3DPrintingにまつわるイデオロギーの星座〜Kyoto Creative Assemblage 京大パートを通して〜
こんにちは。池本です。
普段は某ゼネコンの設計部(意匠計画)にいます。
また建築情報学系コミュニティND3Mも創立時から運営しています。
今回は私が参画している「Kyoto Creative Assemblage」にて行われた議論をもとに、自身のテーマである3DPrintingにまつわるイデオロギーの星座について思考プロセスを述べていきます。
テクノロジーと建築と社会の接点について考えた3ヶ月の記録です。
文部科学省「大学等における価値創造人材育成拠点の形成事業」採択プログラム「Kyoto Creative Assemblage」とは
講師陣営には、山内裕先生(京都大学)・船越一郎先生(京都市立芸術大学)・水野大二郎先生(京都工芸繊維大学)を中心とし、さらに佐藤可士和さん・長谷川愛さんをはじめとし、実践で活躍されている方々も交わりながら、多角的な視点でプログラムは構成されている。
プログラムの流れ
2022年9月より始動。レクチャー&ディスカッション形式で進む講座は2部構成となっている。パート1は9月〜11月末までを京都大学経営管理大学院が中心となり、「歴史をつくるイノベーション」というテーマでレクチャーとディスカッション、および毎週の課題提出を行いました。パート2は12月からスタートしており、京都工芸繊維大学を中心とし、現在は「Design for Defuturing and Speculation」という大テーマをもとに各章に分かれて進行中である。
一方で、同時並行で京都市立芸術大学を中心とした「アート演習」も行われている。
どんな人が参加しているか
全部で約25名ほど参加している。
初夏に公募があり、(100名を余裕で超えるような応募多数であったと聞いている)多くの応募者の中から選考が行われ、通過した約25名程度がメンバーとして参加している。
実際の年齢は詳しくは知りませんが…年齢層は30代半ば〜40代前半が多く、20代は私を含めて2名。(ですので普段はわりと緊張してます)
属性は、メーカー等の技術研究所研究員、ゲーム・動画制作・テレビなどのディレクター業、某市役所職員、某大手広告業界関係者、エンジニア・技術者、庭師、そして建築設計者(私)…などなど年齢も性別も専門領域も様々である。
京大パート「イデオロギーの星座」に関して
ここでは京大パートに特化して紹介する。
「歴史をつくるイノベーション」という大きなテーマのもとで、自身が取り組みたい領域にフォーカスし、その領域を俯瞰的にみて社会との接点を探りながら最後は自分を落とし込みつつ、その世界観を言葉で、プロトタイピングで、表現していくというものだ。
さて、ここまでツラツラと述べていきましたが、メンバーと講師陣以外の方は「さっぱりイメージがつかない」という感じでしょう。ここからは私自身が取り組んだ課題や具体的なディスカッション内容を元に振り返ることで紹介していく。
3DPrintingにまつわるイデオロギーの星座
今回のプログラムにおいて私は「3DPrinting Architecture」に特化し、広義の意味として「先端テクノロジーと建築」までやんわりと広げつつ取り組んだ。
課題を設定した理由
今回は自身がいる領域である「建築情報学領域」と社会・文化・歴史について考えていく上で、数々のトピックがある中から自分が常に大切にしている「言葉で語るだけではなく形を残すこと・手を動かすことに意味がある」という思いから実際に形として残りやすい「デジタルファブリケーション」に着目し、中でも1番ホットな話題である「3DPrinting Architecture」に特化することにした。
3DPrinting Architectureにまつわるイデオロギーの星座の制作過程① 振り向かせたい対象と振り向いている現象について
今回は振り向かせたい対象として「3DPrintingに全く興味のない人」を挙げた。そして振り向いている現象として「何気なく3DPrinting Architectureの写真を撮ってInstagramで話題になっている光景」「モノを作る時、建築を作るときに、鉄骨造・鉄筋コンクリート造・木造そして3DPrinting造(もしくはロボット施工など)が選択肢として自然とあげられている光景」を挙げた。
そこでまず最初に作ってみた星座はこちらである。
この時は「過去から現在にかけて」「現在から未来にかけて」の2軸で考えていた。
みてわかるように、マインドマップのように、中心に自身の取り組む課題があり、その周りにその領域をとりまく登場人物・現象・商品などのキーワードをつなげていくというものである。(ざっくりというとそんな感じ)
まあ最初はこんなようなところからスタートし、中盤では以下の3つのような星座が出来上がった。
最初の2枚との違いは3ポイントある。
①最初の2枚は「過去から現在」「現在から未来」のそれぞれの星座を完全に2つの別のものにしてしまっていたが、中盤で生まれた3枚については「過去から現在」に関する星座の上に「現在の自分がいる領域」に関する星座を重ね合わせ、さらにその上に「未来」に関する星座を重ね合わせるというようなプロセスをとることで、全くの別物ではなく「レイヤーが重ね合わさることで1枚になる」を意識した点。
②そもそも星座の中に出てくる「星」として挙げているキーワードを建築や3DP領域に関するワード以外のもの、アンチテーゼ的なものも多数いれた点。
③振り向かせたいターゲットとして当初は「3DPrintingに全く興味のない人」を挙げていたが、これをもっと細分化して段階的に整理した点。
最終的には「まずは技術研究所やアカデミア、感度が高く自分でもモノづくりをする人」を1番最初にあげ、その次に「3DP技術についてはよく知らないが物作りをする人やクリエイター」が振り向くとし、最後に「3DP技術についてはよく知らないし物作りもしない人」が3DPrinting Architectureに振り向くというプロセスをとるように整理して星座を3レイヤーに分けて重ね合わせた点
3DPrinting Architectureにまつわるイデオロギーの星座の制作過程① 3次元でつくるイデオロギーの星座
このあと、何か物足りなくなった私は(誰かに指示された訳でもなく勝手に)3Dモデリング上で星座を制作することにした。
さまざまなワードを無作為につなげていくと整理がつかなくなるため、今回は試験的に「伝統的か先進的か」「文化的資本が高い(講義の中で提唱された概念であるが、わかりやすくいうとアーティストやアカデミアのこと)か、文化的資本が低いか(大衆的)」「アートとして突き抜けているか、テクノロジーとして突き抜けているか」の3軸で星を置き、それぞれを繋いだ。
その次に行ったことは、あえて3DPrinting Architectureというワードが入っていないところで切ってみて断面をみるという行為である。この行為の目的は、3DPriniting Architectureを語る上で一回3DP Architcureから離れてみることで何か新しいつながりが見出せるのではないだろうか、そこから新しいアイデアが生まれるのではないだろうか、という自ら立てた仮説を実証してみたかったからだ。
すると、「ロボティクス・こども・金属3DP」「アップサイクル・建築設計者・可愛い」「建築情報学会・国内アカデミア・音楽家・舞台美術・彫刻家」など今まではあまり交わってこなかったような人たち(アップサイクル×設計者はアリそうだが)が交わる可能性があるのではないだろうかという発見を得た。
そしてあえて3DP Architectureを含まない断面から作った新しい星座に出てくるキーワードをもとに3Dp Architectureについてシーンを描くという行為を行ってみた。この行為を目的は「3DP Architectureから離れてみることで新しいステークホルダーや新しいターゲットを取り込めるのではないだろうか」という仮説を試してみたかったからである。
このあと、プロトタイプまで提案したがそれについては今回のnoteでは割愛する。(また別の機会に)
3DPrinting Architectureにまつわるイデオロギーの星座の制作過程③ 星座を作る上で学んだこと
学んだことは以下の2点である。
クリエイターやデザイナー、建築設計者は「手を動かすこと」が大好きである。(私は信じているよ)一方で、1つの分野・領域の中に閉じてしまいがちでもある。
その中で、自らの領域を星座を作りながら「あ、こんな人も関わってくれそうだ」「こういう領域の人とも関われるチャンスがありそうだ」「こんな概念・考え方があるんだ」と自らの領域以外に開くチャンスを得られたのではないだろうかと感じる。また、メンバーは建築設計者は私のみで、他領域の技術者・ディレクター・市役所職員などなどと一緒に議論することが非常に面白かった。
他領域の人と話す上で大切になってくるのが「歴史への理解」「文化への理解」「社会への理解」である。中でも「歴史への理解」は大切であると感じた。
例えば、いきなり「3DP建築設計施工をしましょう」といっても理解されないが、「はるか昔、平安時代から土工さんが型枠に土・コンクリートなどを流して固めて建築を作る光景は現在でも変わらない。一方で、タワークレーンを用いた超高層建築など新しい建築施工の風景も街中でみられそれが当たり前になってきている。ここからさらにロボットを用いた3DP建築が見られる風景が介入しそれが当たり前になる世界が訪れることで新しい風景を作りたい」というような切り口で説明することで納得をしてもらえることがある。
他領域とコラボをするためには、新しい技術を取り扱う人間ほど、歴史について詳しく知ることの大切さを学んだ。
まとめ
イノベーションは突然変異的に、宇宙人が突然地球にやってくるように、降ってくるようなものではない。文化・歴史・社会の文脈の中で何かしらのとっかかりがあって生まれるものであるということをあらためて理解した。例えば、私が3DPrinting Architectureについて話す時、まずその前提やそもそもの建築の歴史、建築の作り方の歴史から丁寧に話さないとなかなか相手に伝わらない。このとっかかりが大切であるのだ、ということを学んだ。
一方で、これについては違和感もある。例えば私が「こういう世界観を作りたい」と話す。それに対して「つまりそれって、今の世界でいうと〇〇とか〇〇のようなものを作りたいって言うことですか?」という返答が返ってくることが度々ある。
これに対して強烈な違和感を抱いた。
私が将来的に目指すもの、および作り出したいイノベーションは、既存の概念や言葉では語れない何か、新しい言葉を作り出さないと伝わらないような何か、事例が存在しない何か、であるにも関わらずそれを既存の概念・商品・固有名詞で置き換えて理解されることへの違和感。自身の中で取っかかりがないと「わからない」で済ませてしまう行為への違和感。
思わず「その既存の概念・事例にわざわざ置き換える行為は話し手の伝えたいことを理解することを妨げてしまうのでなんか違いますよね」と言葉に出してしまったこともある。
新しい世界をつくりだすといいつつも既存の何かに置き換えて理解してしまう時点で新しくないのではないだろうか、既存の何かにも置き換えられない・取っかかりがよく分からないものへのちょっとした姿勢がイノベーションを妨げることもあるのではないだろうかと感じることが度々あった。
まだ未開拓・未知の領域について話す時、我々は「周囲の共感」を得られるようにプレゼンテーションをしなければならない。一方で、既存のわかりやすい何かに置き換えてしまった瞬間に面白さや新しさが薄れてしまう。このジレンマとの闘いであったように感じる。
最後に、今回の講義を主導した山内先生の言葉で印象に残った言葉がある。
それは「違和感を言語化して共有しなさい」という言葉である。
我々は能動的に学ぶ必要があり、自らが波紋を作り出すことで、それが世界を変えるかもしれない。その一歩が「違和感を言語化して共有すること」なのではないだろうかと私は解釈した。
私のnoteをきっかけとしどこかで波紋が広がることを期待してる。
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