2020.3.13

・変われると思った。ずっと予感じみたものを感じていた。石垣島にくれば、何か変わるかと思った。

・冬と春の混ざり合う街を飛び出して、石垣島にやってきたのは今朝のことだ。朝6:10に羽田を立つ飛行機に乗るために、都内の温泉に宿泊して羽田に行くバスに乗ったのは朝の4時。思ったよりゆっくりと温泉に浸かってしまった私と友人は30分しか眠らず、昨日と今日を繋いだまま石垣島にやって来た。

・石垣空港は白くて清潔で明るい、小さな空港だった。空調は快適な温度に保たれて、到着した途端、ああ、バカンスが始まるんだ、と胸を躍らせた。

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・そこからソーキそばの親戚みたいなのを食べて、ホテルの方面に向かうバスに乗ったのが12時近く。驚くことに、ホテルのある方面に向かうバスが1日に4、5本しかなかった。

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・そういえは、空港にビジネスマンらしき人がいたが、一体何の営業マンだったのか気になる。石垣島まで遠路遥々、何を売りにきているのだろう。

・バスは思ったよりも田舎道を進み、揺られること約20分、辿り着いた玉取崎。ホテルに荷物を預けた私たちはとりあえず、展望台を見学することにした。計画はないが、時間はたっぷりあった。まずは玉取崎展望台に向かい、海を臨む眺望を楽しんだ。その後は、お洒落なレストランでお洒落な食事を。またしてもオーシャンビューを楽しめるレストランは、やっぱり清潔で、涼しくて、美しくて、非の打ちどころがなかった。

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・あまりに快適で、ついついレストランに長居してしまった私たちは、もう一度展望台近くの駐車場から海を見て、そこにあるベンチに寝そべったりした。日差しが暖かくて、寝そうになった。

・そうこうしている間に、チェックイン時間となったので、ホテルに戻り、そして寝た。3時から6時まで3時間、一度も目覚めることなく眠り続けた。昨晩の睡眠時間30分は短かったらしい。

・しかし18時には夕飯の時間だ。友達に起こされた私は夕食会場に向かった。夕飯はバーベキュー。強すぎる火力に苦戦しながら、肉を焼いて食べた。屋外で食べる食事はどうしてこんなに美味しいのだろう。ゆっくりと移り変わる夕暮れを見ながら、たまにハンモックに横たわって、のんびりと夕飯を食べた。

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・そのあと、星がよく見えると言われて海岸に繰り出した。石垣島(沖縄県)は、日本で唯一南十字星が見られる地域だ。南十字星を見るのを密かに楽しみに、ウキウキと出向いていったが、残念ながら時間が早すぎた。この季節の南十字星の南中時刻は大体午前2時前だ。夜8時では、まだ地平線の下に潜り込んでいた。

・だけど私たちは、海岸線に寝そべってぼんやりと星を眺めた。海の波打つ音だけが聞こえた。私たちの他には誰もいなくて、喧騒も、街明かりも、人工物もなかった。ビーチには闇と、海のうねりと、羽虫と、自然の遺物だけがあった。ポツリポツリと話しながら、1時間くらい、そこでそうやって過ごしたような気がする。

・友人は、流れ星を見たがった。「幸せになりたい」と祈るらしい。流れ星に祈るなら「金、金、金」が最も成功率が高いと話した。次点で「男、男、男」だ。

・闇に目が慣れれば、ビーチは明るかった。薄墨を溢したような夜空に、遠方の山の輪郭が見えた。潮の匂いが鼻に届いて、潮騒の他にカエルのギリギリという鳴き声が聞こえた。ビーチに寝そべっている間、心のどこかでずっと緊張していたように思える。薄明るい夜は、私たちの予想もつかないことーー例えば虫とかーーをけしかけてくるのではないだろうか、と、どこかでずっと穏やかではなかった。それに、もし、帰り道が見つからなかったら。なんてもしもが頭に浮かぶのだ。ありえない。なのに、心の中には恐怖の火種が燻っていた。自然はいつだってちょっと怖い。

・肌を撫でる風が冷たくなってきたところで、私たちは砂浜を撤退した。来た道はすぐに見つかり、ホテルはちゃんとあった。当たり前だ。じんわりと灯りの灯るホテルを見れば、ようやく胸を撫で下ろした。

・その後は、ホテルのプールサイドでのんびりと過ごした。後から考えればあれはナイトプールだった。真珠の浮き輪が欲しくなった。

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・プールに入るには夜が寒すぎたので、私たちは足を浸すにとどめた。それだってちょっと冷たかったけれど、なんとしてもこのプールと触れ合いたかった。

・プールサイドには、もう1組男の子2人組がいた。仲の良さそうな二人組で、彼らのうち1人はプールで泳いでいた。寒くないのかな、と思えば、もう一人の男の子が「寒くないのか」と問うていた。回答はよく聞こえなかった。結局、寒くはなかったのだろうか。

・缶チューハイを嗜みながら、結局また1時間くらいプールサイドで過ごしていた。石垣島は、本当に屋外が過ごしやすい。

・こうやって、自分を不快にするものが何もない環境こそ、考えるのに最適でないかと思っていた。理想通りだ。空も海も風も温度も。だけど、その目論見は外れてしまったようにも思える。少なくとも、1日目は。

・まだ出会えないのだ。心を揺さぶり、知識欲をかき立てられる何かに。思案の海に溺れるほどの何かに。こんなに快適なのに、と思った。思ったけれど、それだけだと気付いた。

・深夜、12時過ぎ。お風呂あがりに一人でテラスに出てきて夜空をみあげた。星が一つも見えないほど雲が出ていた。すぐに切り上げても良かったけれど、結局しばらくそこで過ごした。誘う夜風に引き止められたのだ。

・ブランケットの一枚でもあれば、眠れてしまいそうなほど快適だった。旅疲れもあり、うとうと目蓋を閉ざそうとするわたしの耳を、突然遮るものがいた。「ケケケケケケ、ケケケケケケ」おそらくカエルのなく声、目の前にある茂みから聞こえた。私はひどくびっくりして、すっかり目を覚ました。ぎょっとしながらその声を聞いていると、今度は呼応するようにギャーギャーという鳴き声。鳥だろうか。その間もカエルも鳴き続ける、ケコケコケコケコ、ギャーギャー、ギャーケコケコギャーギャケケケケケケ、石垣島の夜というのは、思った以上に賑やかだった。私はそれにびっくりした。だって、こんなに綺麗に手入れされたホテルの生垣に“自然“が住んでいたのだから。いや、考えたらわかる。ここは自然豊かな亜熱帯の島、石垣だ。大きなカエルも怪鳥もいるだろう。だけど私は、いつのまにか人間が手入れしている場所には全て、もう自然はないのだと勝手に思い込んでいた。そんなことない、なんで少し考えればわかるのにーーなのに、自然との距離に驚く自分に、気がついた。

・気付いた瞬間、ホッとした。そうだ、この感覚、これを求めていたんだ、と。だけど同時に、少し不安にもなった。石垣初日で得られたのは「これだけ」。あと3日で、私は気付けるだろうか。

・思案に暮れていたら、ずいぶん眠くなってきた。気がついたら、スマホを握りしめてうっかりと眠ってきまうほど。ううん、考えても仕方ない。とにかく、明日も早い。もう寝よう。


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