伝説の釣り堀

 僕は、『伝説の釣り堀』とやらにきていた。とても大きな建物だった。どこにあるのかは分からない。友人と数人で、久々に集まった。大人になるとなかなか集まれないものだが、これだけ集まれたのは嬉しいと思った。
 ここは完全屋内型の釣り堀で、時間無制限、好きなところで好きな数釣って好きなだけ食べて好きなだけ持って帰ってもいいという大盤振る舞いだった。そんな釣り堀、現実には存在しないだろう。だが、この釣り堀は夢の中だけあってもっとおかしなことが起こるのだ。しかし、僕は夢の中でここは夢であると認識することができないタイプだ。多少変なことが起きてもそれを受け入れてしまうので、「まぁそんな釣り堀もあるか」と考えていた。
 男4人集まって、釣り放題となると、始まるのはひとつ。そう、釣った数で競うバトルだ。さて、ボロい釣り竿を手にしてこの屋内型釣り堀に入ると、我々はまるで「散!」と号令がかけられたかのようにさっそく四方八方へと散った。バトルスタートだ。
 僕は、実はこの釣り堀について少し話を聞いたことがある。なにやら、隠しエリアがあってそこでは大きくて珍しい魚が入れ食いというボーナスステージみたいな場所なのだとか。そこだけを探して彷徨い続けていると何も釣れないからそこまで真剣に探しはしないが、もし見つけられたならば、このバトルで間違いなく有利になるだろう。

 入場して最初に出くわす25mプールのような大きな釣り堀。窓や天窓から昼間の陽光が差し込み、明るく広々とした空間だ。一般客と思しき人たちがひしめき合うように囲んでおり、あまり隙間がない。ふん、こんなところで釣りをする気など端から無いのだ。僕が狙うのは一発大物。釣りなんてほとんどした事ないけれど、子供の頃コロコロのグランダー武蔵読んでたしいけるでしょ。
 25mプールを傍目にそのまま奥へと進み、次のエリアへの扉を開けると、そこはさっきよりも狭いが、中を泳いでいる魚は大きいものばかり。うむ、ここが隠しエリアって感じではないけど、人は少ないし、ここなら良さそうだ。ここで釣ってみよう。

 しばらくの後、数匹釣って満足した僕は友人を探しに行った。1人だけ捕まえて共に歩いていると、何気なく通り過ぎようとした壁際になにやら小さなドアが。何も書いていない無機質なそのドアは、一見すると関係者専用口のようで、誰もそこから出入りする人はいない。まさかとは思うが、ここが隠しエリアだろうか?
 意を決して扉を開け入ると、そこは20畳くらいの部屋。モルタルで壁を固めた殺風景な内装で照明は付いておらず薄暗い。小さな窓の外から差し込む昼間の陽光だけが、部屋の中を照らしていた。うーん、これはどうみても関係者用のバックヤード。……ん?部屋の真ん中の床に、マンホールくらいの穴が。その穴は、封印するかのように油紙が貼られていた。今はもうみることが少ない油紙。むむむ……まさかこれは釣り堀?友人と2人で恐る恐る部屋に入り穴の前にしゃがみ込み、油紙をぺりぺりとめくると穴の中には水が張っている。やはり釣り堀か。しかし部屋は暗く、中に魚が泳いでいるかどうかすらわからない。とりあえず、餌をつけて竿を突っ込んでみるか……と針を水面に近づけた瞬間、銀色の大きな魚が水面から飛び出して僕の針についた餌に食いつき、そのまま穴に戻っていってしまった。唖然とする僕と友人。なんだったんだ今の魚は。活きが良いってレベルじゃねーぞ。
……でもおかげで良いことを考えついた。餌でおびき寄せて飛び出したところを熊みたいに横から手のひらでビンタすれば簡単に釣れるのでは?
 早速餌である魚の切り身を右手に持って水面に近づけてみる。案の定銀色のよくわからない魚が飛び出してきたので反射的に右手を引いて左手でビンタしてやると、銀色の魚は吹っ飛んでいった。40cmはありそうだ。ああ、これは面白い。まだいるかな?もう一度やってみよう。また飛び出してくる。ビンタするとべしっと音が鳴って魚が吹き飛ぶ。何度やっても飛び出してくる。ビンタし放題だ。あはは、勝った。ハッキリ言ってこの釣りバトルは優勝だ。あははは

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