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わたしがカラオケの個室で泥酔セックスをしていた頃、友達は名前も知らない男と公園のベンチで将来について語っていた

言うまでもなく出オチである。

20代前半、わたしはクラブに入り浸っていた。ナンパ目的ではなく、当時はクラブミュージックにどハマりしただ音楽を聴きに行っていただけだったのだが、いつも行っていたクラブがナンパ箱だったらしくそれはもうナンパの嵐だった。
酒を飲みながら壁に寄りかかって音楽を聴いていると、通り過ぎる男たちが品定めするようにつま先から頭のてっぺんまでを舐め回すように見てくるのが気持ち悪かった。

今は亡きAviciiのリリースパーティーがあった日、わたしは友達と酒を飲んでいた。あの日は結構深酒したように記憶している。途中で2人組の男に声をかけられた。観光でこちらにきていると言う。しばらく4人で飲んだあと、片方の男にカラオケに行こうと強引に誘われ、泥酔したわたしはカラオケに連行された。どうやって行ったのかは全く覚えていない。気がつくとカラオケの受付にいて、男は店員と話していた。

個室に入り、さらに酒を飲む。そこで何を歌ったのか、そもそも何か歌ったのかすら覚えていなかった。男に奢らせる気満々だったわたしはそこでも浴びるように酒を飲み、酩酊した。当たり前である。

次に気がついた時には、わたしはソファに横になり、下着を脱がされ、大きく開かれた股の間に入った男が必死に自分のものをわたしの入り口に擦り付けていた。どうやら男は酒を飲みすぎて勃たなくなってしまったようだった。
わたしは至って冷静だった。抵抗もしなければ、セックスに応じることもせず、ただそこに横たわってそれが終わるのを待った。
男はしばらく頑張っていたようだったが、とうとう諦め、だらしない形のままのそれをズボンにしまうと「ごめん。」と言った。わたしは下着を穿くと「帰ろう。」とだけ言った。
外に出るとそこはすっかり朝になっていて、帰りはタクシーで駅まで送ってもらった。車内で男は自分についていろいろ話していたように思うが、全部忘れてしまった。どんな顔だったかももう思い出せない。

駅に到着すると、男はそのままタクシーで滞在してるというホテルに戻っていった。駅のロータリーで、連絡していた友達と落ち合う。

「ぽむちゃん、大丈夫だった? けっこう無理やり連れて行かれた感じだったけど。」

友達は心配そうにわたしに声をかけてきた。
大丈夫か大丈夫じゃないかと言われるとおそらく一般的には大丈夫じゃない部類に入るのだろうが、わたしは少し考えたあと答えた。

「大丈夫!」

友達はほっとした表情を浮かべたあと、昨夕わたしがクラブから強制連行されてしまったため、残された2人は行き場がなくなりなぜか公園に行ったことを教えてくれた。

「公園で何してたの?」
「なんかね、仕事の話とか、将来のこととか話した。」

なぜクラブで知り合った男と明け方の公園のベンチでそんなことを語っていたのかは謎だが、途中コンビニで温かい飲み物を買ってくれるとても良いやつだったらしい。逆じゃなくて本当に良かったと思う。
友達の話を聞きながら、わたしはあの男の名前すら覚えていないことに気づく。酒で忘れたのではない。覚える気がなかったからだ。
そうしてわたしは、またしてもどうでもいい経験を積み重ねたのだった。

わたしたちは始発電車に乗り込むと、それぞれの帰路についた。わたしは化粧も落とさず、泥のように眠った。

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