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人生で1番衝撃を受けた日本語RAPの話

どうも。
今回は今までで1番くらった日本語RAPの1曲を解説しようかなと。
もちろんブッダの人間発電所だったり、ECDのロンリーガールだったりと数々の衝撃はくらってますが、中でも1番くらったのがこの曲です。





LIFE/志人






意外に思う人も多いかもしれませんが、この曲は日本語RAPの教科書があったら載せないといけない曲だと思ってます。

そもそも志人とは誰だ?と思うので軽く説明を。

なのるなもない、志人の2MCからなる降神のラッパー。RHYMESTERなどを排出した、早稲田大学のギャラクシー出身。吉本素直という名義で詩を執筆してるとの事。

初期のB-BOY PARKのMCバトルにも出てるラッパーですね。

この時代のバトルはKREVAスタイルが主流でした。
※KREVAスタイルとはゆっくりめのフローで語尾にわかりやすい韻を踏んでくスタイル。

しかし対戦相手の志人はこの時このクオリティでバトルに出てます。
1人だけ次元が違いますね。
当時はおそらく観客の耳が全く追いついてない。
時代を先取りし過ぎてたラッパーですね。


そんなラッパーの代表曲のLIFEの何がすごいかと言うと、言葉選び、フロー、構成、全てが当時から群を抜いてました。
そしてそれは未だに新鮮で色褪せる事がないです。
日本語RAPの最高到達地点がここなんじゃないかと思ってます。



リリックや歌詞という表現よりも詩というのがピッタリだと思いますので、詩を解説と共に。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
※太字がリリックになります


「君は、こんな経験はあるだろうか?」

まずは冒頭からこう問いかけられます。
ここからこのLIFEという物語が始まります。

『いきなり思い立って引き出しにしまい込んだアルバムを引っ張り出しては長々眺めてた事あるかい?

静かにめくられるページ 遙か昔の私の笑み 当時流行の懐かしい歌でも口ずさみ』

これは誰もが経験するんじゃないでしょうか?
中学や高校の卒業アルバムを眺める時ってあるじゃないですか。引越しのタイミングだったり。
ページ、笑みのフローがとても気持ちいいです。
本当に口ずさみたくなるフローです。

『時を忘れ永遠に夢中になり いつだってむつかしい顔をした僕の名は月兎
「望み 叶え 給えよ」を口癖に この気持ちを内胸にしまい込み 路地裏に打ち伏せり』

ここで出てくる月兎という表現は志人の別人格のことだったはず。実際このアルバムは志人/玉兎という表記になっていて、ここでは何故月兎になったのかは僕の想像力では辿りつきませんでした。

『友よ 僕のいつも隣に居た友よ

その後君は一体何処で何をしているのだろう?
心から僕そのものを受け止めてくれた君のおもろさは本物だぞ なくさずに守ろか

今頃、君は窓の向こう側のビルで孫の夢を見る良いパパになろうと
嫌というほどに見た現実に疲れては まぼろしの公園でいつもひなたぼっこ』


このブロックはアルバムを眺めながら、当時いつも遊んでいた友達に向けて問い掛けてますね。
きっと家庭を持って所謂一般的な幸せと呼ばれる人生を歩んでるであろう。
一方で自分は嫌という現実に疲れて、昔遊んでいた公園で日向ぼっこという名の黄昏に耽っているのかなと。

「なぁ 坊やよ なぞなぞを出そう 空の青いのは海の青さよ じゃあどうだろう 赤く染まった太陽光は何を映すのだろう?」

ここはHOOKなんですが、きっと幻の公園で出会った少年に問い掛けてます。
これは全く知らない少年なのか、はたまたあの頃の友人なのか、幼い頃の自分なのか。
個人的には幼い頃の自分に問うてるのかなと思ってます。

『上空にたゆたう
二艘のアドバルーン
あの夏をもう君は思い返さずにはいられないだろう』

ここからは2vers目です。
またもう一つの物語が始まります。
あの夏を連想させるワードとして、上空にたゆたう、二艘のアドバルーンを持ってくる辺りがセンスの塊です。
あの夏を連想させるキーワードとして1番簡単な言葉といえば、海だったり山や田舎町とかだと思うんです。
この二隻のアドバルーンだけで、すごい田舎ではないけどあの平成初期のノスタルジックな時代を思い出させてくれます。
ほら、もう頭の中に思い浮かべたらあの夏を思い出さずにはいられないでしょ?

『幼稚園の帰り、どうしても食べたくなったアイスを買いにデパートの屋上でちいちゃな遊園地を見つけて

急に上機嫌になった君は とても嬉しそうにほっぺたを夕暮れ色に赤らめて こう言ってた


「あのオジサンから風船をもらって 放したら消えてなくなって あの空にまたたいた 真っ赤っか な太陽になったよ」』

なんともいえないノスタルジーな情景が思い浮かぶ小説。オジサンから貰った風船が飛んでいって、それが太陽になってしまったなんて、あえて子供が表現しそうな言葉で伝えてます。
ここはでは屋上のデパートでの少年の思い出を振り返ってます。
おそらく1vers目に見ていてアルバムに屋上のデパートの写真があったんじゃないかと睨んでます。


『シャボン玉 バブルガム 飛ばしては消えたアルバム
あの空に揺らいだ もくもくのくもの様

パノラマ 七日間
極楽で過ごす僕らは
何の為に生きるか? 溜め息まじりの午後』

ここでHOOKなんですが、さっきのとはフローも何もかも違います。
そして最後のverseへと繋がっていきます。


『明日嫁ぐ事になる娘と同じ所にあるお袋の泣きぼくろ

今は亡きボクトツな祖父母

何も語らずにもくもくと働く多くの苦労をかけた父親とは全くの別の道を選んだ僕も

いつかは「オヤジ」と呼ばしてくれる日を待ちわび 気付かない内にこんなに育ってしまった私達は確かに

価値観は違えど一番近い所にいる 貸し借りし合いながら汝は感じたままに生きてゆけ』 

ここでは父母、祖父母、姉か妹がいる家庭なんでしょう。姉妹が結婚式前夜の気持ちですね。
家族の絆みたいなことを歌ってます。
価値観は違えど1番近いところにいる。
それが家族ってやつですね。


『無造作な町並み どうしたらいいのか分からない現実に立ちくらみ

恨みつらみ無きLIFEを送りたい

恥も外聞も捨てて 毎分毎秒に生きてみれば いつかは会えるんじゃないだろうか 自ら見つからなくした夢の続きとやら』

ここはまさにパンチラインですね。
恨みつらみ無きLIFEを送りたいというのは人間誰しもが思うこと。
夢というのは社会に出ると色々な事情で諦めてしまうもの。
でも志人は自ら見つからなくした夢の見つけ方を教えてくれます。
これは歳を追う毎に難しくなるんだよね。恥も外聞も捨てて毎分毎秒に生きるっていうのは。


『さらに空が再び 明るい虹が架かり 道端に弾き語り いきがった理由なんて無いさ

君がじいちゃんやばあちゃんになっても きっとずっと 好きだって言える事を1つごと追えば Forever』

ここでは今まであった物語の憂鬱やモヤモヤ、エモーショナルな感情、なんか全てを忘れさせるように雨上がりの夕方を思わせるような感じです。
追えばForeverのフローは気持ち良すぎます。
口に出したいリリックです。

『忘れかけたユーモアというものや 君にとってとても重要な日々の匂いや色は
街で見かけたチンドン屋 なびかせた黄色いハンカチーフ
やさしくなった自分をふと思い出すのさ
どこもかしこも 立ち止まる足場も無く
暇も無く 芝も無い
僕の居場所を探し出そう この 都会に お帰り』

気付きました?
そうなんです。
今までの物語はあくまでも空想の中の物語なんです。
ちょっと過去を振り返ったり、懐かしんだりする日があるじゃないですか?
それを全て振り返った後に、また現実を生きて行こうと。
1つ違うのは振り返る前までの自分よりはちょっと優しくなってます。
この都会にお帰りの一文でこの曲の全てを回収します。
大きく広げた風呂敷の畳み方を聴き手任せにせずに、最後にこの一文を、映画のENDのような見せ方として確立してるんです。
一本の映画を見た気持ちにさせる、詩、曲。
本当に右に出る人はいないと思います。



そしてちゃんと志人は最後に聴き手に問いかけてくれてます。


「なぁ 坊やよ なぞなぞを出そう 空の青いのは海の青さよ じゃあどうだろう 赤く染まった太陽光は何を映すのだろう?」

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