夏・雨

夏休み。

連日の猛暑が嘘だったかのように、涼しい雨の日が続く。予報だと向こう一週間は雨。

晴れた日にチャリで10分ほどのところにあるTSUTAYAで借りた漫画と映画のDVDの返却期限が迫ってきていた。

全て見終わったのでいつ返してもよかったが、晴れたら返しに行こうと思ってた。でも全然晴れないので、仕方なく雨の中歩いて返しにいくことにした。

めんどくせえなと思いつつも、散歩は大好きなので、一度歩き出してしまえば意外といいもんだ。

爆笑問題カーボーイを聞きながら、足元が雨で濡れないよう歩幅を小さくしてゆっくりとTSUTAYAへ向かって歩いた。

思えばこの道、チャリでしか通ったことない。歩いて行くのは初かも。

歩いているとなにげなく見落としていた町の変化に気づいたりする。

あ、ここの塾なくなって美容室になってる、とか駄菓子屋潰れたんだ、とか。

TSUTAYAまでの道中に踏切がある。踏切のすぐ脇に木造2階建の年季の入ったアパートがあって、そこ見るたびに「ここ、すごいな。築50年以上はいってそうだな。電車の音と踏切の音うるさいだろうな。でもそんな騒音をものともしない強靭な精神力を持つ住人がここに暮らしているんだろうな。いやそれともただ慣れるもんなのかな。いずれにしてもここの住人ってどんな人なんだろうな。」っていつも思ってた。

今日もそのアパートみて同じこと思うんだろうなって思ってふと見てみたらなくなってた。いつのまにか新築2階建てRC造の集合住宅になってた。

そうかー、まあそうだよな。どこ行っちゃったんだろうなそこの住人。

そこにあった建物がなくなったりすると、寂しい気持ちになる。見慣れた景色が変化すること自体もそうなんだけど、建物がなくなると、そこにいたであろう人たちもこの町からどこか遠くへいなくなってしまったような気がしてしまう。

知り合いってわけじゃないんだけど、昔からおれたちと同じようにこの町で暮らしてきた人がいなくなって、代わりにそこに建った新築マンションに他の土地から越してきた人が住む。(必ずしもそうとは限らないだろうけど。)新築なので家賃もかつての木造ボロアパートよりグレードアップするだろう。そこには所得層がワンランク上の人が住むわけだ。

かつての人たちがいなくなって、町が新しい人たちのものになってしまう、そんな感覚になる。

踏切を渡ってすぐのところにもRC造3階建の10世帯ほどの一人暮らし向け?くらいのサイズ感の集合住宅がある。こちらもそこそこ年季入ってる。築30〜40年くらいかな。

一階の一番線路に近い部屋は道路とベランダが面している。ちらっと見てみると、黄色い(サッカーブラジル代表のユニみたいな色)ポロシャツと紺のジーパンをベランダに干していた。

土砂降りの雨なのに。

どうしてこんなに雨が降っているのに外干ししているんだろう。屋根だってそこまでせり出してるわけじゃないんだし、ちょっと風が吹けば雨でびちょぬれになるぞ。

晴れた日に外干ししてそのまま帰省とかしちゃったのかな。

それとも雨降ってても外干しすれば乾くって考えてるのかな。

いずれにしても、そこの住人はおそらくちょっと間抜けな人に違いない。

そう思った瞬間、心がぽっと温かくなる。

まだしばらくそこで暮らしててくれ。


おわり







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