10年ぶりのプリ
先日小学生の娘たちといっしょにプリクラを撮りに行った。わたし個人的にもまあざっと10年ぶり。最後に撮ったのは長女が2歳の時だったか。今はスマホですら当たり前だが、当時のプリクラでは顔の加工が少しできた程度。幼い娘を挟んだわたしと旦那の目だけが2倍のサイズになっているのを見て、ふたりで大笑いしたことを覚えている。
初めてプリクラを撮ったのは、今となっては大親友であるおけいと、小学五年生の時だった。わたしは「プリント倶楽部」を聞いたことがあるだけで試したことはなかった。おけいは三人兄妹の末っ子でお姉ちゃんがいたため、新しいことの情報も早かったし、試すのも人より早かった。対して臆病気質でインドアーな長女っ子のわたしがなぜ当時からおけいと仲が良くそして今でも頻繁に交友があるのか、全く縁というのは不思議なものだが、わたしのプリクラデビューはそのおけいに誘われてのことだった。
「プリクラ取りに行こうや」
と誘われ自転車で15分。近所で一番大きなスーパーの一階催し広場みたいなところに小さくぽつんと置かれた「プリント倶楽部」にドキドキしながら向かった。おけいはお姉ちゃんとお試し済みだったため、慣れた手つきで100円玉を投入した。当時多分、300円で撮れたと思う。
ドキドキしながら機械に任せ、「3、2、1」で撮った。昔はまだ一枚一枚ハサミで切る必要がなくて、角がまあるい四角型の、ペリって剥がせるまさに「シール」状をしていた。満面の笑みに親指を立て「グッド」のポーズをしたおけいと、ぎこちない笑顔のわたしがシールになっていた。わたし達はその日もう一枚撮った。今度はわたしも「グッド」をした。
昔はプリクラといえば、「並ぶもん」だった。
中学に上がると「遊びに行く」=「プリクラを撮る」ことと同義で、その頃にはプリクラは一回400円が相場になっていた。ど田舎で三つ折りソックスを校則で強要され、ポニーテールすら許されなかったヘル中(自転車に乗る時は学校規定の白いヘルメットを被ることが規則)だった女子中学生たちは、プリクラに熱狂した。あのビニールカーテンで仕切られたボックスの中だけの異世界。今なら「盛れる」と表現されるあの、パァっとライトが当たって白く光った自分の顔がシールになる。プリクラは現実を忘れさせた。
よく行ったのは隣の隣の街にある「プリクラのメッカ」だった。汚くて暗くてじめっとしててなんだか怪しい、駅前の小さな小屋の二階建て。たくさんのプリ機のそれぞれに制服姿の女子高生や中学生たちが長い列を作っていた。もちろん一台で済むはずなく撮り終わったらハシゴする。ひとつのプリ機に長居しすぎて、次に待ってる女子高生に「遅すぎー」って詰められてる子達もいた。
気合いを入れすぎたわたしたちは、各々出来うる限りのおしゃれをしてメッカに集った。中3の頃だったか、当時ビジュアル系と呼ばれたバンドに陶酔していたおけいは「ウィッグをつけて行く」と言うので、わたしは小束に分けた髪を三つ編みにして一晩寝たら完成の“貧乏パーマ”(通称ビンパ)で臨んだ日もあった。その日のプリクラは我ながら完成度が高く、数日後になぜか教室で(おけいが落としたのか)人に拾われたのを勝手に回されたが嫌な気がしなかったのも良い思い出だ。
「プリクラを撮ってみたい」
と急に言いだしたのは小6になった長女だった。プリクラねぇ。どこで撮る?
思い浮かんだのは近所の萎びた汚いゲーセンの片隅にあるプリ機。でも初プリをそんなところで撮るのはいかにも味気ない。それで思い出したのが「プリクラのメッカ」だった。あそこは?今でもあるのだろうか。せっかくなら、子ども達と一緒に行って、そこで撮ろうではないか!調べてみると、名前こそ変わっていたが、プリクラ専門のスペースは今でも存在。移転していたものの、懐かしいあの街にまだそれは存在していた。
メッカは昔も二階建てだったが、「新生メッカ(仮名)」は今も中二階的な位置に存在していた。昔のように怪しい雰囲気はなく、明るく、人もまばら。プリクラに並ぶことも、今となってはないらしい。
「うわーい」
って感じで嬉しそうに見回す子ども達の前に、ちょうど撮影を終えたJKたちがカーテンの中から姿を現した。親子でやってきたわたしたちを一瞥すると「素敵じゃーん」と一言放ち、彼女達はシール排出口の方に移動。そう、わたし達は素敵らしかった。娘が「これにする」と決めたプリ機は「純欲盛れ」を謳っている、いかにもといった感じのピンク色をしていた。
OK。まずは小銭を投入。
投入口に「500円」と書いてあった。
「たっけえなw」
思わず心の声が出た。高くなったもんだ。
「昔は300円だったんだよ?」
懐かしんでみたが、全く耳を傾けはしない娘達が横でぴょんぴょんとび跳ねているので小銭の投入に専念することにした。嬉しかったら人は跳ぶんだ。なぜ。
中に入るとグリーンバックの個室。
「昔はこの後ろのカーテンがクルクルと回転して…」
とまたもや誰も聞いちゃいない昔話を再び(さっきから「昔」て言葉が物悲しいw)していたが、スーパー早口で画面がしゃべってくることに気がついて我に帰る。撮影のテンポが昔より絶対早い。
「え、なに?」
って機械に聞き返したところでもちろん答えちゃくれない。
撮影はあっという間、半ば強制的に済まされ、撮影ブースから出ていくように指示された。ほうほう、これからお絵かきブースに移されるのよね。「こっからお絵かきができるんだよ〜♡」
なんて子ども相手に知ったかぶりながら次のブースに移動したわたしは仰天した。
「ダレだよっ!」
思わず心の声が出ていた(二度目)。わたしの声は大音量でここ「新生メッカ」にこだましていたに違いない。お絵かきブースに表示された画像はもはやわたしたちではなかった。宇宙人やろこれ!w 頬から顎にかけては2分の1サイズに縮小、目は3倍に拡大。肌色は蒸気していた(ここは確かに純欲に盛れているw)。若者達よ、こんなんでいいのか?はっきり言って本人の面影なし。同じ服を着た別人、わたしの年齢だともはや詐欺に当たるであろう。
わたしの戸惑いをよそに、嬉々としてお絵描きを始める娘達。次に撮影者がいないためエンドレスである。(後続グループが撮影を始めたらカウントダウンが始まる)そこは昔と変わらない。子ども達の遊びに終わりが見えないのでそろそろ行こうかと声をかけ、シールが出てくるのを外で待つことに。娘達は今か今かと排出口に手を構えていた。待つ、というのはなぜこんなにも長く感じるのだろうか。やっとのことでウィーンと排出されたそれを見て、わたしはおったまげた。
「ちさ!w」
チサイ…!
シール一枚のサイズがまず小さい。これは往時の二分の一サイズといっても過言ではない。一枚が2㎝角?程度のもん。虫眼鏡プリーズ。(最近視力も弱くなってきてますます小さいと辛い)にしても昔はもうちょっと大きかっただろうが!
ここでわたしは気がついたのだ。そうか、これで終わりじゃない、むしろここからなのだ。シートの端についているQRコード。ここから幾らかの手順を踏み、画像としてゲットする。写真をシールにして終わりではない。スマホで画像で入手してワンセットなのだ。家に帰るまでが遠足ですよ、ってなわけだ。
さて、かつてメッカでメッカしたこのわたしが一台目で終わるはずはなかった。ハシゴするんじゃ!というわけで再び娘達にプリ機を選ばせた。次に選ばれたのはシールが透明(!)の、進化が目に見えて分かりやすいプリ機である。
案の定、時間制限がタイトすぎる機の指示によくわからないまま振り回され、しこたま焦らされ撮影、お絵描きブースで娘達が無限お絵描き(終わらんw)、ここまでは二の舞で、そして再び(やっと!)二枚目のプリを手にする時間がやってきた。
ウィーン。排出されるプリに我れ先にと手を出す娘達(既視感)。おぉ!透明シート!すげい!と思ったのも束の間。
「に、2枚…」
2枚である。
なんと排出されたシートにシールは2枚w
(大きいのが2枚である)
どこでどういう設定になりこういうことになってしまったのか全く解せぬ。実際6ショットくらいは撮ったよ?しかもこのプリ機も一回500円であった。つまり、一片250円。透明とはいえ高くねーか!?いや、昔もあったのだ、プリクラの分割は選べた。2枚、4枚とかも確かあったはず。しかし選んだことない。プリクラは数があってなんぼ!
しかもよく見ると、娘達が延々お絵描きしたその全てが、シールに全く反映されていない!多分少なめに見て4分くらいは描いてた。あの時間はなんだったのだろうか(てか、ひとのお絵描きを傍観するのって長いんよw)
さすがに自分たちのお絵描きが全く無意味のものであったと気づいた娘達は少しがっかりしていた。きっと、撮影前の選択画面の時点で色々とあったのだろうが、あいにく母はもうついては行けていなかったのだ!
そしてシートの隅っこにはやはりQRコード。やはりここからはスマホで画像ゲットしてね!という感じ。おそらく、ここからは想像だが、娘らのお絵描きはスマホでもらえる画像の方に反映されているのであろう…?恐らく。
「遠足は、家に帰るまでが遠足です」
「画像ゲットするまでがプリだよ!」
まそんなことはどーでもいいのだが。その後画像ゲットしてみようかとQRコードを読んでもみたのだが、どーせ詐欺写真だと思うとなんとなくその気も鎮火してしまった。「LINEでお友達に」ならないと貰えない手順。べつに大した手間でもないのだがそのワンステップに疲れてしまう39歳(今年40歳)。一片250円のプリは娘たちに1枚ずつ分けることにして、わたしの10年ぶりのプリは終わった。
一方、家に帰って娘達は、撮って帰ったプリクラを大事にハサミで切り分け、お気に入りのファイルにしまっていた。そう、プリクラってシールだけど、貼りたくないのよね。わかるw
彼女たちの初めてのプリは、大満足に幕を閉じたようである。
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