日本の製造業を復活させる7の提言

馬鹿みたいに壮大なタイトルだが、1業界・1社・2事業部・2工場でしか働いたことのない人間なので、正しくは弊社の製造部隊を復活させるには だ。

私は生産技術部なので、完全にその視点で書いていく。

1:生産技術部の仕事を絞り込む

 生産技術部とは、いわゆるQCD(品質・価格・納期)を満たす生産ラインを設計するための部隊である。そのために必要な事は、新規設備の導入・既存設備の改造・生産ラインや人の見直しなど多岐にわたる。

 生産技術部は極めてジェネラリスト的な部隊だ。まず、機械・電気に関する知識は基礎として必須だ。最近の設備は、センサーや設備そのものをクラウドやサーバーにつなぐ事も多いので、いわゆるITの知識も必須だ。また生産工学(ざっくり言うなら生産ライン設計の学問)の知識も必須だ。またQCDの評価の一環としてPL(損益計算書)があるので、いわゆる経理の知識も必要だ。また生産ラインは危険な事も多いので、安全な設備や生産方法、労働安全衛生法に関する知識も必要だ。更に設備を導入する際には、重量物運搬に関する知識もいる。

 導入・改善だけでも広範な知識と仕事量であり、本来ならばかなりの専門部署として業務に集中させる必要がある。
 ところが実際は設備の保全・修理も仕事になっている事が多い。つまり設備の面倒を見るのが生産技術部だと現場から思われているのだ。
 ちなみに保全や修理は単純な仕事と思っている人も多いが、突発故障への対応は高度な仕事だし、単純な保全や修理も、実際に直すとなるとかなり想定外の事象が出てくるので、その場その場での判断が求められる。
 また現場によっては深夜・休日対応もざらだったりする。(生産現場はまず生産を止めない事が優先されるので、深夜や休日対応が多くなる)

 保全・修理も結構重いのだが、さらに辛いのは新規案件のテストだろう。設計部隊が作った図面は、それだけでは大量生産できなかったりする。理屈上は生産できるが、チョコ停(エラーによるチョットした停止。製品の詰まりとか、検査装置の誤判定とか)が多くて仕事にならないと言う事は多い。 
 そのため、生産技術部は大量生産のテストをして、問題点を設計に投げたりする。しかし設計にも設計の都合があるので、交渉して妥協点を探ったりする。

 更には、現場との関係性によっては、蛍光灯とか工具とかの資材購入をやったりもする。

 つまり生産技術部というよりは、「製造現場で発生するあらゆる事に対応する何でも屋」という感じなのだ。

 このために、本来の仕事である「生産ラインの改善・新規設備の導入・既存設備の改造・QCDの改善」に手が回らなくなっている。

2:設備メーカーとwinwinの関係を作る

 新規設備や既存設備の改造の際にお世話になるのが、設備メーカーだ。しかし設備メーカーとの関係は見直す時期が来ていると思う。

 かつてなら、「大量に発注するから、底値付近まで値下げして」「大量に発注してるんだから、御社の修理部隊は24時間365日体制にして」と言った話は多かったと思う。しかし最近は「大量には発注できない。それどころかもう10数年も御社から新規発注してないけど、新規設備は底値付近まで値下げして。あと当然、御社の修理部隊は24時間365日体制だよね」という感じだ。これでは設備メーカーにも何のうまみも無いだろう。

3:「良い」現場主義 「良い」カイゼンを作り上げる

 現場主義やカイゼン活動は、日本製造業の特徴であるが、近年は毀誉褒貶も激しいと思う。

 藁人形だが、「現場主義やカイゼン活動は、局所最適ばかりを生み出す要因だ。世界では知的エリートがトップダウンで全体最適のコストダウンをやっている。局所最適ばかりだから、システム化に不向きな工場を作っている」と言った感じか。

 これは間違っていないが、局所最適を生み出すのは、「悪い」現場主義・「悪い」カイゼン活動だろう。

 本来の現場主義・カイゼン活動は「生産方法を考案するには、技術者が事務所で図面やデータとにらめっこしているだけではダメだ。現場での製造の実態を把握する事で、より良い生産方法を考案できる。またその過程では、作業者の意見をもらう事も大切だ。作業者・技術者が一体となる必要がある」位だろう。

 しかし悪い現場主義・カイゼン活動は「QCDや良い生産方法を度外視して、とにかく作業者が楽できる生産方法を考えよう」となってしまう。
 全体最適の生産方法では、次工程の歩留まりを劇的に改善するために、自工程の負荷を増やすという判断が必要になるが、「とにかく作業者が楽できる生産方法」ではそんな判断はまずされない。そして自工程ばかりが楽できるような生産方法を考案し続けるので、局所最適ばかりになるのだ。

4:「悪しき工夫主義」はやめる

「悪しき工夫主義」とは私の造語だ。ざっくり言うならば、「とにかく安い設備を買って、それを改造しまくる事で、高級な設備と同等の機能を持たせる」という感じだ。これは非常に問題だと思っている。

 設備を改造するにはそれなりの人出が掛かる。そして上手くいくとは限らない。ゆえに高級な設備を買えば初めから済んだ事を、人と時間と金をかけてやっている。
 またこの方法が採用されるのは、実際に設備を改造する協力業者や零細業者の人件費が低いからだ。(人と時間が掛かったとしても、高額な設備を買うよりはマシだったりする)

 しかしこれではいつまで経っても協力業者や零細業者の給料は上がらず、共倒れになってしまう。更に言うならば、生産技術部も改造には無関係ではない。仕様を決めて、改造のための必要な情報やサンプルを協力業者に提出して、実際の工事には立ち合って指示を出す。更に最終的にテストをして、これで生産できるかを判断する。それなりに大変な作業だ。

 何度も言うが、この作業は「初めから高級な設備を買えば済む」のだ。

5:技術部長や製造部長の決裁権限を上げる

 高価な設備を買いづらい理由は何だろうか?それは技術部長や製造部長の決裁権限が低い事だ。
 「決裁権限が低い」→「稟議がすぐに本社に回る」→「本社は(当然だが)数字しか見てこないので、高額な設備は稟議が通りにくい」→「技術担当者が嫌がり、安い設備を買って、それを改造しまくる」というループの完成だ。また決裁権限が低いと、担当者が「稟議恐怖症」になってしまう。つまり何をするのでも大量の資料を作って、いろんな質問に答えて・・・といった具合だ。個人的には、技術部のスピード感を殺してしまう最大の要因だと思う。

6:製造部ー工場スタッフ間の人材異動を行う

 生産技術をやっていると、優秀な現場作業者に合う事がある。優秀な現場作業者は、大抵以下の要因で見分けられる。

・トラブル発生時に技術部やメーカーに適切に事象を伝えられるか(言語化能力)

・トラブル発生時に現象をちゃんと見ているか(観察力)

・生産方法や過去事例の引き出しが多く、それが取り出せるか

・生産ラインが不安定な時に、とっさの判断を素早くこなせるか。

 こういった能力を持った人は、工場スタッフからも一目置かれ、本人が望まなくとも出世していく。しかし出世コースが、製造現場関連に固定されてしまっている。(せいぜい、製造→生産管理 製造→品質保証くらいか)

 日本企業はせっかくメンバーシップ型で柔軟な人材異動が可能なのだから、優秀な現場作業者は生産技術や購買といった工場スタッフ部門にも異動すべきだ。

 また賛否両論あるとは思うが、生産技術部も現場部隊に移動する期間を与えるべきだろう。

8:本社技術部隊が工場に長期出向する体制を作る
 ある程度の規模の会社ならば、本社技術部隊がいる。本社技術部隊の仕事の一つに会社全体での統一規格作成がある。特に安全・品質に関する事が多い。しかし、出荷を優先するあまりに、安全・品質を守らないという現場の暴走は多いだろう。

 その最たる原因は、本社技術部隊は「お客さん」だと言う事にある。つまり年1くらいで工場に来る。しかし事前に日程は知らせれているので、普段はしない5Sをしているし、ろくに見ない標準作業指示書を引っ張り出したりする。(5Sするならまだましだが、ひどいと不都合な物は全て倉庫に隠したり、不都合な職場は適当な理由をつけて立ち入らせなかったりする)それで1日だけ監査をして、指摘箇所を列挙して、あとは「工場の技術担当者と現場でやっておくように。進捗は管理するから」と言って、去っていく。

 こんな感じなので、本社の指摘事項に関する士気は低い。結局は現場の論理に流されたり、協力業者に「なんでこんなバカみたいなことするの」と言われたりして、どんどん歪んでいく。

 これを撲滅するには、本社技術部隊も子飼いの協力業者を持ち、工場には長期で出向すべきだろう(1年とかだ)そして、権力関係をはっきりさせ「協力業者は本社が選定する。実際の設備改造や生産方法変更は、本社技術部隊が中心になって行う。ただし工場の意見は聞くし、費用もすべて本社で負担する。だから施工された工事や指摘された生産方法を逸脱するな」というべきだ。
 また現場に長期出向し、実際の製造現場を知る事は、少しでも現場が守ってくれるような統一規格や規定を作成するのに役立つと思う。(現状は、机上の空論感が強すぎる)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?