掌編:ムサシの名を背負いしもの (ゲーム小説)

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 俺のいる檻に、新顔がやって来た。田舎の片隅にポツンとあるここで、いつの間にやら古参となっていた俺の所にも挨拶にくる新顔。
 そいつは俺の背中を見て、何ですかそれって言っていやがる。

 こりゃあ、ムサシって読むんだよ。古くは武蔵坊弁慶から宮本武蔵まで、強い男の名さ。
 俺の最初のボスが手づから入れてくれたのさ。

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 俺がこの檻に来てちょうど10年か。
 この前の新入りに聞かれたよ。俺が何でここに入ったかってね。   
 ふん。野暮なこった。俺のボスも親子の義理人情やら色々あったんだよ。
 ボスが自分で好き好んで俺をこんなとこにぶちこむわけないだろ。

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 最古参の兄貴がシャバに舞い戻って行くとはね。
 これで俺が最古参か。
 檻の隙間から見えるシャバじゃあ、ずいぶん勢力図が変わってるようだが。
 なんにしろこの檻には日々新顔がくるが、最近じゃあ、なかなかシャバに出るやつはすくねえ。
 何にしろめでてえこった。

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 え、俺、お勤め終了ですか。

「いらっしゃいませー。こちらワゴン品の中古で108円になります。ディスクの確認お願い致します。あと、ケースの裏に書き込みがあります。お支払はクレジットですね。こちらにご署名下さい。」

 ペンの走る音が響く。『木下武蔵』と。

「懐かしいなー。これ。ちょうど10年くらい前に、親にゲーム禁止されて泣く泣く手放したんだよな。」

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