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最中に虫刺され薬のCMが流れ、わたしはYouTubeのプレミアム会員になった

みなさんは、家に異性を招き入れる時の殺し文句を持っているだろうか?
「猫を飼っている」「シーシャがある」「ホームシアターがある」みたいなアレだ。わたしも自宅にホームシアターがあり、時たまそれを口実に誘うことがあった。まあ、わたしは女なので相手からすれば家に上がり込んでしまえばこっちのもんよといったところだと思うので本当は相手がホームシアターには1ミリも興味ないことはわかっていた。こちらだって知らん男と映画鑑賞するほど暇人ではない。
女の家に男が上がり込む時、男が興味あるのは女のまんこだけである。映画の内容よりも『この後どうセックスに持ち込むか』ということで頭がいっぱいのはずだ。
その日はTinderで召喚した年下の細身の男がやってきた。幸の薄そうな。わたしの好きなタイプとは真逆の。当時のわたしはとにかく引っ掛かればどれでもいいといった感じで誰彼構わずセックスしていたが、どの男もこうしてnoteの下書きに残っていなければ存在すらも忘れてしまうような存在だった。

シャワーを浴びて一緒にベッドに潜る。部屋の壁にはホームシアターから投影したyoutubeで何かのミュージックビデオが流れていた。雰囲気が出るようにチルな音楽を選んだ。
そしてどちらからともなく行為が始まる。男が上になりわたしの身体に触った。
すると突然、それまで流れていたチルミュージックが途切れ軽快な音楽に切り替わり「かいかいかい!かいかいかい!」と虫刺されの薬を持った子供達が元気よく歌い始めた。思わず2人で画面を見つめる。YouTubeを見ているとよく出てくる広告動画だった。突然のCMに雰囲気がぶち壊しになった我々は、CMが終わると行為を再開した。
だがそのセックスに特筆すべきものはなく、凡庸で、つまらないセックスだった。いや、おそらく普通のセックスだったように思うのだが、わたしは完全に普通のセックスでは満足できなくなってしまっていたのだった。男は汗を大量にかきながらわたしに向かって腰を振る。すると、こともあろうか先ほどのCMが再び始まったのだ。

「かいかいかい!かいかいかい!」

もうやめてくれよ。
そんなことを思いながら画面にやった視線を天井に戻す。男は腰を振ることに夢中になっているようだった。軽快な音楽を冷静に聞きながら、わたしは極めて冷静に、「あん、あん」と喘ぐ演技をしたのだった。

動画の途中で広告が挿入されないYouTubeプレミアムに加入したのは、それから数日後のことだった。

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