ピアノ教室②
ピアノ教室に通い始めて一か月が経った。
先生から、ピアノ発表会に出場してみないかと打診される。
おれ「え、発表会?いやいや無理ですね。おれ初心者ですよ…。」
先生「大丈夫。まだあと2か月ある。」
おれ「えー、でも何弾けばいいんだか…。」
先生「曲は自分が好きな曲でいいのよ。それにアレンジは自由だから、自分が弾けるように簡単にしちゃえばいいの。去年はコロナで発表会中止になったし、この先何年開かれるかもわからない。これはまたとないチャンスなんですよ!」
おれ「な、なるほど」
そう言われるとやってみようかという気持ちになってくる。どうせやるなら自分の好きな曲がいいな。
好きな曲…。やっぱパッフェルベルのカノンだな。
次の週から練習が始まる。家にあった初心者向けの楽譜を持ち込み、そこにアレンジを加えていく。
それを持ち帰って家に帰ってカノンを練習しながら、あることが頭をよぎる。
”この曲って、老若男女全員が知ってる曲だよな。ちょっとでもミスったらすぐばれるんじゃねえか?それになんかベタだな。わんちゃん曲かぶりとあるんじゃねえの?それにこれやるなら、もっと上達して全音ver.でいきたいよな。”
やっぱ他の曲にしよう。でもどうせやるなら好きな曲を弾きたい。
好きな曲を弾く。
ん?似たような響きのフレーズがあったような。
すーきなーうたーをうーたう~
ああ。JAMだ。
よし、これでいこう!
おれの好きなイエモンの代表曲。ピアノ発表会に出場するであろう子どもたちはたぶんこの曲は知らないだろう。おれの演奏きっかけで気になってくれたりハマってくれたら万々歳。
早速ネットで楽譜を検索。ヤマハのぷりんと楽譜をコンビニで印刷。
翌週。
先生に「これやりたいです」
と楽譜を持っていく。楽譜通りでは今のおれには弾けない。先生に簡単なアレンジをしてもらう。
持ち帰ってGWはひたすら練習。一応一人で弾いてるときはそれなりに弾けるようになる。
GW明け。先生に練習の成果を見せるとき。
ピアノの前に座り、披露する。なんか左手の動きが合わない。思ってた通りに弾くことができない。
先生「左手と右手が合ってない!もっと音楽に乗って!」
おれ「はい……。」
家で一人で練習してた時はうまくいってたのに、先生の前ではうまくいかない。
音楽にうまく乗れない。というか、乗ってるところを先生に見られるのが恥ずかしい、って思ってる。ド素人のおれごときが何いっちょ前に音楽に乗ってるんだよって思われてるんじゃないか、って思ってる。
結局その日はうまくいかず。
また俯瞰するおれが邪魔してきた。うるさいんだよ。先生は音楽に乗って!って言ってるんだから調子乗ってるとか思うわけないだろ。
翌週。
俯瞰する自分を殺して、音楽に乗って演奏する。
先生「そう!左手と右手ががっちりはまってますね!」
こんな場面でまた俯瞰する自分と闘うことになるとは。
発表会本番はおれなんかよりもっと練習をしてきた子どもたちが参加する。先生一人の目以上にきびしい。
でもこれを乗り越えられれば…。
ピアノ発表会=俯瞰する自分との闘い。
残り一か月を切った。
他人の目なんか気にするな
お前のことなんか誰も見てない
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