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素人ジャズライブへの雑感

十数年前にカルチャーセンターのジャズボーカル講座に入会した。
歌ってみたかったのと、どうせ歌うなら賑やかでカッコよさげなのがいいなと思ったのと、自分はそんなに歌が下手ではなくてむしろ上手い方と自認(真偽のほどはさておき)していたのとが主な理由だ。

講座は数年前に辞めてしまったが、セッションに行ったり時々ライブもどきをさせてもらったりしながら、細々と楽しんでいる。

ライブといっても素人なので、かつてのカルチャーセンター仲間を呼んで一人発表会をしているようなものだ。
一人発表会ないしは複数人発表会をしているのはもちろん私だけではなくて、今月はAさん、来月はBさん、みたいに定期的に誰かしらがライブをする。

持ちつ持たれつの関係だから、当然、こちらの一人発表会のときに来てもらった人のライブに足を運ぶことになる。
そうして気がつくと、月1くらいの割合で、いまいちだったり少し上手だったりするなんちゃってジャズボーカリストのライブを聴くことになっていた。(私もそのなんちゃっての一人なので、暴言はお許し願いたい。)

はじめのうちは「がんばってていいねえ」とか「お衣装が素敵だねえ」とか「あいかわらず美人だねえ」とか微笑ましく応援していたのだが、回数が重なってくると次第に、下手なりに工夫しているのか、下手なのにたいして直球勝負に甘んじているのか、まあまあ上手いけどそれだけなのか、まあまあ程度だけど創意工夫をして味わい深くしているのかなどが気になるようになってきた。

工夫というのはたとえばキメやリズムチェンジなどのアレンジをするとか、管楽器を入れるなどしてバラエティに富ませるとか、MCや曲順に気を使って飽きない構成にするとか、そういうことだ。
歌唱力で直球勝負できればそれに越したことはないけれど、そんな簡単に上手くなるものではないし、上手くないからライブをしてはいけないという道理はないし、そもそもお友だち同士持ち回りでやってるのだからライブをすること自体に文句を言われる筋合いはないのだ。

話が少しずれたが、とにかく素人なのだから、歌の上手い下手は言うまい。もちろん最低限の音程やリズムは取れてほしいところだが、無理なら無理で仕方がない。残念な部分が「味」となる場合もあるのだからよいのだ。

私がいちばん「これはどうかな」と思うのは、ライブをする姿勢だ。
仲間内とはいえ時間と労力を自分のために費やしてくれるのだから、それに報いることができるよう、少しでも楽しい時間を過ごしてもらえるような工夫をしようと思っているかどうかが問題なのだ。

そのためには、同じ雰囲気、テンポ、リズムの曲ばかりただなんとなく並べていてはいけない。
たとえば最初の2曲でどーんと盛り上げて、3曲目くらいでしっとり落ち着かせて、4曲目には軽やかな気持ちにさせて、5曲目で今度は暗く沈み込むような気分に持っていって、ラストの6曲目では憂鬱を振り払うような景気のいい曲をもってくるとか、そういう全体の構成をもっとよく考えてほしいのだ。

また、自分が好きな曲ばかりを並べるのもどうかと思う。
誰もが知っているような曲ばかりならよいだろうが、「知る人ぞ知る」類の曲をひたすら歌われてもつまらない。やはり知ってる曲の方がお客さんとしては安心して聴けるし、一緒にそっと口ずさむこともできる。
もちろん全曲を有名曲でそろえろということではない。バランスが大事なのだ。
「知る人ぞ知る」は6曲中の1曲くらいでおさめるのがよい加減だと思う。
日本語の曲のジャズアレンジとか、原曲が日本語の英語バージョンとか、そういうのが入るのもいい。だって日本人だもの。
英語がわかる人もいるけど、わからんまま雰囲気で聴いたり歌ったりする人も多いわけで、日本語関連ならそういう人たちも楽しめるから良い。

目線も大事だ。
歌詞が飛んでしまうのが不安だからと、歌詞カードを頻繁に見ているのはいただけない。練習不足が露呈するばかりだ。
また緊張するからとあさっての方にばかり目線をやっているのももったいない。目の前にいるお客さんからすれば、誰に向かって歌っているのだと思うだろう。

マイクを持っていない手も私は気になる。
お化けみたいに手の甲をだらりと見せているの。あれ、好きじゃない。
なんかみっともないと思ってしまうので、マイクコードを持っておくとか、リズムをとるとか、いっそ要所要所で振付を考えてみるとかして、脱お化けを試みていただきたい。

思い付きのみでMCをするのもどうかと思う。
もともと話上手な人はそれで十分お客さんを楽しませることができるのだろうが、アドリブで話すのが苦手な人は、せめて台本を用意すればいい。
台本をがっつり読んでもこの際いいい。台本を丸ごと読むのはちょっとどうかと思うなら、頑張って暗記するしかない。
もちろん完璧でなくたってかまわない。多少しどろもどろでも、考えてきた内容を一生懸命話そうとしている姿勢が伝われば、お客さんだって辛抱強く耳を傾けようという気になるはずだ。

まだまだたくさん言いたいことはある。
何せ私は聴衆としてはわりと経験を積んできているのだ。
カルチャースクールに入るまでは、ライブといえばプロアーティストのやるものとしか思っていなかった。
好きなアーティストのライブには、時間もお金も惜しむことなくせっせと足を運んだ。
声が枯れるほどに叫んで最高に盛り上がったライブや、アーティストの独特な世界観にどっぷり浸るライブなど様々だが、すべてに共通して言えるのは、申し分のない実力を持っている人たちが聴衆を楽しませようと構成や演出やアクションを練りに練って考え、それを全力で体現しているという点だ。

繰り返して言うが、私も同じ穴の狢だ。だから自戒を込めて言うのだ。

「我々は縦にしても横にしても素人だ。
 素人がライブなんで大それたことをするんだから、プロの1000倍練習して工夫して楽しませる努力するのが最低限のマナーだ。
 実際はそれをしたってプロのライブの素晴らしさにはとうてい追いつかないにしても、せめて心がけだけは忘れてはならないのだ。」と。


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