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初めての性病検査

それは10年ほど前に風俗をやっていた時のことだ。

風俗嬢たるもの、性病検査を欠いてはならない。それは店からも義務付けられていて、従わなければ出勤させてもらえないほど厳しいものだった。
当時わたしは男性経験すらまともにないまま風俗に従事していて、それまで性病とは程遠い生活を送ってきていたため、もちろん検査などしたことがなかった。
「その日」は、数ヶ月ほど出勤した後に訪れた。◯日出勤ごとに1回、などのような規定があるからだ。

検査のやり方は2つある。
店が提携しているクリニックで受ける方法と、店が提供している検査キットを購入して検査機関に検体を送る方法だ。

クリニックで検査を受けると万が一の場合すぐ治療が始められるというメリットはあったが、料金が高い・病院に行く時間を作らなければならないというわたしにはかなり都合の悪いデメリットがあったため、店が提供するキットを使わざるを得なかった。これなら、病院よりも安く検査が出来る上に出勤した際の空き時間で行えるのだった。
キットにはスワブやランセットが同梱されていて、自分で血液や膣分泌物などの検体を採取する必要があった。
わたしは注射が苦手で、どうしても自分でランセット(採血用の針)を指に刺すことができず毎回黒服を呼んでは針を刺してもらっていた。そこまでは良い。
クラミジアや淋病の検査は膣の分泌物をスワブ(長い綿棒)に付着させなければならないため、膣に挿入したあとその中を綿棒でぐりぐりとかき回さなければならない。

初めて検査キットを渡され、黒服から軽く説明を受けたわたしは説明書と睨めっこをしたあと、意を決してスワブを膣に挿入したのだった。
しかし次の瞬間、鋭い痛みがわたしを襲った。

初めてちんこを挿入された時、こんなに痛かったっけ?

わたしは思い出したくもない『初めて』を回想しながら、スワブをぐりぐりと回した。やっぱり痛かった。
性病検査がこんなに痛いのなら、毎回気が滅入ることになるな……。そんなことを思いながら、スワブを引き抜くとそこには鮮やかな血が付着していた。
奥に入れすぎたのかもしれない。次からは気をつけようとわたしは心に決めたのだった。
採取した検体を丁寧にパッキングし、封筒に源氏名を書き黒服を呼んで回収してもらう。
その際に「いやあなんかぐりぐりするやつめっちゃ痛かったっすわ。」なんて笑いながら話したら、黒服が「え? そんな痛いはずないんだけどな。」と不思議な顔をしていたのを覚えている。

そして、わたしは次の日恐ろしい体験によってその理由を知ることになる。

排尿しようと思った。だが、あまりにも痛くて出せないのだ。尿を排出しようとすると、その通り道が切り裂かれたように激しくびりびりと痛むのだった。半べそをかきながらようやく出した尿は、真っ赤に染まっていた。

わたしはスワブを、膣ではなく尿道に挿入してしまっていたのだった。

パニックだった。尿道を傷つけたのも、血尿が出たのもこれが初めてだ。いや、こんな経験が前にもあってたまるか。尿道を尿が通るたび、刺すような鋭い痛みが尿道を襲った。まさに地獄である。
どうにもならなくなったわたしは考えた末、泌尿器科を受診することにした。

『昨夕入浴中に転倒し浴槽の縁に股間を強打、その後から血尿が出ている』

苦しい。いかにも苦しい嘘だった。だが、本当のことを書くわけにはいかなかった。しかし医者や看護師はそんな嘘丸わかりのわたしの話を聞いても何も言わずに薬を出してくれたのだった。あの時ほど受診が気まずかったことはない。その後は1週間ほど痛みが続いたが、なんとか治癒したのだった。初めの数日は本当に地獄のようだった。
その後はこのことを教訓に、スワブを挿入する際は細心の注意を払うように気をつけている。

おそらく、わたしがこの先尿道責めに手を出すことは、ない。

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