかな、雨に濡れてかわいそうだな。
風邪ひいちゃったら大変だろうからおれの傘を差し伸べてその子も入れてあげようかなと思った。65cmのでかい傘だからそんなにキツくならないだろうし。いやなんならもう傘くれてやってもいい。
でもどうなんだろうか?
急に見ず知らずの男に「傘入っていいですよ」とか「この傘あげますよ」って言われたら怖いんじゃね?てかキモいんじゃね?
悩みに悩み結局自意識が心を占めてしまいなにもしてあげられなかった。
するとその後に優しそうなおばあさんが来てその中学生に傘を差し伸べてバスが来るまでずっと笑顔で待ち続けていた。おばあさんの傘は折り畳み傘のようで、小さかった。肩を寄せ合いながら「狭くてごめんなさいねえ」とその子に声をかけていた。
そしてバスが到着。おれは傘を閉じてバスに乗り込んだ。
後ろにその子も続く。
だがおばあさんはなんとそのバスに乗らなかった。
通りすがり、雨に濡れているその子を見兼ねていてもたってもいられずバスが到着するまでの間一緒に待ってくれていたのだった。
優しい!!
その子はバスの中で窓ガラス越しにおばあさんへ笑顔でお礼を言っていた。
ホッと心が温かくなった。
それと同時に自己嫌悪の波が襲ってきて心が苦しくなった。
おれは、キモいと思われたらどうしようと悩んで結局何もできない情けないゴミカス人間!!何が「ホッと心が温かくなった」だ!!
心を落ち着かせようとSpotifyを開き、マカロニえんぴつのmotherを聴く。
歌詞が響くぜ。それにしてもいい曲だ。
motherついでにFatherも聴く。
やっぱイエモン良いね。
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